英雄たちのアシナガおじさんが冴えない私なので言い出せない#18

第18話 天才魔法少女の周りには敵がいっぱい

 それはリアとレクサスが食事をしに行く途中でのことだった。
 小さな子供に声を掛けられ呼ばれたのだ。
 何事かと思い後をついていくと、そこには大勢のゴロツキたちが待ち構えていた。

「よーし、ガキ。よくやった……おう、色男。てめえには用はねえ。用があるのはそっちの美人のお嬢ちゃんだ」
「……なに?」

 右目の上に大きな傷のあるリーダーらしき男に話しかけられリアは不快そうに眉をあげる。

「アンタが欲しいって言う貴族様がいてなあ。なあに、ちょっとオレ達に付いてきてくれればいいんだが」
「いやよ。アタシは誰のものにもならないわ。あの方以外」
「はあ~……なら、仕方ねえか。元々説得なんてガラじゃねえんだ。力づくで連れて行」
「〈火球〉」

 リアがそう口を開くと、リーダーの前にいた男が炎をあげ悲鳴をあげる。

「な……! そうか、この英雄候補の女は略式詠唱だったな……!」
「あら? 知ってくれてるのね? ありがとう。で、どうする? やるつもり?」
「そのつもりだよお!」

 リーダーが手を挙げる。すると、ゴロツキ共が一斉に襲い掛かってくる。

「リアさん!」
「レクサスさん! ここはアタシが! 逃げて、みんなに伝えてください」
「リアさんだけ置いていけるわけないでしょう! 風よ」

 そう言いながらレクサスは、詠唱の短い低級魔法と剣を振るいながら応戦。
 それを見てリアもゴロツキたちに向き直り、魔力を高める。

(まずは状況確認。あのリーダー以外はそこまでの強さじゃなさそう……いや)

「レクサスさん! あっちの奥にいる二人!」
「魔力が高いんですよね! 大丈夫、視えてます! 彼らは俺が!」

 魔力は単純に魔法の威力だけではなく、その人の強さを表す。
 リアは魔力探知で、レクサスは魔視眼鏡を通して、相手の強さ、配置を把握していた。
 この中で強いのは、リアが指をさしたレクサス側の奥にいる二人の男が他のゴロツキ達に比べかなりの実力者、そして、リーダーがその上、次に、レクサス。そして、最も強いのはやはりリアだった。

(圧倒的な魔力、流石だな)

 魔視眼鏡を使って見る今のリアの身体は強力な紅い魔力に包まれており、レクサスは感嘆する。
 そして、その強大な魔力を持つリアは圧倒的力でゴロツキ達を捻じ伏せていく。

「〈火球〉! 〈火風〉! 〈火壁〉!」

 連続の略式詠唱魔法。
 輝く金色の髪を躍らせながら、炎を生み出すリアはまるで火の女神のよう。
 圧倒的で無慈悲な。

「……で、まだやる?」

 火傷でのたうち回る大量のゴロツキ共の海の上でリアは笑う。

「くそ……! 略式詠唱なんて反則じゃねえか……! おい! アレ使え! 出来たやつには治療代と酒代弾んでやるぞ!」

 リーダーの声でごろつき達は黒い禍々しい縄を持ってリアたちを囲む。

「あれは……?」
「レクサスさん、あれ、魔封じの縄です。あれを巻かれると魔力を封じられます。魔法使い殺しの魔導具です」
「そんなものが……」
「ああいう魔導具は発動の条件があります。確かあれは……結ぶのが条件だったはず。当たるだけなら大丈夫なので、抵抗してください」

 じりじりと距離を詰めるごろつきの見据えながらリアはタイミングをはかる。

(それにしても……どうやってあんな魔導具を2本も3本も? 背後にいるのはよほどの金持ちね……だけど!)

「使いこなせなければ持ち腐れよ! 〈大火球〉! レクサスさん! 突っ切ってください!」

 レクサスの方に向けて大火球を放つと、ゴロツキどもは慌てて避け道が生まれる。

「ありがとう! リアさん行きましょう!」

 そういって差し出すレクサスの手にリアはぐと詰まる。

「レクサスさん! アタシは大丈夫だから走ってください!」
「わ、わかりました!」

 レクサスは差し出した手を慌てて引っ込め、駆け出す。
 だが、その僅かな間がごろつき達の態勢を整えさせてしまう。

「うわあああ! どけえ!」

 剣を振り回しながら突き進むレクサスはなんとか包囲網を突破するが、リアは左右から押し寄せてくる男どもを見て立ち止まる。

(駄目! もう間に合わない。むり……!)

 リアは、男が苦手だった。
 なぜかは分からない。
 だけど、物心ついたときから苦手だった。
 大人の男に近づかれるとそれだけで震えた。

 子どもは平気だし、孤児院で一緒に育ったケンは平気だった。

 視線も気配も何もかもが怖かった。
 モンスターの方が平気だと思えるほどだった。

 どんなにいい人だと分かっていても、うまく接することが出来なかった。
 男が怖かった。
 孤児院以外の女も、怖かった。

 孤児でありながら美しく誰もが見ほれる彼女を嫉妬する女は多かった。
 その嫉妬の目が怖かった。

 リアは、孤児院から出ることが出来なくなっていた。
 誰もが自分をちゃんと見てくれていない気がして、自分がみんなとは違う、人間ではないナニカである気がして、怖くなった。
 自分が、怖かった。

 リアは、今、男どもの欲望にまみれた視線に囲まれていた。
 突き刺さり嘗め回すような視線が、同じ人とは見てもらえていないような目が、怖かった。

「あ、あああああ……!」

 身体の震えが止まらず、リアは崩れ落ちそうになる。
 その時だった。

『キミは愛されていいんだよ』

 声が聞こえた気がした。
 自分の胸の奥から。
 声が。

 聞いたことのない声。
 それもそのはず、想像の声だ。
 理想の男性の声だ。

 リアにとっては忘れられない言葉

「負ける、もんか……!」

 リアは必死に震える膝を掴み体を起こす。

「負けるもんかぁああ!」

 見たこともないはずの愛する人を信じて、立ち上がる。

「アタシの初めては、その全てはアシナガ様のものなの! デートもキスも……そ、それ以上も何もかも! だから、アンタ達にあげるもんなんていっこもないのよ!」

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