もしもワインセラーが届いたら
ところで、ワインセラーをもっているだろうか
それは男の憧れである。ワインセラーを持っているのはセレブなのだ。
Netflixでお気に入りの映画を観ながら、白ワインを飲む。
きっと温度を保たれて、ひんやりしたワインは格別だ。
だって、ワインセラーなんだから。そりゃそうに決まってる。
でも、僕はNetflixも契約してなければ、白ワインのこともよく知らない。
もしも、僕がセレブになったとして、ワインセラーが家に届いたら大変だ。
まずは置き場所を考えなきゃいけない。
7.5畳の1Kの男の部屋にそれが届いたら、色々と考えておかなきゃいけないことがある。
まずは排熱だ。
ワインセラーの背面には排気口がある。十分に距離を保たねば火事になる。
せっかくワインセラーがきたのに、家が燃えてしまっては困る。
セレブなんだから、きっと被害も甚大だ。軽く560億円ぐらいになるんじゃないだろうか。
そしてコンセントだ。一部屋に配置されているコンセントの穴の数には限りがある。
部屋を見渡した。
使っていないコンセントの穴があった。1とKを隔てるドアのすぐ横。
ドアの開け閉めがあるので、使い勝手が悪いと思っていたところだった。
ワインセラーが部屋にくるのを今か今かと待っているようだ。
置き場所は決まった。
ところで、冷蔵庫の代替として使うのはどうだろうか。
いや、だめだ。ワインセラーには冷凍室がないのだ。
コンビニでバニラ・アイスを買って、晩ご飯の後に食べようとワインセラーにバニラ・アイスを入れる。テレビを観ながらご飯を食べ終わる頃にはワインセラーの中はバニラ・アイスによって中は甘い香りに包まれているだろう。
やはりワインセラーの中にワイン以外のものを入れるなんて言語同断だ。あのガラス張りの扉の中はワインの聖域(サンクチュアリ)なのである。
...
ワインがその時を待っている。我が家にやってきたときはまるで子犬のように愛らしかったそいつが、今は老犬のように小屋の中で横たわっている。
「さて、頃合いか」
映画に見飽きて、ワイングラスをテーブルに置く。テレビの前のソファーに腰掛ける。手の届く位置にあるワインセラーの扉を開け、おじさんにオススメされた名も産地も詳しくないワインを、慣れない手つきで開け、グラスに注ぐのだ。
「乾杯っ!」
一人虚空に叫ぶと、グラスを鼻に近づけ、香ってみる。フルーティな香りがする、と表現すれば良いだろうか。
口に近づけ、一口。舌で転がす。おいしい。しかし、それ以外の感想を表現するための言語がない。
今度ワインの本でも読もうと思った。友達を家に呼んで、なんならワインセラーを口実に家に呼んでもいいかもしれない。
二口目を口にしようとしたとき、インターホンが鳴った。
...
そのとき、僕はワインセラーのない自分の部屋にいた。
「宅配です」
画面越しの男はなにやら大きめの荷物を抱えている。
(こんなの頼んだっけ)
恐る恐るドアを開け、大きな箱を抱えた男は言った。
「こちらワインセラーですねー。サインお願いしまーす。」
突然の刺客だった。
僕は頼んでない。
ただ、Amazonの欲しいものリストに、ネタとして、いや、自分の夢を入れたのだ。
そうして迎えた先日の誕生日に、あろうことにも1万オーバーするワインセラーを僕のために買ってくれた戦士がいる。
僕をセレブにしてくれてありがとう。
妄想していたちょうどその位置にそれを置き、コンセントを伸ばす。届いた。
コンセントを刺すと同時に動きだし、サンクチュアリは青く輝き始めた。
何かいれようか、と思ったが、家にワインなどなかった。
そう、僕はまだセレブなどではなかったのだ。
欲しいものリストに入るようなちっぽけな夢だが、僕は部屋にワインセラーを置くことができた。
7.5畳の男の城に、俺が家主だと言わんばかりに君臨する青き箱。
邪魔だ。
送り主に対する複雑な感情が湧き上がる。
気をつけてほしい。
仮に欲しいものリストにネタとしてワインセラーを入れたとして、ネタにマジレスするかのごとく、それをカートに入れてくれる知人があなたのまわりにもいるかもしれない。
「あぁ、これでセレブにならなきゃいけないのか」
僕の生活は今日から変わる。
さて、この記事には有益な情報は一つもなかったが、ひとつだけ、覚えてからこのページを閉じてほしい。
欲しいものリストに夢とネタは詰め込むな
欲しいものリストは常に整理しておこうな。
さぁ、いきつけのお店に飲みに行こう。今日はセレブになる第一歩を踏みしめた素晴らしい日だ。
「すいません、オススメの白ワイングラスで。」
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