コンコン、とベランダの窓がノックされる。

真夜中に。

コンコン、コンコンコン。

どこか慎ましやかで、遠慮がちにも聞こえる音。もしも幽霊ならば、こんなノックはしないだろう。じゃあなにか?人間か?

コンコンコン、コンコンコン。

私はそのノックを横になったまま聞いていた。ノックされているのは、私の部屋の窓だ。しかし、だからといって、私が開けなければならないという理由(わけ)はない。無視したっていいし、このまま寝てしまっても咎められる所以はありません。疲れているし、わざわざ起き上がって確かめるほど興味も体力もないので。

コンコン、コンコン、コンコン。

つい先日、こんな話があった。日本を旅行中のドイツ人夫婦が、初めて柴犬を生で見て、いたく感動したそうである。数日後、そのドイツ人夫婦はいきなり血を吐いて死んでしまった。死体の傍らには、血でダイイングメッセージが書かれていた。ひらがなで、

「し ぬ ば い」  ……と。


コンコン、コンコンコン。

その事件からしばらく経って、テレビ番組にヒロミが出演するようになった。詳しくは知らないが、彼はなんらかの理由でしばらく業界を干されていたとのことだ。当時は「まぁ〜〜たヒロミが出てるよ。一体どういう人間が、こんな偉そうな偏屈男を見たいと思うのかねぇ〜??」としか思えなかったが、今となっては昔の話。最近はまたテレビで見かけなくなった。また、干されたのだろうか?芸能界とは、かくも不可解で理解の及ばぬ世界だ。

コンコン。

ヒロミといえば、去年リリースした「神様との約束」という楽曲が泣けるとSNSで話題だ。ヒロミの妻・松本伊代について綴った歌詞は、所々にユーモアを交えながらも、人生のパートナーに向けた愛と優しさで満ちているようにも聞こえる。ヒロミ自身のおおらかで包み込むような歌声が紡ぐメロディは、今人気沸騰中のお笑い芸人・はなわさんが作曲。お笑いだけでなく、音楽でも人々に笑顔と感動を届けられたら、という強い想いによって書かれたのかもしれない。勿論、その真相は我々にわかることではない。だとしても、性善説に基づいた憶測を著名人に当てはめてみることには一定の意味がある、と言えるのではないか。
私は、そう信じてやまない。

コンコンコン、コンコン、………。

ノックが止むと、いきなり窓が強い衝撃でぶち破られた。腐ったサメのような顔をした背の高い青年が、新品のいやに冷たく光るナタで私の喉からヘソまでを切り裂いた。こうなっては、もはや敵わないし……。

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