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永劫回帰のネプリーグ


 頭が痛い。

 薄目を開けた。瞼の向こうに白熱灯の薄明かりがぼんやり浮かんでいる。

 上体を起こし、あたりを見回す。俺はワンルームの部屋にいた。窓の外は夜。

 なぜ俺はこんなところで寝ていたんだ? 思い出せない。

 いや、待てよ。……俺は、誰だ?


 意識が混濁している。危機感をおぼえた。飲み過ぎたか。自分の記憶を失うほど飲むことなんて今まであったか? いや、そもそも俺は酒を飲むのか。

 思い出せない。俺は俺の名前すら分からない。不安が俺を包みこむ。ここはどこで、いつだ。何か確かなものにすがりつきたい。

 そして、眼前の小さなテレビに気づいた。これを点ければ、少なくとも今が「いつ」なのかはわかる。電源ボタンを押すと、プツッと音がして映像が徐々に浮かび上がった。

 軽快な声が響く。


「ネプリーーグ!」


 俺はこの番組を見たことがある。芸人の……ネプチューンが司会の、毎週月曜7時に放送のクイズ番組。つまり今日は月曜の夜7時だ。目覚めて初めて得た確かな情報に、俺は少し安心した。


 では、西暦何年の何月だ? 俺は番組を注意深く眺める。漢字の読み方を答える「ファイブツアーズ」に、ヒントは見当たらない。

 原田泰造がよみがなを間違えてゲームは終わった。その様子を前も見たことがあるような気がした。「ファイブボンバー」が始まり、土田晃之が間違えた。それにも既視感があった。懐かしさすらある。全て見知っている感覚。

 俺は気づいた。これは何百回も、何千回も繰り返された光景。デジャヴではない。繰り返しなのだ。『ネプリーグ』は変わることなく同じことを繰り返す。何度も、何度でも。そして俺もまた、切り離された時間の中にいる。体を横たえ、瞼を閉じた。

 意識が遠のいていく。俺はまた眠る、伊東アナウンサーのナレーションを子守唄にして。目覚めるときっとまた月曜日。


2014年11月の「TVブロス」掲載のコラムに加筆・修正を加えたものです。

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品田遊(ダ・ヴィンチ・恐山)
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