平坂のカフェ 第4部 冬は雪(15)
あれから5年の年月が経った。
私は、専門学校での勉強を無事に終えて現在は絵画教室で講師として働きながらフリーのイラストレーターをして生計を立てていた。
同じように専門学校を卒業した仲間たちの大概はアニメーション会社に就職したり、アパレルのデザイン部や中には仲間内でデザイン会社を立ち上げネットで絵やイラストの販売や請負をしている人たちもいた。
私もどういう訳か一緒にやろうと誘われたが断った。
昔に比べればまだ人付き合いも出来るようになったとは自負しているがそれでも不特定多数の人が働く会社勤めは辛いものがある。
それにやはり会社に勤めるという事は型に嵌められることになってしまう。お題だのコンセプトだのに縛られて自分の描きたい物が描けなくなるのはどうしても嫌だった。
食べていく上でそれが我がままだという事は十分に分かっている。だから絵画教室やたまに来るイラストの依頼の時はキャンパスの上で暴れたい気持ちを押さえてお題通り、コンセプト通りの仕事をやり遂げ、報酬を得ていた。
その発散をするようにSNS上にある創作投稿サイトに自分のありのままの、思うがままの絵を投稿した。
投稿するのは主に"木"の絵だ。
あれからも色々な媒体を描いてきたが結局"木"を私は選んだ。あの生命力を写し取りたいという気持ちが何よりも優ったからだ。
"KAnA"と言う名義で投稿した絵は最初こそ何の反応も見られなかったが3ヶ月経ち、半年が経ち、一年が経つとそれなりにフォロワーが増えていき、スキやコメントなども貰えるようになってきた。
"KAnAさんの絵にはいつも力が貰えます"
"木の生命力をパソコン画像からこんなに感じられるなんて"
"販売くれたら絶対買うわ"
"樹木アーティスト"
などと本心かは分からないけど温かい言葉をたくさん貰った。
両親は、私が好きなことを生業とて働いていることをとても喜んでいた。部屋に私が書いた木の絵を飾ったり、イラストが載った雑誌をご近所さんに自慢したり、絵画教室の宣伝をしたりと大忙しだ。
今まで散々心配かけてたり、捻くれたりしていたせいなのだろうか?私への甘やかし方が尋常ではない。
一度、友達たちに相談したら「充分甘えなさい、喜ばせなさい」と逆に諭されてしまった。
友達たちとは今も良い関係を続けている。
ご飯を一緒に食べに行ってお酒を飲んだり、ショッピングに行ったり、温泉に行ったりしている。
ちなみに温泉の時は私だけ個浴の温泉か誰もいない時間に入るのだが友達たちは何も言わない。理由は話していないが何となく察してくれているようだ。
つまり私はごく普通の"女子遊び"を楽しんでいた。
それは"女子遊び"でなくて"女子会"っていうのとその度に皆んなから総ツッコミを受けるが18歳を迎えるまでまともな友達付き合いをしたことがない人間にそんな高度なことを言わないでと言うと怒ると逆に「なんて可愛いの」
と子ども扱いされる。
本来なら私の方が一つ年上のはずなのに年下扱いされることに少しムッとする。
確かにデザインこそ変わってるものの今だにピンクのカーディガンを羽織ってるから気分もそのままで接するのかもしれないけどもう少し大人として扱って欲しい。
しかし、そんな彼女たちも私を唯一誘わないものがあった。
合コンだ。
ひどい時は週一で行ってるのに私は一度も誘われたことがない。
そのことを一度お酒の席で話したことがある。
すると、何時も騒がしい友達たちがその時だけは顔を見合わせ、そして真剣な顔をする。
「カナは、そんなことしなくていいの」
「合コンなんかに出るよりやらなきゃいけないことあるでしょ」
「もうすぐ6年になっちゃうよ」
彼女たちの言いたい事は分かってる。
彼女たちは、分かってるのだ。
私の中に5年間燻っている思いを。