【ライトノベル?】Vオタ家政夫#11

クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~

11てぇてぇ『ゲームだってぇ、遊びじゃなくてほんきなんだってぇ』

【神野ツノ視点】

「あ、じゃあ、僕は部屋にいますから何かあったら、声かけてくださいね」
「あ……!」
「はい?」
「う、ううん、わかった! ありがとねー!」

 蜂蜜の紅茶を貰って、アタシは黙ってそれを飲んでいた。
 ボロ出したくなかったから、黙ってチラチラ弟君見ながら飲んでいたのが、気まずいと受け取られたみたいだ。選択肢間違えた。

 っていうか、何アタシ好感度上げようとしてんの!? え!? はあ!?

 落ち着くために、紅茶を飲む。はあ、落ち着くわぁ……。
 ルイジ君……いやいやいや!

 自分の思考のスパイラルにビックリする。
 そういうキャラじゃないだろ!
 アタシは……。

 気付けば、アタシはルイジ君の部屋の前にいた。
 いやいやいやいやいやいや!
 なんでだよ!
 行きたい場所指定したらすぐ飛ぶ恋愛シミュレーションかよ!

 自分にツッコむ。過去最高にイマジナリーツノちゃんにツッコんでる気がするわ。
 冷静になろう。
 つまり、これはあれだ。
 PDCAだ。
 振り返りだ。
 配信の感想を聞きたいだけだ。
 うん。

 脳内で何パターンかのシミュレーションを作り上げ、部屋をノックし声をかける。

「もしもし~」
「はい!? ツノ様!?」
「おーっす。ちょっといい~?」

 開けてもらった部屋は、完全なるVtuberのオタク部屋だった。
 その中に、アタシのグッズもあって、嬉しかった。ヤバい、にやけすぎるな顔。

「いや~、噂に聞いてたけど、すごいね~」
「あ、いや、お恥ずかしい……いや、恥ずかしくないです! これは俺の人生の全てですから!」

 つい言ってしまった言葉を全力で否定するルイジ君に笑ってしまう。

「そっか。ねえ、そんだけVtuberに人生賭けてる弟君から見て、お姉ちゃんはどう?」
「どう? というのは、姉としてですか? それとも、うてめとして、ですか?」

 急に目が真剣になる。え? そこ重要? でも、アタシが聞きたいのは……

「うてめ、として、かなあ……」
「なるほど! うてめ様はですね! 最近、ゲーム配信を多めにしてますが、それが良いかと。めちゃくちゃ下手なんですが、ファンが応援して、成功体験を一緒に出来るというのが最高ですよね。で、素直に心からお礼を言えるのが刺さっているかと。あとは、雑談配信の弟ネタが絶好調ですよね……弟、ネタ、が……」

 あ、フリーズした。ソウダネ、アタシもギリギリせめるタイプだけどアレは引くよ。
 素に戻っちゃうよね。

 ただ、めっちゃ褒めるな。この子。だったら、

「あの、ツノはどうかな……?」
「ツノ様ですか!? 最高ですね! ちょっとエッチなネタのチョイスもギリギリの線引きで最高ですし、ワードセンスは神です! なんであんなワードが出るのか本当にすごすぎます! 雑談で笑って、歌で泣いて、もう情緒不安定どころじゃないです!」

 褒めるなー! うれしいな! でも、

「あ、でも、個人的に、ほんと、個人的になんですけど、ちょっと心配もしてて」
「え?」
「あのー、最近やっぱり人気出過ぎてるせいでコメントとかでひどすぎるのとかやっぱくるじゃないですか。ツノ様って、実はめっちゃ優しいから、結構気にしてるんじゃないかなって」

 ヤバい。

「しかも、それで自分が傷ついてるのもそうだけど、それを言ってる人がそういう気持ちになってる理由とか考えてまた傷ついてる気がして、そういうコメントがパッと出てきた時に、ちょっとこう、声が上擦ってる感じがして」

 ヤバい。

「だから、その、俺は、ツノ様が頑張ってるの知ってるし、そういう人たちが言うのも仕方ない部分もあるんなら、倍応援するんで、めっちゃ好きなファンがいるってことも覚えておいてもらえたら!」

 なんだ、この子は。最高かよ。

 そうだ、ちょっと登録者数が伸び悩んでて焦ってた。
 同期が辞めたり休んだりして自分も病みそうになってそれでも踏ん張ってた。
 そんな中のうてめの活躍も、嬉しい反面、嫉妬してた。そんな自分に嫌気がさして……。

 ゲームが好きだった。歌も。
 ただ、ゲームが出来て、歌が歌えて、お金が貰えるなら最高じゃん。
 その位の気持ちだった。
 でも、負けず嫌いな性格が、アタシに火をつけた。

 可能な限りの、レベルを上げて、装備を整えて、攻略パターンを作り上げて、ファンの心理も恋愛シミュレーションみたいに読み取って欲しい言葉を投げて。

 でも、分かりやすく伸び悩んだ。
 理由は分かってる。

 限界だった。
 わたしは、人の心が分からない。
 いつからか、人の顔の横にステータスが見えているような気がしていた。
 好感度があって、評価ポイントがあって、選択肢があって、攻略法があって。

 そんな目で人間を見ている自分が嫌いで、人に会うべきじゃないと思って引きこもり始めた。
 そんなアタシに夢をくれたのがVtuberだった。
 でも、なったらなったで辛いこともある。当然だ。

 一番は、やっぱ人の声だった。
 気にすることはない。
 分かっていても、傷ついた。

 他人の事はNPCみたいに見てるくせに。

「ツノさん?」

 気付けば、ルイジ君が目の前で首を傾げていた。ヤバ、ミスった。

「あ、あははは。ありがとね、そう言ってくれて嬉しいよ。でもね、アタシって、冷たいんだよ。この人にはこう言ったら好感度上がるだろうなあ、って思って言ってるだけなんだよ。そこに自分の気持ちなんてないんだよ」

 あれ? アタシ、何言ってるんだ?
 あーあ、駄目だな。ゲームオーバーだ。アタシは、アタシをロールプレイできなかった。
 バグだ。バグってる。

「えーと。それでも、俺は、ツノ様やさしいと思いますけど?」
「え?」
「だって、それってちゃんと人の事見えてるってことですよね? そして、何が嬉しいか分かって言ってあげられるわけですよね? 出来ない人いっぱい居ますよ、そういうこと。それに、自分の気持ちがないって言いましたけど、あるじゃないですか」
「……?」

 ルイジ君の最後言った事が分かんなくて首を捻る。
 ルイジ君は困ったように笑いながら言う。

「ひとにやさしくしてあげたいって気持ちが」

 ぱりん。

 ルイジ君の横にあるステータスが割れた気がした。

 そっか。
 それは、アタシの気持ちなのか。

 笑いたい、怒りたい、泣きたい、叫びたい。
 それが気持ちだとばかり思ってた。

 でも、うん、そうだな。

 アタシの目の前の人は、『応援したい』人なんだ。
 それは誰かの為の気持ちなのに、この人の気持ちだ。

「えーと。あの、もし、何か食べたいとかそういう気持ちだったら、また、連絡さえ頂ければご飯くらいなら作りますから。あの、姉と仲良くしてあげてください」

 ごはん。

 ルイジ君のごはん。

 ああ、あのあったかさはそういう事なんだろうな。

 また。

 ルイジ君はそう言った。

 ヤバい、笑顔が……。

「ふ、ふふ……言ったね? また、すぐにでも食べに来ようかな」
「是非!」

 ひい! やめてくれ、そんな笑顔は効きすぎる!

 くそう、アタシと同じくらいの顔面レベル、フツメンのくせにい……!

 ヤバい、どきどきする……。でも、同じくらいの顔面レベルなら……。

「ね、ねえ、もし、もしさ、好きなVtuberの中の人と付き合えるとしたら、付き合いたい?」
「あ、それはないです」
「へ?」

 へ?

「その辺、俺は弁えているし、俺如きがそんなっていうのもありますから。それより俺は皆さんが元気に配信してくれることがなによりですから」

 へ?

 おやおや~、思ってたのと違うぞ。

 なんか腹立ってきた。

 こうなったら、コイツを、ほれさせt

「ツノ、累児と何を喋ってるの……?」

 ひぃいいい! 妖気を感じる!

 振り返れば、ブラコンうてめが青〇より怖い顔で立っていた。
 そして、その後も一緒に寝る前もじっとこっち見てた。こっち見んな。

 でも、アタシは魔法の言葉を知っている。

「弟君、うてめの事大好きだって」
「えへー」

 かわいいかよ。
 うてめがとろける笑顔でくねくねしてる。

 でもね、油断しちゃだめだよ、うてめ。
 アタシ、得意だからね。恋愛シミュレーション。

 ステータスも選択肢も見えないけれど、このゲームにワクワクしてた。
 そういうゲームの方がアタシ燃えるもんね。

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