光と闇

はるか遠い宇宙の彼方の情報を集める時、光は障害になるのだそうだ。

明るくなりすぎたとき、見えすぎたとき。
そこから神秘性が失われていくものである。

頭上の真っ黒なキャンバスにたゆたう銀色の粒にどんな意味があるのだろう。どこかに向かうのだろうか。いつまでも答えが出ない問いは1日の終わりに必ずやってきた。

無数のビルに煌々と明かりが灯るまでは。

横一文字にのびる空と海の間の先に、どんな世界が待っているのだろう。いや、何も待っていないのかもしれない。期待と恐れが交互に渦巻く。いつまでも答えが出ない問いは、彼らの胸を膨らませた。

1秒で答えを与えられるウェブの世界に放り込まれるまでは。

彼女は、どんなことを考えてるのだろう。
彼は、休みの日にどんな映画を観るのだろう。
あの子は、どんな街でどんな風に育ったのだろう。
友人たちが、同僚たちが、恋人たちが、いつ、どこで、どんな風に知り合い、深めていくのか。そこに個性があり、ロマンがあった。

SNSの鎖につながれるまでは。

明るいことは良いこと。
そう思われがちだ。
部屋。液晶の画面。性格。なんでも明るいほうが都合がいい。扱いやすい。

今一度考えてみたい。

いま私たちに必要なのは、光だろうか。闇だろうか。

何もかも明らかにしてしまう光だろうか。
それとも、神秘がそこに宿る、闇だろうか。