見出し画像

デザイナーがデザインに慣れて、得意な表現が身についた時は要注意、ということについて少し書いてみます。経験を積んで得たモノには落とし穴があるかもしれません。

現在、いくつかのデザイン学校で講義をさせていただいているのですが、以前その中の学生からこんな質問をいただきました。


「自分がつくったデザイン、どちらがいいか迷ってしまって決められない。どうすればいいか」

ある課題に対して、バージョンの違いのデザインをつくってみたが、何がベストなのかが自分ではわからない、というお悩みです。これはデザインを勉強している学生だけでなく、現役のデザイナーたちも常に感じていることです。クライアント課題は一つでも、解決するためのデザインアプローチは星の数ほどあります。実際には、すべてのデザインが調査にかけられないこともありますし、最も正しいのは何か、私たちも本当はわかりません。

ただクライアントに提案するためデザインを決めなくてはならなく、その場合の判断基準は、かなりザックリ書くと以下となります。

◎ ブランドから外れていない。
◎ ゴールに結びつく。

イベント、PR、キャンペーン、マス広告、コンテンツマーケなど、すべてのプロモーションは、ブランドへの関心を高め購買を促進していくためのコミュニケーション。そのためには、好感度を上げてファンを醸成し継続的に指名買いされるようになることが必要であり、その観点からも上記の2点がデザインの判断基準となります。

これを踏まえて

「自分がつくったデザイン、どちらがいいか迷ってしまって決められない。どうすればいいか」


デザイナーの経験


この悩みが、フォント・色・レイアウトの空間処理などデザインに関しての問題ならば、プロのデザイナーは、それぞれの企業のブランドコンセプトやゴール設定をベースにした上で、過去のデザイン経験から答えを出します。

以前○○のデザインの時、あの色とあの色の組み合わせはうまく行った。
以前○○のデザインの時、あのフォントで組んだらキレイにできた。
以前○○のデザインの時、あのレイアウトはクライアントの評価が高かった。

などなど。


そういった過去のデザインの経験が自分に自信をつけて、一人のデザイナーの好きなフォント、好きなカラーリング、得意なレイアウトが生まれてきます。誰でもデザインする時に好きで使用するフォントってありますよね。まだ学生の方がこの部分で迷うのは、デザインの成功経験がないことが一因だと思います。

質には必ず量の保証が必要であり、量は経験することが必要です。学生の時にたくさんデザインをして試行錯誤するような投資は、将来のデザインへの判断力をつけることに直結するため重要な訓練です。



ここで冒頭に戻ります。


デザイナーがデザインに慣れて、自分の好きなレイアウト・デザインパターンを活用しつづけると、どうなるか?

自分の成功経験から生まれた表現方法なので、他の仕事にも応用したくなるでしょう。フォントや文字組くらいでは誰も指摘しませんし、そもそも誰も気づきません。最終的なアウトプットイメージも持てるので、デザインクオリティもあるはずです。できあがったデザインがクライアントからの評価も高ければ、次の仕事にもつながり、所属する会社の中でも評価を得れるかもしれません。


そのデザインを繰り返す。
ある時、周囲が気づくかもしれません。
「あの人のデザイン、いつも似てるよね」


すべての企業がそれぞれ異なる存在ならば、デザインもそれぞれ独自の表現になるはず。でもあるデザイナーがつくると、どこかデザインやレイアウト、観た感じが似てしまう。もちろん業種やコミュニケーションの企画が違うのでまったく同じ表現にはなりません。

新しい案件に臨むときは、自分の得意技を一度忘れて、まずはその企業や商品・サービスとゴールを再度理解し、結果に結びつくもっとも正しいデザインを考えることから始めるといいのでは、と思います(たとえ使用するフォントやレイアウトであっても)。

もちろん様々なメディアのルールがあるため、表現の根幹は変えることは難しいですが、そのルールを守った上で力量を問われるのがデザイナーです。

いつも新しいデザインをつくるために、本来はデザイナーの自助努力が必要、とは思います。自分で気づいて変えてみることが成長にもつながる、とも思います。そうしたデザイナーは本当に力がありますよね。でもなかなか本人は気づきません。

自社のデザイナー育成やデザイン部署の運営を真摯に考えて、この文章を読まれている方々もいらっしゃるかと思います。みなさんのほんの少しのアドバイスをキッカケに、ハッとしてデザインを変えることができるかもしれません。


「成功体験を躊躇なく捨て去れる者だけが、より強くなって生まれ変わる、何度でも。帰路に立ったその瞬間、執着しないという判断は誰にとっても難しい。刹那の思い切りを可能にするのは、外部からの評価に身を委ねないこと、あなたがあなた自身の本質的な価値を確信していること、それだけだと私は思う。」

信州大学特任准教授・法学博士 山口真由さん
FRaU web(2022年3月15日掲載)より
https://gendai.media/articles/-/93298

上記は、法学博士の山口真由さんがFRaUのWeb版に寄稿されたコラムからの引用です。ご自身の人生の岐路について書かれているので、デザイナーの表現方法のステップと比べることはできませんが、「何かを変えること」を考える時、度々読ませていただいています。


デザイナーが自分のデザインに飽きてしまわないように。自分のデザインを守りすぎないように。少し注意して観察し、適切なポイントでアドバイスしていただくことは、デザイナーにとって成長への大切な支援になると思います。


デザイナーの育成についての情報を発信します。

たき工房には約100人のデザイナーが在籍しており、日々さまざまな仕事で自己研鑽をしています。また、キャリアと適性に応じた研修・育成制度が、個々の能力向上に活用されています。
デザインには、一気に上手くなるような一発必中の魔法はありません。繰り返し反復することにより、少しずつ、デザインクオリティが上がっていきます。
このコラムでは、たき工房のデザイナーたちがどんな方法でスキルアップをしているのかをご紹介しますのでご覧いただければと思います。

いいなと思ったら応援しよう!