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なぜ脳性麻痺児は分離運動が苦手?その理由と対策

脳性麻痺児の「動かしにくさ」、本当に理解できていますか?

脳性麻痺(Cerebral Palsy, CP)の子どもたちのリハビリに携わる中で、「関節ごとの分離運動が難しい」「歩行時に不自然な共同運動が見られる」といった課題に直面することはありませんか? それらの背景には、選択的運動制御障害(Selective Motor Control, SMC)が関与している可能性があります。

私は療育センターで10年以上勤務し、認定理学療法士(発達障害)としてCP児の運動機能改善に取り組んできました。また、大学院では脳性麻痺児の姿勢制御について研究し、一児の父としても発達支援の重要性を実感しています。その経験をもとに、SMC障害のメカニズムと具体的なリハビリアプローチを解説します。

本記事では、CP児の選択的運動制御の評価方法と、臨床で活かせるトレーニング戦略を詳しく紹介します。適切な介入を行うことで、子どもたちの運動機能を向上させ、より自立した生活をサポートできるはずです。ぜひ最後までご覧ください。


選択的運動制御障害とは?

脳性麻痺(Cerebral Palsy, CP)の子どもたちは、体の一部を単独で動かすことが苦手な傾向があります。これは、選択的運動制御障害(Selective Motor Control, SMC)によるものです。SMCが低下すると、動作の際に不要な関節の動きが伴い、スムーズな動作が難しくなります。

例えば、
✅ 足首を動かそうとすると、膝や股関節まで一緒に動いてしまう
✅ 右脚を動かそうとすると、左脚も同時に動いてしまう
✅ 体幹をひねる動作ができず、上半身全体が一緒に動く

このような運動の問題は、筋シナジーの異常や姿勢制御の困難さが原因で起こります。


選択的運動制御障害による分離運動の困難さ

CP児は分離運動が難しく、以下の3つの視点から考えることが重要です。

1. 左右の下肢を独立して動かすことが困難

通常、歩行時には左右の脚が交互に動きますが、CP児では一方の脚を動かそうとすると反対側の脚もつられて動いてしまいます。

具体例
✅ 右足を持ち上げようとすると、左足まで屈曲する
✅ 右足を伸ばしていると、左足を屈曲しにくい。

主な原因

  • ミラームーブメント(片側の運動時に反対側も同時に動く現象)

  • 共同収縮の増加(姿勢の不安定さを補うため、余計な筋緊張が生じる)


2. 一つの下肢内で単関節を独立して動かすことが困難

CP児は、特定の関節を単独で動かすことが苦手です。ある関節を動かそうとすると、隣接する関節も一緒に動いてしまいます。

具体例
✅ 足首を背屈しようとすると、膝も屈曲する
✅ 股関節を屈曲しながら膝関節を伸展することが難しい
✅ 股関節を伸展しようとすると、膝関節が伸展し、足関節が底屈する

主な原因

  • 筋シナジーの異常(特定の運動パターンが固定化される)

  • 共同収縮の増加(姿勢の不安定さを補うため、余計な筋緊張が生じる)

研究によると、下肢の分離運動が低いほど、歩行時に膝関節の屈曲が強まり「かがみ歩行」になりやすいことが報告されています。


3. 体幹を分節的に動かすことが困難

CP児は体幹の細かな動きが苦手で、上半身全体を一つの塊のように動かす傾向があります。

具体例
✅ 上半身を回旋しようとすると、骨盤まで一緒に動いてしまう
✅ 胸椎や腰椎を屈曲・伸展させることが難しい
✅ 体幹の動きが制限され、腰椎が伸展位でロックされる

この影響で起こる二次障害
骨盤の過剰な前傾
腰椎の過前弯(反り腰)
股関節・膝関節の屈曲パターンの強調

このような問題は、「ブロックパターン」と呼ばれ、体幹と骨盤の分離運動の低下によって生じます。


選択的運動制御の評価方法

SMCの評価には、以下のポイントをチェックします。

歩行時に左右の下肢が適切に独立して動いているか?
体幹が分節的に動いているか?(胸郭と骨盤の動きの連動)
股関節・膝関節・足関節を個別に動かせるか?

また、Selective Control Assessment of the Lower Extremity (SCALE) を用いることで、より詳細な評価が可能です。


リハビリテーションのアプローチ

1. 選択的運動制御を高める運動

  • ミラームーブメントを抑制する練習(片側のみの運動を意識する)

  • 単関節運動のトレーニング(例:足関節の背屈運動を意識的に行う)

  • 体幹の分節的運動トレーニング(骨盤と胸郭の独立運動を促す)


2. バランス能力を高める運動

  • 多様な姿勢外乱に抗するトレーニング(例:上下肢の自動運動、メディシンボールのキャッチ)

  • 歩行時の支持面を工夫(例:凸凹の床や傾斜のある道での歩行練習)

  • 応用的な歩行練習(例:障害物跨ぎ、平均台歩行、上肢で支えた物を落とさないように歩く練習)


3. 環境設定

  • 歩行補助具の適切な選択(歩行の安定性を調整)

  • 装具の適切な選択(関節の自由度を調整)


まとめ

脳性麻痺児の選択的運動制御障害は、分離運動の困難さとして現れ、歩行や日常動作に大きな影響を与えます。特に、

左右の下肢を独立して動かすことが困難
一つの下肢内での単関節の分離運動が困難
体幹を分節的に動かすことが困難

このような運動の問題を改善するためには、単関節運動の強化、バランストレーニング、体幹と骨盤の分離運動を促すトレーニングが重要です。

小児理学療法士として、CP児の動作を細かく観察し、選択的運動制御を高めるアプローチを実践することで、より良い運動機能の発達をサポートしていきましょう!

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