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「基盤作りから強化の段階へ」アランマーレ秋田 小嶋裕二三HCインタビューVol.1

チームの基盤作り、Wリーグ参入への舵取り役を担ってきたアランマーレ秋田の小嶋裕二三HC。Wリーグ参入4年目となる今シーズンは、チームが新しい段階へ進むきっかけのシーズンとなるようだ。さらなる進化のために、小嶋HCが描くビジョンとキーパーソンについて話を聞いた。(取材日:5月11日 インタビュー&写真:宮本將廣)

今回のインタビューは能代電設工業株式会社様のサポートにより、実施させていただきました。企業情報などは以下のリンクをご確認ください。

昨シーズンの荒波には耐えきれなかった。

宮本 今回はお忙しいところ、ありがとうございます。この取材にあたり、僕がアランマーレ秋田を見てきて感じていたことを少しお話させてください。昨シーズンまでの3年である程度チームができて、大学バスケのトップ校からのリクルートもできるようになりました。その中で、「さあ、プレーオフへ!」というシーズンが昨シーズンだったと捉えていて、それがちょっとうまくいかなかったという印象を持っています。その中で、今シーズンからWリーグが2部制になります。そうなるとチームの作り方、考え方がまた変わってくるのかなと想像しているんですね。その辺りのお話を伺いたいなと思っています。
小嶋 そうですね。その話をするとなると、これまでのことを少しお話しさせてください。私は今シーズンで5年目になります。ここでお世話になるにあたって、チームの基盤作りをしてほしいと言われたんです。会社の理解もあって、トレーニングルームを作ってもらったり、体育館を建ててもらったり、寮の食事をアスリートに適したものにしてもらったり。そういったご支援をいただく中で、Wリーグを戦うにふさわしいチームになるという段階に入ってきました。その中で昨シーズンは成績によって1部になるか2部になるかが決まるというシーズン。正直、チームとしてはそういった戦いに耐えられるだけの体力がまだなかったと言わざる得ないかなと考えています。
宮本 昨シーズン段階でのチームの総合力としてということですね?
小嶋 はい。強豪チームはもちろん優勝を目指して戦っていました。一方で、1部参入を果たすために、絶対に8位までに入りたいというチームも存在していたと思いますし、我々もそうですが、あわよくば8位に入りたいというチームもあったと思います。ただ、他チームがさまざまな視点で強化を図っていた中で、率直に言って我々の体力では昨シーズンの荒波には耐えきれなかった。一昨年のシーズンに8勝できたことで、宮本さんのような印象を持たれている方が多かったと思います。でも、本当にたまたまなんですよ。全てのデータを見ても、8勝するようなデータはありませんでした。
宮本 それは確かに、僕もそうだなと思います。
小嶋 たまたまその日の調子が良かったり、相手の調子がイマイチだったり。そういった噛み合わせが良くて勝てた試合がいくつかありました。ただ、勝利することで選手も自信を持つことができるなど、相乗効果もありました。しかし、データでの裏付けは何もない。それがあっての昨シーズンだったので、応援していただく方からの期待も感じていたし、結果も残したかったのですが、チームとして戦う体力がまだまだないなということを痛感するシーズンとなってしまいました。
宮本 ある程度の成績を残せたことで、対戦相手の戦い方も変わってきますよね。
小嶋 そうですね。そこに対応することもチームとしての体力と言えたと思います。そんな中で、チームの基盤作りは順調にいったと思います。今シーズンからバスケットだけに取り組める環境整備もしていただきました(昨シーズンまでは選手が午前中に勤務をして、午後に練習を行なっていた)。チーム作りに関してはうまくいっていたので、自分たちも「あわよくば8位に」と思いましたが、結果を残せなかった。そこは心残りなんですけど、しょうがない部分もあるかなというのが正直なところです。
宮本 Wリーグ3年目で結果をある程度残すことも視野には入れつつ、それ以上にチームをしっかりと作るために、毎年少しずつステップアップしていく。となれば、バスケットだけに集中できる環境を得てた今シーズンは結果を残していくというシーズンになると思います。そういった計画が、小嶋さんには最初から明確にあったということですね。
小嶋 そうなんですよ。Wリーグに参入するときには2リーグ制になるという話はこれっぽっちも聞いていませんでした。そこは完全に想定外だったんですが、しっかりと毎年積み上げていきながらという青写真を描いていました。それに関してはある程度順調に行っていたと思います。ただ、本当に昨シーズンの荒波には耐えきれなかったですね。

大抜擢かもしれませんが、私の中では一択。

宮本 計画を立ててそれを実行してきた中で、リーグが2部制になりますとなった。それによって計画を変更されたのか。それともそれはしょうがないから変わらずにやるべきこと、積み上げるべきことをやろうと考えたのかがすごく気になります。
小嶋 それに関しては後者ですね。我々としてはブレずに計画通りに行きたかった。たとえば、「2リーグ制になるから、1部に参入するために強化費をかけよう!」としてしまったら、選手は集まったとしても、今後のリクルートの考え方も変わってしまう。それこそ選手がいたとしても、午前は勤務があった中でチームを作ることは難しかったと思います。私もまだまだ未熟な部分があるので、仮にそれでそのシーズンは成功したとしても、翌シーズンには絶対に反動があると思いました。そして、それを乗り越えていくチーム作りはイメージできなかった。1部に参入するためだけにという考えをきっかけに、チームがとても難しい問題にぶつかったと思います。
宮本 そういうやり方で1部に滑り込めたとしても、翌シーズンはそれ以上の成績を出さないと2部に落ちる。落ちていくのは簡単じゃないですか。お金をかけて選手を取ったけど、カルチャーとしては何も残らないということは避けたいですよね。
小嶋 そうですね。その方法で1部に参入できたとしてもおそらく翌シーズンは全敗だと思います。最下位の場合は自動降格になるので、結果的にはチームにとって大きなマイナスを作ってしまうと考えました。それであれば2部からのスタートになるけど、チームとしての体力をしっかりとつけて1部にくらいついていける力をつけることが、現実的な選択だったと考えています。
宮本 そうですよね。その答え合わせは3年後とか5年後とかにわかると思います。「あのときにしっかりとチームを作ったから、こういう成果が出始めたよね」という。そういう意味で、やるべきことをぶらさないことはすごく大事だと思います。
小嶋 そうですね。今度はそれが別の意味でのプレッシャーにはなりますけどね(笑)。
小嶋・宮本 ハハハハハ。
小嶋 今回は我慢することができたからこそ、計画通りに遂行して結果を残して、撒いた種が花開くようにしないといけないというプレッシャーがあります。それが今の正直な気持ちですね。
宮本 その中で、今シーズンはルーキーの樋口鈴乃選手がキャプテンに就任しました。この決断には驚きました。彼女に関しては、白鴎大学のときから取材をさせてもらっていますが、白鴎の佐藤智信監督にお話を伺ったときも、「樋口は白鴎が求めるガードのメンタリティを持っていた」というお話がありました。小嶋さんのバスケットボールにも核となるポイントガードが必要だと思いますし、彼女はそれを表現できる存在だと感じています。そういう視点では、彼女をキャプテンに指名した理由に納得はできますが、まだ早いんじゃないかなと感じるのも正直なところです。その辺りの意図を教えてもらえますか?
小嶋 おっしゃる通りで、1年目の新人選手をいきなりキャプテンにすることはリスクもあるし、他にキャプテンをできる選手がいないと思われてしまう可能性があるかもしれません。ただ、我々が先ほど話したようなプロセスを踏んでいく中で、今シーズンは結果を出さなくてはいけない。そして、今までとは違う段階を踏まなくてはいけないと考えています。要するにチームを育成していた状況から、強化の段階に入っていくと考えています。昨シーズンまでは基盤作りをしていましたけど、今シーズンはそこから勝ちを目指さないといけない段階に入っていくわけです。そこに樋口のような実績、キャプテンシー、そして技量を持つ選手が加入してくれました。これは我々にとってはとても大きなことなんです。であれば、それを使わない手はないですよね。宮本さんがおっしゃったようにガードとしての力も持っていると思います。しかし、それ以上に人としての力も持っている選手だと思うので、そういった選手はルーキーだろうがベテランだろうが、チームにとって有益であれば登用すべきだと私は考えています。大抜擢かもしれませんが、私の中では一択でしたね。
宮本 なるほど。すごく納得がいきました。ただ先輩たちがどう感じるかという部分もありますよね。
小嶋 そうですね。いきなりそのような人事をすると皆が動揺すると思ったので、ベテランを中心に先に話をしました。私はデンソーアイリスのときからほとんどのシーズンで、キャプテンは自薦、他薦で選手に決めてもらっていたんです。アランマーレ秋田でも昨シーズンまではその形で決めていました。でも、「今シーズンに関しては、キャプテンを指名したいと思う」と言ったら、みんなが「いいですよ」と言った後に、「で、誰なんですか?」と。
小嶋・宮本 ハハハハハ。
小嶋 「樋口にしようと思っている」と伝えたら、みんな、「え?」って顔をしてから、「わかりました。私もそれがいいと思います」という選手がほとんどでした。アーリーエントリーの期間で樋口の取り組み方、そしてプレーですよね。コートはもちろんですし、プライベートで交流する中で、みんなが彼女の素晴らしさを感じ取ったと思います。私もそれを感じていたし、他の選手がそう感じていることも伝わってきました。それはもう使うべきだと考えたんです。

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能代電設工業株式会社様
今回は以上の企業様のサポートにより、秋田での様々な取材を行わせていただきました。

能代電設工業様のサポートにより、秋田ノーザンハピネッツの取材も実施させていただきました。


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