人生の混迷を解く鍵は。
ふん……バカが。
え、一体何がって?
――それは、分からない。
一つ。人間は何かを馬鹿にすることによって、自身の価値を相対的に上げる生き物だ。
いや、違うかもしれない。
そもそも、この世の中に、人が断言出来うる物事などあろうか?
ましてや、世界の片隅に辛うじて自分1人分のスペースを確保しているだけの、それだけで精一杯の自分になど……。
コンコン、と不意にドアがノックされ、返事も待たずドアを開けて死が訪れる。ようこそ、私の人生へ。そして、さようなら。
私は死んでしまった。
目が覚めると、ズバリ午前の4時!寝直すには遅すぎるし、中途半端な時間ではないか。私は書斎を出ると、静まったキッチンでエクアドル産の豆を丁寧にミルで挽き、数年前に水族館で買ったマンボウ柄のマグへ熱いコーヒーを淹れた。バルコニーへと出る掃き出し窓を開けると、少し生暖かい夜風と一緒にほのかな秋の気配が鼻の奥をつついた。
「愛してるよ。僕のスウィート・メモリーズ」
さあ、始めよう。
街に潜む小さな冒険は、今にも走り出しそうにうずうずしながら僕たちを待っている。
楽しみと歓びを求めるやんちゃな心に、私も置いてかれないようにしないとね。
ゆっくりと深呼吸をする。
夜と朝の境目から、小さな秋がその赤ら顔を覗かせたような気がした。
「もうすぐ、会えるね」
バカが……。