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田口成浩選手のご家族にインタビュー(後編)

<前編はこちらから>

 ダブドリvol.16より、俳優の渡辺早織さんが選手のルーツに迫るコラム「あの日のあのね、」の連載がスタートしました。初回となる今号では秋田ノーザンハピネッツ田口成浩選手のご実家にお邪魔し、父直通さん、母敏子さん、姉啓子さんから幼き日の成浩少年がスター選手になっていく過程についてお話を聞いています。
 後編は物議を醸した千葉移籍と秋田復帰のお話です。SNSでの批判にご家族が動揺する中、ご家族に田口選手がかけた言葉とは?

渡辺 成浩さんが将来プロになると思った瞬間はありますか?
敏子 全くないです。私たちはただ楽しく応援していただけでした。高校でも大学でも親同士で仲良くなって、試合の応援のあとは飲み会をしていました(笑)。
直通 そもそも最初からプロになると決めていたわけじゃないんですよ。まずはJR秋田というチームに行こうとしたんです。でも会社に入るために試験を受けないといけなくて、それが難しい試験だったようでダメでした。そのあといろんなお誘いがあったりしたんですが、紆余曲折あってノーザンハピネッツに決まりました。その時の監督が成浩の恩師の中村和雄さん(以下、カズさん)で、その人の下で育ててもらったという流れです。JR秋田に行っていればプロにはなっていないので、七転び八起きという感じだったんですよね。
渡辺 転んだからこそ、起き上がって上のステージに行けたんですね。
大柴 2シーズン目からすでに主力になりましたよね。あのときは、ご両親にしてみたら驚きはありましたか?
直通 まさか試合に出られるなんて思っていなかったので「え、こんなに使ってもらえるんだ」という気持ちはありました。いつもベンチにいるとカズさんに怒られてましたね。
敏子 ベンチを見ている方が楽しい、みたいな(笑)。何をやっても怒られるというか、いじられやすいんでしょうね(笑)。
大柴 そこからオールスターに選ばれて、スター選手になっていくと思うんですけど、自分の息子がスター選手になっていくというのはどういうものですか?
敏子 やっぱりカズさんとのやりとりが面白かったですね。秋田の人たちも「ベンチの方が面白い」ってなって、人気に火がついたんです(笑)。
直通 カズさんとは親睦会をやるようになって、家族ぐるみの付き合いをするようになりました。だからカズさんが秋田から離れる時は残念な気持ちがありましたよね。つらかったです。
大柴 HCが長谷川誠さんに替わったときですね。お姉さんはどういう感覚でした? 弟さんがスターになっていくのは?
啓子 不思議な感覚ですね。なんか自分の弟だと思えないぐらい……顔はみんなに似てるって言われるんですけど(笑)。「この前の試合すごかったね」なんて声をかけてくださる人もたくさんいて。
直通 ファンだよね。
啓子 そう、いちファンですね(笑)。あっという間に追い越されてしまって。あとは「頑張れ!」って応援するだけですね。
大柴 成浩さんがスターになっていく過程で、チーム自体の人気も高まっていきましたよね?
啓子 それはすごく感じましたね。県をあげて応援してくれていると思います。みんなピンクのユニフォームなり、何かしらを身につけていたり、キーホルダーをつけていたり。
渡辺 どうしてここまで秋田の人の熱気が高まったと思いますか?
啓子 秋田の人って、とにかく地元が大好きで、秋田のことが好きで、東京に行ったとしても、東京の秋田県人会に入っていたり、地元愛が強い地域なんだと思います。成浩もこうやって地元に応援されているおかげで頑張れるのかなと思いますね。

渡辺 一回千葉(ジェッツふなばし)に行かれましたけど、その時はどんな感じでしたか?
直通 「千葉から話があるんだけど、どう思う?」という相談がありました。私は「自分が行きたいんだったら行けばいいんじゃない?」と答えたのを覚えています。まさかダメとは言えないですからね。
敏子 一応相談はするんだけどね。
直通 もう最終的な答えは決まっちゃってるから、「ダメだ」って言っても無駄なんですよ(笑)。
渡辺・大柴 ハハハハハ。
直通 ほとんど事後報告みたいなものですね。でもカズさんにだけは何も言わずに行ったみたいですよ。
大柴 言えなかったということですか?
敏子 前もって「お前は秋田の顔だから秋田を出ちゃダメだ」と言われていたらしく、言えなかったんだと思います。でも、これはカズさんから直接聞いたわけじゃないんですけど、「田口はちょっと外に出てみるべきだ。自分を試すには一番いいよ」って言ってくれたらしくて、それを聞いた時は泣きましたね。その時はSNSで「裏切り者」とか色々書かれていた時期で、親としては残念だったんです。でも成浩は「注目されているからこういうのを書かれるんだよ。こういうのも人気のうち。プロになればこんなの何個でもあるから」って、そういう誹謗中傷のようなものも受け入れていて。
直通 「自分の責任は取ったからいいよね。あとは自由にやる」と言ってましたね。キャプテンとしての責任を全うしたとは言ってました。
大柴 B1に昇格させてからの移籍でしたからね。
渡辺 戻ってきてくれたときは、地元の方たちは嬉しかったでしょうね。
直通 私たちも嬉しいですよ。応援しに行けますから。
渡辺 戻るという相談は結構早めに受けていたんですか?
直通 全部サプライズです。私たちには何も言わなかったんです。
敏子 さきがけ(秋田魁新報。地元紙)の方が早かったもんね(笑)。
一同 ハハハハハ。
敏子 新聞を見て、「成浩帰ってくるの?」ってなって……それがあの子の狙いというか(笑)。
直通 好きなんですよ、サプライズが(笑)。
渡辺 喜んで欲しいという。相当大きいサプライズですね(笑)。
啓子 でも、私の旦那と姉の旦那には言ってたんですよ。
大柴 え、そっちに?!
啓子 ニュースを見て旦那に「パパ! シゲが秋田に帰ってくるらしいよ!」って言ったら「あ〜んだ、んだのか〜」とか言いながら私が驚いている動画を撮っているんですよ。で、その動画を成浩に送っているんです(笑)。
一同 (爆笑)。
啓子 私の動画を観て笑っているんですよ。やられました(笑)。

直通 まあいろいろありましたけど、千葉ではファイナルで活躍した年もあれば出られない時期も経験したし、成長できたんじゃないですか?
啓子 一回千葉に出たことで、成浩も地元のために頑張ろうという気持ちがより強くなったと思います。
渡辺 今は秋田での優勝というのが一つの目標だと思うのですが、家族としての目標というのはあったりするのでしょうか?
直通 最終的には優勝してもらえれば一番いいんでしょうけどね。できれば次のオリンピックで選考されればなと思いますね。歳的には「大丈夫かな?」と思っているんですけど(笑)。
大柴 割とすぐですからね。
直通 もう2年後ですよ。35歳になるかならないかぐらいだな。
敏子 無理だと思う(笑)。
直通 夢だよ(笑)。
敏子 そうか、夢か(笑)。
渡辺 応援をずっとし続ける、それが楽しいと思えるのは素敵ですね。

<撮影:三浦雄司>



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