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街のすがた

✳︎今日のひとこと

前にも書きましたが、近所に住んでいたとても勘のいい、マッサージの天才のお姉さんが、あるとき急に引っ越してしまったのです。家賃が高いのはもちろんだけれど、とその理由を彼女はさらっと言いました。
「人の暮らしが見たい、生活の感じに触れたいから」と言って。
そのあと彼女のご主人と話したとき、彼はこう言っていました。
「東京も、少し真ん中から離れちゃえば、こうして人の暮らしがちゃんとあるんだなあって思って」
私もそう思います。
干してある古びた販促用のタオルだとか、ちょっと油よごれのあるテーブルの上のコショウだとか、古い喫茶店のほこりっぽい窓だとか。そういうのがいいということではありません。なにせこんまりさん大好きな私ですからねえ。
生活していると、どうしてもホコリだとか汚れだとか洗濯ものだとかが出て、間に合わない日もあるさ、そんなこと。
でもトイレはぴかぴか、まあ和式トイレだけどね、とかね。
おじいちゃんと息子と孫がみんなそっくりだね、とか。
そういうものがない街のうそくささに、私もだんだん飽きてきたというか。

企業がお金を出して、人気の土地にお店を出して。
うまくいかなくなったら撤退して。
後に何も残らない、そんな感じです。

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吉本ばななです。やがて書籍になるときにはカットされる記事も含めています。どくだみちゃんは散文、ふしばなはブログ風です。コメントはオフですが…