シケた時代
✳︎今日のひとこと
なかなかいっしょに仕事をしないアウェイの出版社さんとのお仕事があり、ゲラ(本になる前の刷りだし、そこに著者が赤字を入れる)を見たのです。
それは、「いいゲラ」でした。
半引退をしている私は、基本的にはつきあいが長く、信頼できる編集の人としか仕事をしません。ふだん関わっているその人たちのゲラももちろん「いいゲラ」なのです。過労によるかすみ目でほとんど字が見えなかったとき、そのおかしさをさりげなく優しくフォローしてくれた加藤木さんのゲラなんて、今思い出してもぐっときます。
でもその「いいゲラ」は、ずっとおつきあいがある人たちとのなじみのゲラではなく、一期一会であろうということがみっちりとつまった、気合の入ったゲラでした。
ゲラ自体がちゃんとした知性によってしっかり整っていて、「さあ、受け止めますよ、必要以上の手間をかけて内容をいじりはしませんが、しっかり削り出してあります、どうぞどんどん直してください、そこの手間はいといません」という構え。
こちらも「よし、いい本にしよう」とていねいに見たくなるような、そんなゲラでした。ありがたいことです。
人はひとりで仕事しているわけではないんだなと改めて知りました。
だれかがそういう佇まいでいるだけで、人は襟を正すのです。ふんどしのひもを締めなおすというか。
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どくだみちゃん と ふしばな
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吉本ばななです。やがて書籍になるときにはカットされる記事も含めています。どくだみちゃんは散文、ふしばなはブログ風です。コメントはオフですが…