【ライトノベル?】Vオタ家政夫#30
クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
30てぇてぇ『本当のひとりってぇ、さみしいものなんだってぇ』
『じゃあ、また明日の夜一緒にトケちゃいましょ……明日も一緒にイケそーだ。ちゅ』
配信を切った、振りをし、喘ぎ声を漏らす、振りをする。
ある程度まで聞かせたら、
『ごめんね、また、切り忘れてたみたい。いけない声聞かせちゃったかな? ごめんねぇ、ばいばぁい』
そして、今度こそ配信を切る。
身体が重い。これは本当に私の身体?
楚々原そーだ。
青かった髪が半分桃色に染まり、服も際どいものに変わった。
顔も目元が濃くなり、唇が艶やかになり、妖しい笑いが似合うようになった。
闇堕ち。
社長に命じられたのは、急激な方向転換だった。
『お前は、今までの清純路線からエロ路線に急転換するんだ』
『え?』
『そして、事故を装って、エロを出せ。アウトとギリギリセーフを繰り返せ。そしたら絶対に注目を浴びる』
『あ、の……』
『丁寧な配信をしてきたお前なら、ラインを見極められるだろう?』
『……』
『あとは、私の知り合いがいい塩梅のエロい台本を書いてくれる。それに従って、とにかく話題性を作って、あとは助平な男共を一網打尽にするんだ……いいな、これは社長命令だ』
闇に堕ちた聖女というストーリーが事務所の他のタレントを巻き込みながら描かれ、私は、楚々原そーだを作り続けた。生き残るために。
何も考えなくていい。
送られてきた台本を出来るだけ色っぽくやればいい。
コメントは見なくていい。
どのコメントも怖い。攻撃的なコメントも物凄く来る。
それに、毎日休まず配信するように言われた。
何も考えなくていいから、ただただ、毎日送られてきた台本演じろと。
休まなきゃ。
部屋はぐちゃぐちゃだ。
時間はあるはずなのに、何もしたくない。
『色んなVを見て、吸収しろ』って、『君ならそれが出来る』って天堂さんに言われたのに。
やさしい天堂さん。
やさしい。
リキッドさん。
リキッドさんとは連絡がとれなくなった。
社長命令だろうかそれとも……。
もういい。
ただ、眠りたい。
明日には、今の私が夢になっていると祈りながら。
そんな事あるはずないのに。
日が昇り始める前に。
眠れなくなる前に私は、毛布を被り、今一番安心できる夢の世界に逃げ込んだ。
けれど、永遠の眠りなんて、あり、えない。
お腹がすく、トイレにいきたくなる。
悲しい事に生きてる限り、永遠には眠れないのだ。
起きる。食べる。トイレ。台本に目を通す。
眠る。起きる。食べる。トイレ。眠る。
起きる。
「誰も居ない……」
私の周りには誰もいない。
少し前には、同期のくうちゃんや天堂さんがいて、あんなに笑いあっていたのに。
今はいない。
他のタレントの子達は私の闇堕ちに付き合わせてしまった負い目もあって、うまく話しかけられなくなった。オフコラボもしなくなったし、企画で一緒になるくらいだ。
誰ももういない。
いるのは、変わってしまった楚々原そーだに向けられる怖い目。
それでも、私は楚々原そーだを生きるしかない。
配信を始めなきゃ。
『っはあ……ごめんね、今日もイロイロしちゃってた。あは。こんばんは、闇に堕ちた楚々原そーだ。今夜もアナタと刺激的な夜すごしたいな』
誰だろう、この子。
ただただ、ズルいこの子は。
私だ。
ズルいのは私だ。
ただただ流されて。
言ってたじゃないか、あの人が。
『消費される人間になるなよ。お前は、大切にされるべき人間だ。だから、まず、自分で自分を信じて大切にしてやれよ。お前の分身を』
なのに、なんだ私は。
ごめん、ごめんね。そーだちゃん。
私のせいだね。
私が弱いから。
なんで、こんな事考えながらも配信は続けられるんだろう。
決まってる。
あの人が、喋りながら色んな事を考えられるように、一緒に配信の練習に付き合ってくれたからだ。
『すげーよなあ。喋りながら次の展開を考えて、コメント拾って……大変だよVtuberって。でも、お前は努力の女だって、俺は知ってるから。大丈夫、お前なら出来るよ』
あんなに付き合ってもらったあの練習がこんな風になっちゃうなんて。
『見せる側も見る側も人間だ。だからさ、俺はちゃんと魂あるプロになって欲しいんだ。みんなに。だから、誰に見せても恥ずかしくない。そんなVになっていこう。がんばろう!』
モラル無き闇のVtuber。そう呼ばれているのが今の私。そんなのあの人は求めてなかったはずなのに。
あの人の言葉を借りれば、私は、魂のない。もう人間じゃない。ひとでなしだ。
『がんばれ! お前ならがんばれる! お前が言ってたんじゃないかよ!』
がんばれ、なかった……。
そして、今夜も操り人形の私の魂なき芝居は終わる。
『じゃあ、また明日の夜一緒にトケちゃいましょ……明日も一緒にイケそーだ。ちゅ』
〈俺もイケそーだ〉
〈もう清楚には戻れないんですか?〉
〈キモイ。やめろ〉
台本が終わる。今日が終わる。コメントは途切れない終わらない。
配信も終わらない。終われない。今日も越えないと……。
でも、
口が開かない。嘘をつくことが出来ない。
もう、越えたくないって。
もう、終わらせたい……って。
『ごめんなさい』
終了画面のまま、私は喋り続ける。
『ごめんね~、アタシさ、アタ、アタシ……あは、私……ごめんなさいごめんなさい! もう、消えるので許してください』
〈え?〉
〈消えろ消えろ〉
〈マジかwww〉
『「ふひ」』
コメントを見て笑う。私の声なんて、届かない。
それはただの衝動だった。
私は這いずるように窓に向かっていた。
もう終わらせよう。私には無理だったんだ。誰かの力になるなんて。
ほら、結局一人じゃないか。
私なんて私なんて私なんて!
窓を開ける。
風が気持ちいい。風も落ちろって言ってくれてる。なのに、
誰かが叫んでる。酔っ払いかな。
ああ、雰囲気も何もないな。
でも、私にはお似合いか。お似合いだ。
身体を乗り出す。
すると、声がはっきり聞こえてきた。
「うそ、でしょ……」
声が、聞こえてきた。
「俺はっ! お前を応援してる! 色んな事に悩みながら! それでも一生懸命頑張ってるお前を、俺は! 俺は! 応援してるんだああああああああああああああああ!」
飛び降りようとしたベランダの向こうで、このマンションに向かって大声で『あの人が』叫んでいる。
『あの人』が。
天堂累児さんが、其処に居てくれた。