【ライトノベル?】Vオタ家政夫#31
クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~
31てぇてぇ『魂からの声ってぇ、きっと届くと信じてるんだってぇ』
それは、ただの勘だった。
『っはあ……ごめんね、今日もイロイロしちゃってた。あは。こんばんは、闇に堕ちた楚々原そーだ。今夜もアナタと刺激的な夜すごしたいな』
ただのいつも通りの、闇堕ち楚々原そーだのいつもの挨拶だ。
だけど、嫌な予感がした。
こわい。なにが? わからん。ただ、こわい。
心臓が高鳴り続けている。身体が冷たくなって震える。
「累児、どうしたの? 大丈夫?」
今日はお休みだから一緒に見ようと言ってくれた姉さんが隣で心配そうに俺を覗き込む。
「ねえさん、おれ……」
「累児」
姉さんは、俺を見て、優しく笑った。
「何か聞こえたんでしょ? 累児には」
馬鹿な妄想で、想像だ。
それでも、姉さんは、何も言ってないのに俺を信じてくれて、
「姉さん、俺、行ってくる」
「行ってらっしゃい。ちゃんと帰ってきてね」
「……うん」
俺は、スマホと財布を手にし、家を、オフコラボの聖地と呼ばれる我が家を後にする。
オフコラボの聖地。
勘違いさせてもらえるなら、俺のお陰もあって元気にてぇてぇ配信をVtuber達が沢山してくれるようになった。
その彼女達の笑顔が、魂の声が、俺の背中を押してくれた気がして、俺はまっすぐ前を向き、走る。
そして、タクシーを探しながら、アイツに電話をかける。
『ガガ!』
『もしもし……先輩?』
いつもの俺を馬鹿にした口調じゃなく、声がかたい。もしかして、配信を見てたのだろうか。
ずっと仲良しだった二人だ。何か感じるものがあったのかもしれない。
俺は、今からVtuberファンとしてのラインを踏み越えてしまう。
それで、追放されるなら仕方ない。
俺は、俺の大切な一線だけは、【Vへの愛】だけは守りたいから!!!
『頼む! ガガ! 教えてくれ! Vtuberファンとして失格なのは承知の上だ! アイツの! 楚々原の家の住所を教えてくれ!』
『……うん! お願い! 先輩! あの子、多分やばい! あの子を助けてあげて! 先輩なら、きっと!』
ガガから住所を聞くと俺はタクシーに飛び乗った。
その間もスマホは、アイツの配信を見続けた。
「すみません出来るだけ急ぎで! あと、ちょっと音うるさいかもしれませんすみません!」
「お、Vtuberですね? 私も知ってますよ。その子最近人気らしいですね」
「そうなんです! 頑張り屋なんです!」
アイツの頑張り屋で真面目な所は本当に凄くて、ガガなんかも素直に褒められて照れたり、褒め返しされてそーだが泣いたりして、マジでてぇてぇと思ったし、良いVtuberになれると信じている。
画面の向こうの、頑張り屋で泣き虫でクソ真面目だった楚々原そーだは、ケラケラと笑っていた。
怖いほど美しく。色気は溢れているけど、ただただ塗りつぶされたような色気。
破裂しそうなほど高鳴る心臓を抑える。
タクシーが辿り着き、お金を置いてダッシュで降りる。
嫌な予感は消えない。
部屋まで間に合うか。
それに彼女は開けてくれるのか。
「お客さん! なんか分からんが間に合うといいなー! がんばれよー!」
遠くからタクシーのおじさんが叫んでる。
そうだ……!
「これしかないっ……!」
俺は慌ててマンションの裏に回る。川沿いにあるそのマンションの裏側は大きな川原だ。
『ごめんね~、アタシさ、アタ、アタシ……私、ごめんなさいごめんなさい! もう、消えるので許してください』
スマホから楚々原の、そーだの、アイツの、本当の、魂の声が聞こえた気がした。
それは、絶望の声だった。
ばかがよ……!
それはお前の本当に伝えたかったことじゃないだろうがよ!!
そして、何かバタバタという音。
「すぅうううううううううう……」
俺は大きく息を吸う。
破裂しそうなくらい空気を思い切り吸いこむ。
俺はまたラインを超える。罰は受け入れる! でも超える!
俺は俺の譲れない一線を守る為に! 俺は! 叫ぶ!
俺が叩かれるだけならそれでいい! そんなの平気だ屁でもない!
「聞いてくれえええええ!」
俺の声を! 思いを! 愛を!
「俺はっ! お前を応援してる! 色んな事に悩みながら! それでも一生懸命頑張ってるお前を、俺は! 俺は! 応援してるんだああああああああああああああああ!」
どこの部屋かも分からない! もうこの方法しか声を届けられない!
なら、俺は叫ぶ! 俺のVtuberへの愛をありったけ込めて全力で叫んでやる!
マンションの住人たちが窓を開け、出てきて、こちらを見ている。
「うるせーぞ!」
「よっぱらいがよお!」
「近所迷惑だろうが!」
「しね!」
そんな声も飛んでくる。
配信で叩かれるVtuberへのコメントは見慣れている。
けど、リアルに怒られると。目的があっても痛いな。すごく痛くて怖い。
でも。
それでも構わない。
構わないから、声を、声を聞かせてくれっ!
俺は頭を下げ続けながらも彼女の声を待った。
俺は、待ち続ける。
配信では、もう彼女の声は聞こえない。
頼む!
頼む!
頼む!
届いていてくれ!
声は……かえって来なかった。
警察がやってくる。
「あの、ちょっとお話を……」
これ以上、何か起こせば姉さんにも迷惑がかかってしまうかもしれない。
「はい。ご迷惑を……」
その時だった。
「待ってください!」
その声は相変わらず綺麗で、けれど、痛々しくて……きっと必死に頑張ってきたんだろうな。
「はあはあっ……私も、いきます。この人が叫んでくれた理由を、わた、私が、説明します。だから、私も、連れて行ってください」
ボロボロだけど、それでも、必死に生きていてくれた彼女が、其処にいてくれた。
それだけで俺にとっては、てぇてぇよ。