ビジョンを描き、作品を描いた人

友人と飲んでいる時、アンパンマンができるまでの背景を教えてもらったのだけど、それがとてもよかったのでシェアしようと思う。

アンパンマンのイメージ

これまで僕の中でのアンパンマンのイメージと言えば、可愛い登場人物たちが可愛らしい事件を(アンパンマンを中心に)みんなと協力して解決いく、という程度の認識だった。

アンパンマンはお腹を空かせている子を見つけたら、頭の一部をちぎって渡す。力は弱まり、見栄えも悪くなるけれど、そんなことはお構いなしに。子供の頃から見ていたから何とも思わなかったけれど、大人になって改めて考えてみると中々奇抜な発想のもと、創られた作品だと思った。

アンパンマンは「悪いことをしてはいけない、みんなで仲良く協力しなければいけない、困っている人がいたら助けなくてはいけない」というような「よくあるメッセージ」を届けるための作品だとばかり思っていたのだけど、実際は全然そうじゃなかった。

インタビューの内容

そんなアンパンマンが生まれるまでには作者である、やなせたかしさんの原体験が大きく関係していたという。

以下は友人にシェアしてもらった、やなせたかしさんがインタビューを受けた時の様子だ。

正義というものはですね、そう格好いいものじゃないんですよ。
要するにテレビだと例えばスパイダーマンでも、何にせよ、格好いいんですよね。しかしね、正義というのはそんな格好いいものではない。本当の正義というのは。

例えば、電車の中でたばこを吸っている人がいるとして、そこは禁煙席ですから「あなたここでたばこを吸ってはいけませんよ」と言うのは正しいこと。
でも、そのために殴られちゃったりする、という人が結構いるんですよ。
だから正義を行うときにはですね、本人も傷つくんだってことは、ある程度覚悟しなくちゃいけない。

つまり我々が求めている正義というのは、自分の生活が安定していること、
あんまりひどいことがないこと、戦争等がないこと。そしてとにかく「食べる心配がないということを助けてくれる人」が正義の味方であって、何もミサイルをぶち込んだり、悪漢だからそいつをやっつけるということが必ずしも正義の味方、第一義のものではないと僕は思った。

寝なくて興奮したりですね。それから非常に重い40kg位あるものを担いでですね、夜も寝れずに歩いたりですね、したんですよ。
それは実はですね、さして辛くない、耐えられるんですよ。若いしね。一晩寝たら耐えられるんですよ。

一番辛いのはね、食べられないことなんですよ。もう本当にこれはね、我慢できない。世の中で一番辛いということは「食べられないということ」ですね。

それともう一つはですね。(戦争に)行くときには正義の味方なんだ。
中国の民衆はみんな苦しんでいるからそれを助けなくてはいけない。軍閥がすごいいじめているんで、中国の民衆を助けるために行くんだと言われてですね。

その通りだと思って、いろんなことをしてきたんだけども、戦争が終わってみたらですね、日本軍は悪魔の軍隊でですね。「悪いことばかりしている」と言われたんですね。
向こうが勝利した場合は何も言われない。

日本軍が悪魔の軍隊になってしまった。
そうするとですね、正義というのはA国の正義とB国の正義は違うんだ。
例えばフセインとアメリカが闘う。アメリカからすればフセインはすごい悪い奴。フセインからすればアメリカが悪い奴。

違うんですね。それならば本当の正義とはいったいなんだって。それはやっぱり今言ったように、「今食べられない人を助ける」というのが正しいんです。その時にやっぱり強く感じたんです。ずーと強く残っているんです。

戦争は絶対にするべきでないということとですね、まず食べられる。
それが一番大事なんだということはですね、骨身に徹してわかった。

ですから帰ってきてですね。いろんなこのスーパーマンを見ているうちに、「どうも嘘っぽい」と思うようになってね。スーパーマンは普段新聞記者やっててね、NYの空を飛んでててね。そんなことをやってたらNY中、大パニックになると思う。だから僕は間違っている、嘘っぽいと思った。

そうじゃないものを書きたいと思った。そういった気持ちがずっとあったんです。

発想と原体験は不可分

やなせさんは、従軍経験を通じてそこで見たもの、感じたこと(つまり原体験)を元にビジョンを描いた。そしてビジョン「困っている人に食べ物を届ける、立場や国が変わっても決して逆転しない正義のヒーロー」に基づいてアンパンマンという作品を描いた。

僕はこれを聞いてかなり感動してしまった。アンパンマンがここまで首尾一貫し、言行一致した作品だったのかと知り、頭が下がる思いでいっぱいになったのだ。

やなせさんは、とても穏やかな語り口調で、温かみのある人柄に思えるけれど、ブレない強い信念がある人だと思う。とても素敵だ。

「Whyから始めよ」で有名になったサイモン・シネックも言う通り、スタートアップでは「何故それをやるのか」を問われることが多い。

生きた時代は違えど、アンパンマンという作品は、これからの時代にゼロからイチを生み出す上で何が大切なのか、を教えてくれる作品でもあると思った。

実際に自分が経験したこと、そこで見たこと、感じたことをもとに描かれたビジョン、そしてそんなビジョンをもとに描かれた作品にはとても納得感と説得力がある。

「誰が何を言うか」はメッセージを伝える上でとても大切なのだと思う。

イノベーションを興すには発想が重要。そしてそんな発想と原体験は不可分なのだと改めて思った。

どのように学ぶか

うまく言えないのだけど、結局こういう大切なことって教科書には載っていないものだと思う。

じゃあどのように学ぶのかというと、自分が本物だと感じる人のアウトプットとその人の生きざまから学ぶほかないように思う。

ただ右から左に教科書を暗記するように知識を増やすのではなく、そこから何を感じ、どのように自分の学びにするか、がとても大切なような気がする。

そう考えると「誰についていくか」は自分の人生に責任を持つ上で、とても大切な意思決定の一つなのかもしれない。本物を見極め、その人の背中を追いながら、自らも本物になれるように精進したいと考えた。

(ここで言っている「ついていく」というのは、独立自尊を前提としている。念のため。)

やなせさんは亡くなってしまったけれど、アンパンマンという作品はいつまでも残り、僕たちにメッセージを届け続けてくれる。

僕はやなせさんの背中を追いたいと思う。

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ダッチ
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