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心を繋げることからスタート〜④「好き」を発動させる時間の習慣化

※この記事は、2022年にDAncing Einsteinのwebサイト上で公開された過去のblogを転載しています。

 こんにちは。青砥美穂です。

 「心を繋げることからスタート」というテーマで現場の試行錯誤をご紹介させていただいている本連載。今回は、5つのステップのうち4番目の「確認、約束の時間(幸せな宿題づくりと秘密保持契約)」についてです。

1. 持ち物の連絡(宝箱をもってきてもらう)
2.   マインドを整える(対面前の感謝の儀式)
3. 全身全霊その子との出会いを楽しみその子を享受させてもらう時間(プレシャスタイム)

4. 確認、約束の時間(その子との秘密保持契約(笑)と幸せな宿題づくり)

5. 保護者の方への報告(ワクワクレポートタイム)

* 2〜5を繰り返す



(ここから初めて読んでくださる方、このまま読み進めていただいても単体で理解していただける内容となっております。&もしよろしければ遡ってお読みください。)


↓↓↓ 前回の記事はこちら ↓↓↓

子どもと対話するプレシャスタイム
《第3回・前編》

《第4回・後編》

(過去記事:第1回第2回





幸せな宿題づくりと秘密保持契約


 学生や大人から「自分の好きなことがわからない」とか「やりたいことが特にない」という相談を受けることがあります。これは、「ない」のではなくて、成長の過程で外部から提供される学びや刺激に一生懸命取り組むあまり、埋もれてしまった可能性が高いと思っています。だからこそ、心からそれを見つけたいと思いながら時間をかければ必ず見つけていくことができます。

 これまでたくさんの子どもたちと出会ってきましたが、好きなことややりたいことがないという子は一人もいません。それどころか、好きなことややりたいことで溢れています。

 私は、幼い頃から自分の「好きなこと」「やりたいこと」にのびのびと向き合う時間を確保し、それを習慣化することはとても重要だと考えています。

 そこには、その子の特性(ユニークネス)がたっぷり詰まっていますし、そこから「学び」に繋げていけばかなり効果的にしかも楽しく、深く、学んでいけるチャンスが広がるからです。

 そこで、「秘密が守られる環境」の中でワクワクする学びのモチベーション「幸せな宿題」を子どもたち、学生たちにつくってもらっています。


◇ 幸せな宿題づくり

 とてもシンプルなのですが、やりたくてたまらない宿題、ワクワクする宿題、そんな宿題を子どもたちにつくってもらいます。

 手順は3つです。

1)心からやりたい宿題を決める 

2)その宿題をやる上での目標を決める 

3)懸念点整理


 まず、宿題を決めてもらいます。ルールはシンプルにひとつ。すごくやりたい、心からやりたいことに限定してもらいます。
 例えば、「ゲーム」でもいいです。また、「たくさん踊る」でも、「好きなだけ絵を描く」でもいいんです。どんなことでも自分が大好きだったり、心からやりたいと思ったりすることを宿題にしてもらいます。
 それを子どもたちに伝えるといつも驚かれます。「え!?そんなんでいいんですか?「それを宿題と呼べるんですか?」などと(笑) はい、それでいいのです。

 次に、その宿題をやる上で自分が心から達成したいと思う目標を決めてもらいます。例えばゲームならスコアは何点とりたいとか、踊りならこんなステップを完成させたいとか、こんな絵を描き上げたい、など、達成できたら自分がものすごくハッピーになる目標です。
 こうして自分たちのやりたいことの目標設定を具体的にしていくと、子どもたちの目は輝き出すだけでなく、その子のこだわりポイントが見えてきます。そこに、その子のワクワクする「特性」が顔を出します。例えば、同じゲームを宿題にする場合でも、点数や順位にこだわる子、戦略にこだわる子、指の動きにこだわる子、ある特定の敵にこだわる子、それぞれ違います。(深く聞いていくとさらに明確になっていきます。)

 もうひとつ、最後にしているのが「懸念点の整理」です。その宿題をやるにあたって気になること、障害になることがもしあれば洗い出してもらい、心置きなく自分のこだわりに没頭できる要素を整えます。
 これまで多くの子どもたちを向き合ってきた中で、自分の大好きなことが学校の勉強や周りの大人に認めてもらいやすいことではない場合、それをやることに罪悪感を持っている子がたくさんいました。ある女の子は、新聞作りが大好きで、暇さえあれば自分の身の回りのことを新聞にしていました。ところが、ある日お母さんに「そんなことばかりしていないでちゃんと勉強しなさい」と言われ、叱られないように隠れてやるようになったそうです。そうしているうちに、新聞作りが罪悪感と結びつき、新聞をつくろうとすると嫌な気持ちがわくようになったと話してくれました。(教育者としての私はそんなこと決してしないのに、母親としての私はしてしまいそうだなあとフラグが立ちます。。)
 ですが、そんなふうに、大好きなことを止めてしまうのは実はすごくもったいないことです。なので、そうならないように状況整理をします。例えば「ここでのお母さんのポイントはちゃんと勉強をするということだから、勉強はちゃんとしてきっちりお母さんに示して、それから心置きなく新聞つくるのはどう?」など。ワクワクする宿題にワクワクした気持ちのまま取り組めるよう整えます。

 心からワクワクする課題に取り組むって、大人であっても本当に幸せなことですよね。しかも、それを応援してくる人がいたら、さらに楽しんでさらに深く取り組めそうですよね。
 どんなことでも深めていくことはとても大変です。子どもたちが大好きなことに没頭している中でも、なんらかの苦労を必死に乗り越えている姿をみかけます。でも、どんなに辛くても、自分の好きなことだと不思議と力が湧いてきます。それを体験してもらうことも重要だと考えています。このスキルセット、マインドセットは、あらゆることを学んだり成し遂げたりするときに活きてくるのではないかと思うからです。

 また、この「好き」なことはそれ以外の学びに繋がることも往々にしてあります。
 ひとつの例をご紹介すると、あるゲーム好きの男の子と、彼の好きなゲームを整理していくうちに、全て戦略を練らなくてはいけないものであることがわかりました。戦略に興味がある自分に気づいたその子は、歴史の戦国時代に興味を持ち始めました。そこから猛烈に歴史を勉強をし始め、成績がぐんぐん上がることで、他の教科にも意欲が湧いてきたとのことでした。

 このような作業を通じて、自分の「好き」を楽しみ深めてもらいながら、その子のことをさらに教えてもらいます。同時に、子どもたちには、「自分ってそうなんだ」と認識してもらいます。自分を知っていくことは生きていく上でとても大切ですよね。
 そして、回数を重ねたら、最終的には自分の「好き」を「役立てる」というところまで話し合いを進めます。自分の大好きなこと、興味、特性を役立てることによって自分への信頼、自信、学びなどが深められますし、何よりとても幸せな気持ちになれますよね。

 その子の大好きな世界を楽しんで深めることを応援させてもらうことは、心の距離も近づけてくれます。

 あなたのお子さんはどんなことが好きですか?子どもは、大抵の場合、自分の大好きなことに親が興味を持ってくれたり、理解を示してくれたりするのをとても喜びます。
 もしこれまでなかなかそんなチャンスがなかった方は、意識してそんな話し合いをしてみてはいかがでしょう。そして、その「好き」に関して今その子が持っている課題、こだわりポイントなども聞き出しながら、「好き」を応援したり、さらなる学びに繋げていくヒントを一緒に考えたりしてみてはいかがでしょう。きっと親子だからこそたどり着ける素敵なことに繋がっていくのではないでしょうか。


◇ 安全、安心をつくりだす秘密保持契約

 契約というと大袈裟ですが(実際書面をつくったりはしません笑)、最後に大切な約束をします。ここで話したことで口外して欲しくないことがもしあれば、命に関わるようなことでない限りは決して誰にも言わないという約束です。

 この約束をすることは、子どもたちが心理的安全を確保する上でも、信頼関係を築く上でもとても重要です。この約束のもと、安心して自分の好きなことはもちろん、他の様々な思いなども共有してもらえるようにします。
 何かを心配しながらや怯えながら取り組むことと、のびのび安心して取り組むことは、当然大きな違いを生み出します。その約束をした途端、さらに話したいことを話し出す子、宿題を変更する子も少なくはありません。

 これはやはり、否定されたり叱られたりすることを恐れる気持ちからくるケースが多いと思います。私が子どもたちから教わった大切なメッセージのひとつに、「叱ったり否定したりすることは大抵の場合意味がない」ということです。もちろん、非常に大切な意味をもつ場面もあることは否定しません。ですが、こちらの勝手な都合や気分、価値観で頭ごなしに叱ってしまう場合、子どもは単にそうされるようなことを隠すようになるだけなのです。それを教育現場で嫌というほど教わってきました。

 秘密が守られる環境、否定されない環境で、子どもたちはたくさんのことを話してくれるだけでなく、本当に自分が考えていること、感じていることに初めて気がつくケースもあるようです。
 本当の自分と出会っていく、繋がっていくという意味でもこの約束はとても大切です。

 皆さんのお子さんなら、そんな環境でどんな話をしてくれるでしょうか。もし興味をお持ちになったら「叱らない&否定しない日」というのをつくってみてはいかがでしょう。
 そして、叱ったり否定したくなったら、そうする代わりにメモをしておき、なぜ叱りたいのか、なぜ否定したいのか、他の考えや方法がないかをじっくり考えてみることをおすすめします。私も娘に対してやってみたのですが(生徒には楽々できるのに、娘には難しかったです(大汗))、単に余裕のなさからくることが多かったです。(やはりマインドセットは大切ですね)
 わざわざ否定しなくてよいこと、言い方を工夫すればわかりあえそうなことを見つけることができ、活かすことができているので、定期的にやりたいと思っています。


以上、もし参考になることがあれば嬉しいです。
とにかく安心できる環境で、子どもの「好き」を発動させる時間の習慣化、応援していけたらいいですね!!



 次回は連載の最終回。子どもと「心を繋げる」ための最も大切なことのひとつとして、保護者の方への連絡(ワクワクレポートタイム)のお話しを、それに関連した保護者の方が陥りやすい「心理的危機状態」についてのお話しとともにご紹介いたします。



お読みいただきありがとうございました。

今回のテーマ『幸せな宿題づくりと秘密保持契約』について、DAncing Einstein代表:青砥瑞人による脳の観点からのコメントをお送りします。

ぜひこちらもあわせてお聴きください🎶

《脳memo》ドーパミン(DA)系のモチベーションを活用するには、その回路を使うことが重要
神経伝達物質の観点から見たモチベーションは、大きく分けて、「心からやりたい!」というドーパミン(DA)系と、「イヤイヤだけどやらなきゃ」というノルアドレナリン(NA)系、2種類のモチベーションがある。
どちらもモチベーションを高めるうえで重要な役割を果たすが、ノルアドレナリン(NA)はストレスホルモンのコルチゾールをつくりやすく、集中力落ち、学習定着効率も落ち、長続きしない。一方、ドーパミン(DA)系モチベーションは、集中力や行動力、学習定着効率をも高めてくれる。
ただ、ドーパミン(DA)系モチベーションを上手く活用するためには、普段から自分の好きなことや、心からやりたいと思うことに取り組むことで、ドーパミン(DA)を放出し行動誘因するという回路をつくっておくことが重要。
<Use it or lose it>
神経細胞は、使われれば使うほどその結びつきは強固になり、使われなければ刈り込まれてしまうという神経科学の大原則。
<Neurons that fire together wire together>
繰り返し同時に発火する神経細胞どうしは、そのシナプスの伝達効率が増強される。心からやりたい!という思いと、そこに向かって行動する体験が同時発火して結びつくことで、その回路がより強固になり使われやすくなる。

⭐️モチベーションについて詳しく知りたい方におすすめの書籍⭐️

⭐️ドーパミンとノルアドレナリンによる「集中力」について知りたい方に⭐️