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産まれてからこれまでのロードムービーは胸にしまい込んでおこう。
「プラス5,500円で30カット追加できます」
撮影を終えた後、流れるように待合室に通される。
丸ごとフォトスタジオに仕立てた一軒家は、最寄駅という最寄駅がないほどの住宅街にひっそりと佇む。危うく通り過ぎそうになるほどだ。
一階が撮影エリア。
どこまでもシンプルな空間に、たっぷりの自然光。
ひんやりとしたコンクリートの床は、和らぐ空気をほんの少しだけピンと張り詰め、非日常であることをさりげなく伝えてきてニクい。
*
娘の誕生祝いにと、友人たちが撮影チケットを贈ってくれたのは昨年の暮れ。
そんな娘も、間も無く1歳になる。
「いま○ヶ月なんです」と人に言えるのは、いつまでだろうか。
18歳になった娘を「216ヶ月」と呼ぶことを想像しては、ほとほと呆れる。親バカとは本当にバカになることなのだ。バカでもなんでもなってやる。
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撮影を乗り切った娘は、北欧の子供部屋のような待合室のソファで解放された
かのようにノリノリだ。
ものの半時間で写真の編集が終わり、これからスライドショーが流れるという。
部屋が暗くなてすぐ、プロジェクターが動き始める。
文字通りに、弾ける笑顔。
ハイハイで僕たちに近づく必死な姿。
クルンと巻くチャーミングなまつ毛。
つるんと伸びた襟足。
胸にしまい込むには惜しい、形として残したい姿がそこにあった。
今日の一瞬を切り取ったはずのスライドショーは、産まれてからこれまでのロードムービーのようだった。脳内で同時に流れたそれは、胸にしまい込んでおこう。
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「プラス5,500円で30カット追加できます」
「お願いします」と即答した自分は、親になったんだなぁと思う。
ほとんどお任せだった撮影で希望を出したショットの一つが、私と妻に手を繋がれて立つ娘の姿だ。
毎年同じショットを撮ることで彼女の成長を楽しみたいと思っているが、さて、いつまで手を繋いでもらえるだろうか。