俺のきなこ棒

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オシゴト日記 #1

病院から帰ってくると、叔母が訪ねてきていた。玄関口でなにやらよく分からない話をして、寒いしとりあえず部屋の中に入ってもらう。叔母はこげ茶色の、なんか苔みたいなフェルト生地みたいなコートを脱ぐと、つやつやの河童に変身してしまった。 「ふう、やっぱりこの姿が落ち着くわ!」 二頭身の、パステルカラーの河童、いやカッパとカタカナで書くべきね。そのかわいいクチバシから、叔母のものとは思えない軽やかで高い声が出てくる。小鳥のような声だった。 「ウチに咲いたランを持ってきたの。飾りなさい」

    • バウワウ城にレアメタル

      町中華で破壊行為を繰り返したので、因名(ちなみな)カコは満ちたりた気分で店を出た。ラーメンやニラ餃子の死体が脂っこい床に転がっていて、心底汚い。中華丼は上半身をメッタ刺しにされており、陶器のように割れた頭部から垂れ出した粘度の高い体液で店の半分あたりが水浸し(汁浸し?)になっていた。カコは身を震わせると、全身に空いた銃創から、奇怪な煙を吐き出した。五つある肘は漏れなく反対側に折られており、その痛みで顔が歪む。 カコの反対側からか細い気筒音が、カコの顔ではなく腹の向かい側(よ

      • 時間に追い越されていく島村氏

        昨日、唐突にメガネを失くしたんだ。草むらの中だったと思う。横になって、じっとしていたら、雲が太陽を隠すようにしてメガネは失くなった。それからずっとぼやけた靄(モヤ)の中の景色を過ごしている……困った、困った。 通りすがりに、お姉さんがすっとハンカチをくれて、それで自分が泣いてるってことに気が付いたんだ。どうしてかって、多分だけど、いつもはメガネ越しに浴びる車道のヘッドライトとかを、裸眼で浴びてしまったからだと思っている。だって悲しいことなんか特に無い人生だし、思い出はいつも

        • #あの選択をしたから

          最寄り駅から歩いて3分。閑静な住宅街の一角に、件(くだん)のお店はあった。リポートで向かったのは、「ウワサの街角!」特捜員、グルメ担当の丸山秀記記者である。 「どうも!こんにちは!丸山ですね、実はある噂を小耳に挟みまして、このD県F市の大宮塚町へとやって来ました!それというのもでさあねぇ、」 その時だった。 いきなり大きな爆発音が、静かなお昼時の空気を唐突に揺さぶったのである。 「う、うわー」 丸山は思わず情けない声を上げ、尻もちをドスンと付いてしまった。カラスだかハトだか

          最高の家がひとつ、ふたつ、みっつ……

          いいかい?僕が息を止めて、と言ったら、息を止める。いいって言うまで、止めること。 もしも途中で息をしてしまったら―――……。 ――――――――――――――――――――――――― 薄緑色の瓦屋根の上に、白猫と黒猫が二匹。上空を見上げている。そこから少し離れた黒い瓦屋根の上には、コーン付きのアイスクリームが円形にならべられている。暑いので、当然すべて溶けきってしまっているのだが(黒い瓦なので尚更表面の温度は高い)、辛うじてそれらが白いバニラアイスだったと分かるくらいの塊が、

          最高の家がひとつ、ふたつ、みっつ……

          コンコン、とベランダの窓がノックされる。 真夜中に。 コンコン、コンコンコン。 どこか慎ましやかで、遠慮がちにも聞こえる音。もしも幽霊ならば、こんなノックはしないだろう。じゃあなにか?人間か? コンコンコン、コンコンコン。 私はそのノックを横になったまま聞いていた。ノックされているのは、私の部屋の窓だ。しかし、だからといって、私が開けなければならないという理由(わけ)はない。無視したっていいし、このまま寝てしまっても咎められる所以はありません。疲れているし、わざわざ

          人生の混迷を解く鍵は。

          ふん……バカが。 え、一体何がって? ――それは、分からない。 一つ。人間は何かを馬鹿にすることによって、自身の価値を相対的に上げる生き物だ。 いや、違うかもしれない。 そもそも、この世の中に、人が断言出来うる物事などあろうか? ましてや、世界の片隅に辛うじて自分1人分のスペースを確保しているだけの、それだけで精一杯の自分になど……。 コンコン、と不意にドアがノックされ、返事も待たずドアを開けて死が訪れる。ようこそ、私の人生へ。そして、さようなら。 私は死んで

          人生の混迷を解く鍵は。