18年連続観客動員数1位!リアル「サカつく」状態のドルトムントの決算/ビジネス戦略に迫る
スポーツビジネスを学んでいる者には有名な話ですが、世界一収益が安定しているサッカーリーグはドイツ1部リーグである「ブンデスリーガ」です。
世界一の収益安定を誇るブンデスリーガとドルトムント
単一クラブですと、バルセロナやレアル・マドリード、ACミランなどの伝統あるビッグクラブに馴染みある日本人が多いかと思いますが、リーグ全体の収益安定性では群を抜いて「ブンデスリーガ」が圧倒的トップを走っています。これには意外と思うファンも少なくないと思います。
クラブ単位で見ても、スペイン「リーガエスパニョーラ」のバルセロナがトップの観客動員数となっていますが、僅差の2位はドイツ「ブンデスリーガ」のボルジア・ドルトムントで、その観客動員数には驚かされます。
バルセロナのホームゲーム(カンプノウ)の平均観客動員数は最新の情報ですと平均81,683人で、2位のドルトムントは平均81,031人と肉薄している状態です。ちなみに、レアル・マドリーは平均66.899人の欧州全体で5位となっています。欧州の平均観客動員数のトップ10は、ドイツが4クラブ、イングランドが4クラブ、スペインが2クラブとここでもドイツの安定性が際立っています。
ブンデスリーガ2部リーグ > Jリーグ1部リーグ
ブンデスリーガ全体の平均観客動員数としても、2017年6月にドイツサッカーリーグが発表した数字で40,693人と、安定した集客できるリーグとなっています。そして、驚くべきはブンデスリーガの2部リーグでさえ21,560人の数字を叩き出していることです。
この数字はJリーグの1部リーグの平均観客動員数も超えており、単一クラブで見ても「鹿島アントラーズ」の平均観客動員数をも超えております。J1の大人気クラブですらドイツ2部リーグの平均観客動員数に追いついていないことを知ったときは残念であると感じ、まだまだJリーグ発展の余地が残されていると思ったものです。
500億円に迫るドルトムントの圧倒的収益性
ドルトムントは公式ホームページにて年次の「アニュアルレポート」を公開しており(ブンデスリーガ唯一の上場企業のため)、その売上高は3億ユーロを超えています。前年から比較しても1億ユーロの増収を果たしています。最新決算では4億ユーロにも迫り、日本円にして約500億円と驚異的な収益性を誇っています。
Jリーグで圧倒的な収益を誇る浦和レッズですら売上高60億円程度で、その収益性の違いは顕著なものになっているのです。
ちなみに、収益の構造は以下の通りです。
(ブンデスリーガ決算説明資料より引用)
わかりやすく収益に占める割合を示したものは以下となっています。
(ブンデスリーガ決算説明資料より引用)
Jリーグにはない収益構造であることが一目瞭然です。それは円グラフを見れば「Transfer deals」という項目の多さにびっくりします。日本語に直すと、いわゆる「移籍金」と訳される項目です。
国内リーグで育てた優秀な人材を海外移籍させることもさることながら、過去には「香川真司」をマンUに約16億円で売却するなど、優秀な若手人材を育成活躍したのちにビッグクラブに売却しているのです。
そして得た収益を、レアルマドリーのようにクリスティアーノ・ロナウドに数百億円で引き入れるような戦略を決してドルトムントは取りません。上場企業であるドルトムントの将来性を一人の選手にベットすることなど取らないことは会社経営者であれば当然の発想です。会社の収益のほとんどを、レバレッジをかけずに単一企業の買収資金につぎ込むようなものです。
ドルトムントは破綻寸前だった。リアル「サカつく」状態
ドルトムントは驚くべきことに2005年には1億8000万ユーロもの負債を抱えた破綻寸前の状況にまでありました。ビジネスを最適に進めればわずか10年で世界のトップクラブにまで上り詰めるリアル「サカつく」状態です。
再建の道は「基本的なファンビジネスの戦略」の実行にあったと分析します。
ファンビジネスの基本構造ですが、既存ファンの安定的なリピート率が重要なKPIの一つです。アイドルのビジネスモデルや、アミューズメントパークの経営の基礎科目で習う事項の一つです。
スポーツビジネスでいえば、実際にスタジアムに足を運ぶファンの数である「シーズンパス購入者数」が重要なKPIとなります。この「シーズンパス購入者数」をドルトムントは何と5万5000枚が完売され、その継続率はびっくりの99%となっています。SaaSビジネスを行う人であればこの驚異的な数字に驚きます。
しかもドルトムントは人口60万人しかいない小都市にすぎません。日本で言えば神奈川県相模原市が人口70万人超ですから、それを下回る人口基盤しか有していません。
エンターテイメント産業におけるカスタマーサクセスの重要性
ドルトムントがなぜこれほどまでにファンの継続性が高い理由はどこにあるのでしょうか。
世界全地域からの優秀な選手の獲得、それによるユニフォーム販売数など、その背景には優秀なスカウトとグローバルマーケティングがあることは間違いありませんが、基本的にはタッチポイントの多さが重要となっています。
ドルトムントには専門スタッフである「Fanbeauftragte」という部門が存在します。SaaS事業を行う者なら全員知っている「カスタマーサクセス」の役割に似た概念です。カスタマーサクセスとは既存顧客をより成功させるために継続率やアップセル(Negative ChurnがKPI)を狙っていく職種です。
要するに、リピーターを増やすための専門スタッフです。お客様の声を専門スタッフが聞き取り、それを実際に施策としてプロダクトチームに伝達する役割を担う昨今重要な職種として注目を浴びています。ドルトムントでは経営破綻の危機にあった2004年に「Fanbeauftragte」という部門が立ち上がっています。
チケットの料金は適切か。スタジアムのトイレの数は足りているか。ファンはどんなグッズを欲しているのか。全世界地域の中でツアーを行うにはどこが最適か。お客様であるファンの声を聞く重要性は言うまでもありません。
ドルトムントのビジネス戦略として目につきやすいデジタルマーケティング戦略などをピックアップする記事も最近では増えてきましたが、マーケティングで獲得したファン層をどうやって継続していくかと言う役割の方が重要であることは言うまでもありません。継続率が悪ければ、マーケティングでかけたコストを穴の空いたバケツのように次々と流れていくだけだからです。
日本のスポーツ関係者に伝えたいカスタマーサクセスの重要性
翻って日本のスポーツビジネスを見たとき、マーケティングは進んでおり様々なタッチポイントからスポーツを見にいく機会は増えてきました。しかしながら、一見さんお断りかのような独特な雰囲気に飲まれてなのか、継続して見にいく率は低いと言われています。
初めて訪れたファンの継続性を増やすために何をすべきか。と専門部署を、経営の直属組織として設けることで、経営層が観客数という大雑把なKPIでないメカニズムが浮き彫りになるからです。それでは、「継続率を向上させるためにはどうすれば良いか」について次回以降、別記事で紹介していきたいと思います。