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「基盤作りから強化の段階へ」アランマーレ秋田 小嶋裕二三HCインタビューVol.2

チームの基盤作り、Wリーグ参入への舵取り役を担ってきたアランマーレ秋田の小嶋裕二三HC。Wリーグ参入4年目となる今シーズンは、チームが新しい段階へ進むきっかけのシーズンとなるようだ。さらなる進化のために、小嶋HCが描くビジョンとキーパーソンについて話を聞いた。(取材日:5月11日 インタビュー&写真:宮本將廣)

今回のインタビューは能代電設工業株式会社様のサポートにより、実施させていただきました。企業情報などは以下のリンクをご確認ください。

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素晴らしい相乗効果を生んでくれていますよね。

宮本 小嶋さんにお話を伺う前に、樋口選手にもお話を伺いました。彼女にとっては当たり前ですが、自分で考えて自主練をする。チームがこういうバスケットをしているからこういうプレーを自主練で行う。白鴎のときもそうだったんですが、考えて自主練をやることでそこに仲間が集まってくる。アランマーレ秋田でも先輩たちが集まってきて、「一緒にやっていい?」と参加してくれているそうですね。それは彼女が意識しているのではなくて、彼女のバスケットに対するスタンダードというか。
小嶋 本当にそうですね。
宮本 まだ期間は短いですが、彼女をキャプテンにしたことで小嶋さんが感じている変化などはありますか?
小嶋 今おっしゃった通りで、チームの皆が樋口のワークアウトに、「ちょっと混ぜてよ。やり方を教えてよ」と参加しています。気がついたら、先輩たちが敬語を使ってるんですよ(笑)。「次はどうすればいいですか?」なんて言って。
小嶋・宮本 ハハハハハ。
小嶋 本当に彼女の素質ですよね。ご両親の教育なのか、今まで指導された指導者の方々の影響なのか。いろいろなものがあると思いますが、そこに彼女自身が持っているものがプラスされているのだと思います。本当にいいワークアウトをするんですよ。私からしても、「面白いな、なるほどな。こういう意図でやっているんだな」と勉強になるところがありますし、他の選手たちは樋口のプレーを見ているから、こういうことをやればこうなれると感じていると思います。
宮本 あー、なるほど。
小嶋 どの選手も欲を言えば、1対1でガツンとアタックをしたいですよね。でも、それをやるためのドリブルスキルを持ち合わせていなかったり、フィニッシュスキルが足りないというマイナス要素がどうしてもあります。どちらかといえば、ここにいる選手はリーグの中でも、そういう足りない部分が多い選手と言わざるを得ない。ワークアウトなどを通じて、彼女がどうしてそういうプレーができるのかを紐解いていくと、こういう努力を続けてきたのかという気づきが得られる。このチームに足りなかったものは、そういったお手本となれる選手でした。その中で、昨シーズンは森ムチャが加入してくれて、すごくいいお手本になってくれた。もちろん加入してくれた選手はそれぞれがいい影響を与えてくれていますけど、そのインパクトで言えば樋口が一番大きかったと思います。みんなが彼女に吸い寄せられていく。素晴らしい相乗効果を生んでくれていますよね。

私ができる仕事と選手がやるべき仕事というものがある。

宮本 小嶋さんはGM(ゼネラルマネージャー)も兼務されていますよね?
小嶋 はい。「がんばれ、もっとヘッドコーチ」の略になっていますけど(笑)。
宮本 いやいや(笑)。僕は大学の取材にも行かせてもらっていた中で、樋口選手はアランマーレ秋田以外からの誘いがなかったと聞いて、すごく驚きました。アランマーレ秋田としてはいつから注目をしていて、声をかけたんですか?
小嶋 うちはトーナメント(関東大学女子バスケットボール選手権大会/4月下旬から5月上旬)が終わった後ですね。その前から声はかけていたんですけど、正式に白鴎の佐藤監督にお話をさせていただいたのはそのタイミングです。
宮本 昨年のインカレを優勝した白鴎大学は各ポジションに素晴らしい選手が揃っていました。その中で樋口選手は確かにいいガードでした。ただ、それ以上でもそれ以下でもない印象があったんですけど、僕も取材をさせてもらう中で、むしろ彼女が他のメンバーのスタンダードをあげていったんだということを知ったんです。そういう意味では、アランマーレ秋田もそういうステップを踏んでいくのかなと想像しています。これは僕の評価になりますが、アランマーレ秋田は全ての能力に長けた選手というよりは、一芸に秀でた選手が多い印象を持っています。そういう選手たちが樋口選手と出会ったことによって、どう成長していくのか。そこにすごく注目していますし、小嶋さんの立場からもいろいろなアプローチを考えていると思います。
小嶋 もちろん私がコーチをしているから、私が選手を育成して才能を開花させていく。顕在的なところはもちろんですが、潜在的なところも引っ張り出すという仕事を担っています。ただ、私ができる仕事と選手がやるべき仕事というものがあると考えているんです。
宮本 はいはい。コーチの責任と選手の責任というところですよね?
小嶋 そうです。やはり選手にそういった力量がどれだけ備わっているかは重要になります。たとえば樋口で言うと、トーナメントではそんなに注目する選手ではありませんでした。すごく威勢のいい選手だなー、元気のいい選手だなーぐらいの印象でした。宮本さんがおっしゃった通りで、他のポジションの選手の方が目立っていましたよね。だけど、ちゃんと周りを使っていたんです。それは大きな着目ポイントでした。「この選手がアランマーレ秋田に来てくれたら、周りのみんなを活かしてくれるな」とイメージができました。最終的に樋口に声をかけたのが、我々だけで助かったというのは正直なところですね。
宮本 ということは、インカレでのプレーをイメージしていたというよりは、みんなを鼓舞する姿勢やゲームを作る姿に注目したということですね。
小嶋 そうです。何よりバスケットをするときの表情がすごく良かった。たとえば、パスを出して仲間がシュートを決めるとニコッと笑う。誰かがミスをしても、「次、がんばるよ!」と声をかけられる。そういう感情が伝わってくるところに魅力を感じました。結果的に、秋のリーグ戦ではトーナメントよりもいい活躍をしましたよね。そして、インカレでは自分で攻めてもよし、パスをしてもよしという選手になっていました。富士通に行った桐原選手(桐原麻尋)とポジションが変わりましたよね?
宮本 はい。臨機応変な感じがありましたね。
小嶋 あれは樋口にとっても良かったと感じました。桐原選手がアタックして、樋口にシュートチャンスが増える形になった。桐原選手はアタックが魅力なので、その役割分担がドンピシャだったと感じました。佐藤監督の選手の活かし方が素晴らしかったですし、私も樋口は1番の選手だと思っていましたが、コンボガードとして2番もできるという発見に繋がりました。その後の皇后杯では、皆さんがご存知の通りですから。「あの選手、アランマーレ秋田に行くの?」ってみんなに驚かれましたよ。

佐藤千裕がそういう存在です。

宮本 これまでのお話をまとめると、今シーズンは基盤作りから強化に移行する1年目になると思います。今後はどのように積み上げていきたいとお考えですか?
小嶋 繰り返しになりますが、ひとつは結果を出すことですね。5年をかけてチームを作るイメージを持っていましたが、その基礎作りは順調にいきました。このペースでしっかりと強化の流れに乗っていくことが大事だと考えています。まずスカウトは絶対に大事なので、いいリクルートをして優秀な選手を集めていく必要があります。もしリーグが1リーグ制のままであれば、今シーズンはプレーオフを目指さなくてはいけないシーズンでした。しかし、先ほども話しましたが、どのデータを見ても下位なので、まずはシーズンが終わった後にそれなりのデータを残していきたい。あとは樋口の影響力もそうですし、環境の変化を活かしていかなくてはいけないです。1日練習になったり、2部制になったこと。特に2部制になったことで、チャンスを掴める機会は増えるはずですよね。
宮本 確かにそうですね。2部制になることは、ネガティブに言えばリーグのレベルが下がったと言えますが、レベルが統一化されるということは、目に見えてスタッツが上がる選手も増える可能性がありますし、接戦が増えれば選手の成長の機会が増えるはずです。
小嶋 そうですね。14チームで戦っていたアベレージと6チームで戦うアベレージだから、これは当然変わってくるはずです。上位チームとやった場合、5点しか取れなかった選手が15点取るなんてことも普通に起こると思います。それはリーグが2部制になるうえで期待したいことですね。
宮本 その中で、環境面が整備されたことはリクルートにもポジティブな影響を与えると思うのですが、ちょっと気になっていることがあります。僕は大学バスケの関東2部リーグも見たりするんですけど、ポテンシャルの高い選手っているじゃないですか。走ること跳ぶことはものすごいけど、ちょっとハンドリングがおぼつかないみたいな。その辺から原石を見つけて育て上げるなども環境が良くなったことで、トライできると思っていたのですが……。
小嶋 それは考えのひとつとして持っています。私がここに来るまではリクルートにかなり苦しんでいたようです。誰をリクルートするかではなく、誰でもいいから入ってよという状態だったんですね。だから、まずは強豪校から選手を獲得できるように努力してきました。そして、強豪校から送っていただけるようになり、本当にありがたく思っています。リーグ参戦4年目でここまでいい選手を送っていただけるようになったのは順調すぎるぐらいですね。そこには環境が良くなったことを皆さんに理解してもらえたこともあると思います。その中で宮本さんがおっしゃったように、周りのチームが目をつけていない選手を見つけてくることもひとつの手だと考えています。そういうキャラクターがチームの起爆剤になる可能性はありますよね。すでにそういう選手がひとりいて、佐藤千裕がそういう存在です。彼女は石川県の津幡高校から北陸大学に進学して、アランマーレ秋田に入団しました。最近の北陸大学はインカレ常連校になっていますが、彼女は強化が始まった1期生なんです。彼女がアランマーレ秋田に来ると聞いたときに、正直に言うと、「このレベルか……」と思いました。でも、彼女はほとんどの選手が「Wリーグでプレーしたい」と言ってアランマーレ秋田に来ていた中で、「Wリーグで活躍したい」と言っていたんです。
宮本 なるほど。意識がひとつ上だったんですね。
小嶋 そうです。だから、いつも遅くまで残って練習するし、シュートが入らなければ入るまでやる。本当に不器用なんですけど、何度つっかえてもできるようになるまで頑張る。そういう雑草魂を持った選手、ハングリーな選手はやっぱり大事です。多少シュートが入らないとか、ドリブルが上手くないなどは目を瞑ることができます。それ以上にこの子は1年で上手くなるなとか、3年後には化けるなという感覚をコーチとしても持ち続けたいと思っています。もちろん1年1年が勝負なんですけど、「この選手にかけてみよう」という選手に私も出会いたいし、その選手をWリーグで活躍できる選手にするための手助けをしたいなという気持ちは正直ありますね。別に教員でもなんでもないから、そんなことする必要はないし、僕の場合は一緒にやってる最中に「小嶋さんでよかったな」なんて思ってもらえることはないんですけどね。
小嶋・宮本 ハハハハハ。
小嶋 今まで関わってきた選手たちも、「今思うと」って言う選手ばっかりです(笑)。

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能代電設工業株式会社様
今回は以上の企業様のサポートにより、秋田での様々な取材を行わせていただきました。

能代電設工業様のサポートにより、秋田ノーザンハピネッツの取材も実施させていただきました。


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