動画時代のマンガプロモーション
ピッコマが国内マンガアプリのトップになれたその裏には、今までと違ったプロモーションがあったのでは?
ピッコマアプリは2022年の現在において、国内マンガアプリのトップ。それまではLINEマンガが1位の座に居座っていました。LINEと言ったら日本では誰もが知るアプリで、そのブランドを冠したLINEマンガが1位になるのは当然とも言える状態だと思います。LINEマンガでは集英社・講談社・小学館と言った大手出版の作品が読めることもあって、これは揺るがない王者のハズでした。しかし、そのLINEマンガ1強の市場を何故ピッコマは逆転できたのでしょうか?
エンタメ産業で大切なものは2つ
コンテンツとプロモーション。たとえ良いコンテンツを作ることができても、集客がなければ収益化することができません。
ピッコマは電子書籍にゲーミフィケーションを持ち込みました。「待てば無料」これはもう当たり前かもしれませんが、このビジネスモデルの元はソーシャルゲームです。待てば【行動力】が回復してクエストを進めることができます。それだけではありません。自分のアカウントに【レベル】があるのもピッコマぐらいでしょう。読めばレベルが上がり報酬を獲得できます。マンガを読んでご褒美がもらえるなんて思ってもいませんでした。1日1回広告動画を再生すれば【ガチャ】を回せるなんて言う、実にソシャゲライクな仕組みもあります。さらには、もし課金をしたらならば、その金額に応じて【ランク】が上がって報酬をもらえる仕組み、ソシャゲで言うVIPシステムまであります。
そして、韓国から持ってきたスマホに最適化された縦読みカラーマンガ、WEBTOONの導入です。このゲーミフィケーションとWEBTOONの導入による電子書籍の改革によって、ピッコマは今までの漫画読者層ではないところにまで大きく広げました。
さてコンテンツは進化しました。ではプロモーション面では……
ピッコマ成功のプロモーション
LINEマンガは日本国内において1番の知名度がありました。逆にピッコマには知名度がありません。そのため莫大なプロモーションを行ったと思われます。どのマンガアプリよりも広告を投入したと見て間違いありません。特に積極的に行ったのはYouTubeの広告やゲームアプリ内での広告だと思われます。これらをスマホで視聴したら画面をタップするだけで、すぐにアプリストアへ移動してダウンロードにつながるからです。
運も味方しました。ピッコマが急成長したのは2020年ごろ。それはコロナ禍の影響で巣籠消費が増えた時期です。スマホコンテンツ全域で滞在時間が増加しました。YouTubeではゲーム配信やVTuberが比較的に収益を伸ばしています。ゲームアプリも業界全体的に良い傾向になりました。そこに便乗する形でピッコマの広告はタップされて、ダウンロード数が伸び、LINEマンガを追い抜く起爆剤になったのではないでしょうか。
マンガの作り方を変える動画広告
動画広告は最初の数秒が成功のカギを握ると言われています。視聴者にスキップされないような引き付ける内容であること。リンクをタップさせるだけの魅力があること。動画広告担当者は、CPI(1インストールあたりの広告コスト)を低くするように工夫を凝らします。
ピッコマが顧客を獲得できていたなら、そこには良い動画広告があったに違いありません。個人的に最強のマンガ広告だと思っている。客寄せパンダ『ゴッド・オブ・ブラックフィールド』の動画をご覧ください。
https://www.youtube.com/watch?v=tCawr6KOdG0
2秒で「校舎から飛び降りた 高校生の身体に憑依した」と、あらすじが入ります。
憑依先の高校生がイジメられてたこと知ると、音楽が切り替わります。
そしてイジメていたヤンキーたちと対峙して、これから復讐劇が始まる雰囲気で動画は終わります。
他のマンガアプリでも動画広告はありましたが、ピッコマは3つの改革を行いました。
カラー
あらすじ×ドラマ
吹き出しなどのレイヤー分け
まずカラーであること。WEBTOONはもともとカラーなので、当たり前と言えば当たり前ですが、マンガは白黒が当たり前だった時代にカラー広告が出ると当然、目を引きます。
そして、あらすじとドラマシーンの組み合わせ。マンガ広告の優劣を決めるのは、良いあらすじを表現できるかにあると思います。ドラマシーンだけのマンガ広告もありますが、2秒で魅力的なあらすじを表示した方が、より早く伝わり効果的と言えます。『ゴッド・オブ・ブラックフィールド』の場合は、高校生の自殺と言うセンシティブな内容なため、あらすじから引き込まれます。しれっと「タバコねえのか」と言うセリフからアウトローな人物像を匂わせて、音楽の変調と、イジメられていたことがわかったときの主人公の恐ろしい顔で、こいつは強いヤツだとわかります。そんな男が加害者のヤンキーと対峙するとなると、もうワクワクがとまりません。よく出来た編集です。
この編集ができるのは、マンガにレイヤー分けがされているおかげです。紙の時代だとレイヤー分けなんてありません。吹き出しの下には何も描かれていませんでした。WEBTOONは海外展開を前提で作られています。翻訳したときに吹き出し内部の文字量が増加減少しても対応できるように、別レイヤーにすることが推奨されます。別レイヤーに分けられるなら広告動画を作る際、演出の自由度が飛躍的に増加します。人物や背景、集中線などのエフェクト、オノマトペなども別レイヤーで作られていた方が良いでしょう。作り手からしたら、とても面倒くさい作業になるかと思いますが……。
今後WEBTOONのプロモーションは、動画広告のクオリティが益々向上して行くと予想されます。上がり過ぎると、ゲーム広告でよく見かける、詐欺広告のようなものも誕生するかもしれません。またそれと違った方向で、中国の快看漫画の「漫剧」のように1話丸々動画にしてしまうことだって考えられます。
エンタメ産業はコンテンツとプロモーションが大切です。マンガをヒットさせるためにも、レイヤー分けは必須の作業となっていき、マンガの動画広告はより洗練されていくことでしょう。