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なんとコロナ自粛で稽古場予約が強制キャンセル!(「シバイハ戦ウ」第4話)

まさか借りた稽古場予約の全てが強制キャンセルとなるとは。

令和2年の年の瀬は、非常事態宣言の機運が高まり自粛待機に暮れてゆき
世界各地から報道されるコロナ猛威の印象がこの日本にも確実に忍び寄っていて
師走にソワソワと拍車が掛かり始め、自宅で静かに過ごす大みそかも満杯に注いだ水がまさに溢れるその刹那、年を明けて1月7日、ついに東京都が二度目の緊急事態宣言を決定した。

また宣言設置の翌日には僕たち
「シバイハ戦ウ」のグループLINEに山口雅義さんから顔合わせでチラシを頂いていた1月27日から出演する公演が中止・延期を決めたと本人から報告があった。

また芝居が、一つ消えた。

年始早々「シバイハ戦ウ」で借りていた稽古場がこの自粛で時短になることが決まった。
稽古場は中野区の区民センターを転々各所と借りることにしていたが2月8日まで20時以降の外出自粛にともない夜間貸しが短縮され、使える四時間が半分の二時間になってしまった。しかも借り賃は同額のままとコスパも悪い。

なので夜だった稽古予定を急遽、
昼からの稽古に変更せざるおえなくなった。

グループLINEにも
「この日とこの日を昼からの稽古にしようと思います。集まれますか」
と吉田テツタさん

この頃、新規感染者の増加が横ばいするも重傷者の数が訥々と刻み続けていた。
次々と運ばれる病院はもうすぐ満室、受け入れさえもタライ回され、呼び出しのベルは鳴り続けていた。メディアの高揚感もあり止留(とど)めることのできないムードとなってきた。
そのさなか非常事態宣言を3月8日まで一ヶ月も延長する、という議論も始まってきた。

そして僕らにも、悪い知らせが届いた。

延長の決定を待たずして
中野区の稽古場が2月8日までの「完全閉鎖」を決めた。
今月の新期感染者増加にともない先手を打つべく、区の対応だ。

つまり突然8日までの稽古場の予約が
全て強制的にキャンセルとなったのだ。
借りていた2月8日までの稽古場が突然、無くなった。

実は2月中のほとんどを中野区の施設で稽古をする予定だったが、このまま宣言が伸びたとしても7日以降の現在予約している部屋もいつ使えなくなるか分からないだろう。

その先?ホントにどうなるかわからない。

いや今は目先だ。とりあえず8日までの稽古場をどうするか?

ゆっくりと漠然と何かが進んでいる感じ。茫然(ぼうぜん)としている青い空にゆったりと巨大な雲が覆い被さって、その影が大地を包み込み始めているような

それは若い頃に読んだ演劇本の
ロシア革命前夜の劇場や稽古場の雰囲気にも似ていた

スタニスラフスキーの自伝や、
メイエルホリドの伝記にも
そしてワフターンゴフの演出本にあった風景と重なった

劇場で自由に公演がうてない、
あの台本のセリフが検閲で削除された

遠く聞こえてくるその知らせにも演劇人たちは
それぞれが稽古場や劇場に向かっている、
そして公演で芝居をしていた。

「(2月の)8日まではリモート稽古になるかもしれません。どう操作するかわかりませんが」

グループLINEに吉田テツタさんが、リモート稽古を打診した。

「おお最先端ですね!」
僕は去年の劇団公演で自宅からスマホでのZOOMを使ったリモート稽古を経験していたので、それもアリかと思った

「リモートか、、」
並ぶLINEの吹き出しに
池田ヒトシさんが懸念を示したように感じた。

そりゃそうだ。
僕みたいに劇団で芝居を創るなら、相手役は永らく知った仲間だ。
本番を何度も踏んでいるし相手役の手練手管が、まあだいたい想像できる。
作品的にも何年もやってきた作風やイメージが感覚的に染み付いている。
たとえ新作だとしても、なんとかなった。

これは、劇団作品ではない。
「シバイハ戦ウ」は「初めての座組み」と「新しい作品」だ。
台本が、そこに書かれているのはイメージに過ぎない。何もないのだ。
実際そこに役者同士が立たなければ直接、交(まじ)わらなければ描かれない
台詞も、何も存在しないのだ。

リモート稽古の危うさは、演った気になるところだ。
熟達の演劇人、池田さんは知っているのだろう。

スマホやネットの満栄に
SNSと配信映像テクノロジーの発展はとても便利に
誰とも容易(たやす)く秒単位で人と人とを近づけた。
しかし、どれだけ配信スピードが速くなってもどれだけ映像が鮮明になっても
目の前にいる相手自身に絶対直接、触れていない。
手触り、体温、息遣い、表情、匂い
それらは鮮やかなモニターの映像やチャットで流れる言葉の配列からは感じられない。
あるのは漠然とした、妄想だけだ。

コロナこそ、知らずに僕らを「触感不在」にする病魔だ。

いつから僕らは
いろんなことを頭ん中だけで処理して満足するようになってしまったのか
日々は表象されるイメージの印象に囲まれて
透けた薄いセロファン紙をかさねたような記憶だけが、
僕らの思い出になっていくのか。
コロナウィルス対応で、また加速するだろう
知らないうちに「どっぷりと」
毒なのか麻薬なのか、これが進化なのか

コロナこそ、まさに「ネット文化繁栄の功労者」だ。

すると池田ヒトシさんから
「杉並区が、まだ施設を貸している!」との知らせがあった。

「池田さん(予約を)おさえてください。
タッキーこの日と、この日、空いていますか、日暮くんも」とテツタさん。
「あと一応、もう一度みなさんの20日までの予定を教えてください」

とりあえず8日までの稽古場は、なんとかなりそうだ

演劇が劇場を謳歌していた時代
ロシア革命前夜のあの漠然とした
先の見えないところへ向かっていくような不安な情勢にも

チェーホフの新作に、どれだけ人々が喜んだか。

そして
確かにその後、時代は変わっていった
スタニフラフスキーが求めた演技術はのちにアメリカの映画演技メソッドに生かされメイエルホリドも60年代の前衛演劇で確かな礎となり、のちの舞踏と演技としてのコンテンポラリーの脈流にも影響を与えているのだろう。
ワフターンゴフのリアルと象徴とアマチュアイズムの手法はまるで日本の小劇場演劇だ。

今、コロナで世界が変わっていく
僕たちは小劇場という
古いOSのまま
翻弄されている


時代の胎動を感じながら、
稽古が始まり

シバイハ戦ウ。


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テッピンvol.4
「 シバイハ戦ウ 」
2021/03/12(金)~03/14(日)
@中野あくとれ
作+演出=吉田テツタ
キャスト(五十音順)
池田ヒトシ
瀧下涼
日暮玩具
山口雅義

戦いは
乗り超えてその足跡を
次の世界に
つなぐためだ。

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