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松本にある「本当のサッカー」【松本vs福島】

「サッカーで最も面白いのは昇降格」

世間一般から注目を集めるのはそりゃJ1の優勝争いなのですが、もう戻れなくなったサッカーファンのみなさんは昇格争い・残留争いの面白さにお気づきでしょう。(※自分のクラブが関係ないときに限ります。言うまでもないですね。)

残留争いが「失うものが多い戦い」なのはずいぶんと前からなのですが、最近は昇格争いにも同様のことが言えるようになってきたと思います。昇格争いに食い込んでしまったチームの結末は
・勢いのままに昇格する
・昇格できずに草刈り場となる
・戦力を保って翌シーズンを迎えられる
の3つしかありません。その中でも最後の選択肢が取れるのは比較的お金持ちのクラブだけで、何年も続けられる選択肢でないことは想像に難くありません。J2内ではお金持ちの印象が強い千葉も2023年の人件費ランキングだと全体25位で実は「昇格が最低限!」みたいなクラブじゃないんですよね。つまり、昇格を目指した予算での昇格失敗は「来年の予算を失う」ことに繋がりかねないんです。最近の昇格争いが「得る」戦いよりも「守る」戦いになってきたのはそんなところもあると思います。
というわけで、「今年こそ」を目指す松本山雅のプレーオフ準決勝を観戦してきました。

山雅が根付く街

東京から行くと、まずコンビニの店員さんが日本人であることに珍しさを感じますが、松本のコンビニはその程度では留まりません。紙チケットの発券をお願いすると、
「山雅の試合って今日だっけ?」
「あれ、今日は引き分けでもいいんだよね?」
「頑張ってほしいなあ」
と、めちゃくちゃサッカーの話をしてきました。もうこっちはびっくりなんてものではありません。完全に面食らってます。コンビニのレジで話した単語数は史上一番の多さだったかもしれません。いっつも「お願いします」「袋いらないです」「PayPayでお願いします」「ありがとうございます」だけですからね。あ、「温めてください」もありましたね。危ない危ない

駅から歓迎してくれてます。Jリーグのフォントがちょっと前のBSっぽい

ちなみに自分に松本サポーター要素は全くなかったのでギリ福島サポーターの可能性もありました。もしそうだったらどうするんでしょうか。お詫びにそば奢ってくれるとかがあると嬉しいです。

バスに響くエンドレスチャントメドレー

日ごろから平均観客数8000人超とかいうJ3のはずがない数字をたたき出している松本山雅ですが、この大一番には12,604人が集まりました。3部リーグに10000人集まるのは完全にサッカー大国です。少なくともベルギーよりは盛り上がってます。
松本駅からアルウィンまではシャトルバスが出ているのでアクセスの心配はありません。帰りもちゃんとあるので、鹿嶋の奥地に置いてかれるみたいな不安がないのも助かりますね。しかも無料!
ちなみにシャトルバスの中では選手による案内ボイスがありました。まあこれは結構あるあるなんですけど、松本はそれだけに飽き足らずエンドレスチャントメドレーを流してきます。もうほぼ洗脳と言ってもよいでしょう。

福島からにじみ出る川崎らしさ

あまり大きいとは言えないスタジアムに満員近い人が詰めかけ、戦うときのエネルギーにはパワーがあります。
今回の座席はピッチサイドシートだったので、正直戦術的な面はよくわからないです。平面でみるとこんなにわからないのかってレベルでわからないです。監督ってすごい。飲み屋でピーター批判ばっかしてごめん。

そんな中でも、なんとなく前半は福島がやりたいことをできていた印象。左WGの森晃太もさすがのクオリティ。名古屋ユースでよく名前見てた彼と久しぶりに再会できてちょっとうれしい。ボールを持ちながらも、低めの位置から縦パスを大関、樋口、城定あたりに入れて、そこから全体が押しあがっていくシーンは、監督の寺田さんらしさというか、川崎っぽさを十分に感じました。
松本はある程度まで前進できても、両サイドで福島の松長根、鈴に苦戦してシュートまで行けないというイメージ。一回、良い感じでPA内に進入するも山田将之の完璧なスライディングがありました。彼も東京から出て苦労しながらちゃんとキャリアを歩めている印象です。先制されたこともあって、正直前半の出来で言ったら松本は厳しいかな、、と思ってはいました。

オフサイドなんかわかるはずがないのにレフェリーすごい

アルウィンという圧倒的ホーム

1点は取らないといけなくなった松本ですが、後半になっても正直これといった変化は感じ取れず。もちろん、球際とかで気持ちこもったプレーは前半から変わらず続けていましたが、流れの中から点とるイメージがあんまりないかも、、と思っていたところでCKから野々村の同点弾。押し込んだのが高橋祥平だったのできっとスタジアムの全員彼のゴールだと思ってましたね。

この同点弾以降、山雅を後押しする熱気はまさにホームアドバンテージ。アウェイ側のゴール裏にもコールリーダーを置き、前半から少なくない数が立って声を出していましたが、試合終了にかけてはコールリーダーの声掛けもあって全員総立ち。完全にゴール裏が二つ出来上がっていました。そして、その空気はバックにも確実に伝播しています。
ひとつひとつのプレーに対するリアクション。それに呼応する山雅の選手たちの球際。カウンターのときの地響きのような歓声。前半はよく聞こえていた福島サポーターの歌声が次第にかき消されるほどの圧倒的ホーム。
この試合だけの感想で言うと福島のほうが良いサッカーをしていたし、パフォーマンスの良い選手も多かったと思います。でも、松本はアルウィンという舞台装置を持っていた。半分狂気にも近いあの空間は間違いなく松本の戦力です。同点になった時点で松本の勝ち上がりはほぼ確実だったのかもしれません。

サッカーしかないけど、それで十分

アルウィンには、誤解を恐れずに言えばサッカーしかありません。もちろんスタグルはあるし、子供が楽しめるようなイベントも考えて用意されています。
でも、J1で(というか東京で)見るような派手な演出はありません。花火もないし、炎も出てこないし、アイドルもいない。でも、それら全てを凌駕する「サッカー」がありました。
もちろん、マーケティング的な観点、東京という地域性を考えたら花火やアイドルなどの演出でお客さんを呼び、サッカー以外でも良い思い出を作ってもらうことが大切なのは言うまでもありません。サッカーという不確実性が高い娯楽である以上、地獄みたいな結末になる可能性は避けられないし、それを消化できる人は多くないので。

でも、この日のアルウィンには「本当のサッカー」がありました。地元のクラブが街を背負って戦う。街の人はそれを応援する。スタジアムに行くのに、「自分の街のクラブが試合をするから」以上の理由はなかったと思います。そして、みんな知らず知らずのうちに試合に夢中になっていたはずです。

松本にあったもの。それはサッカーの本質であり、本当のサッカー文化でした。

正しい道

翌週、富山で行われたプレーオフ決勝。松本は2-0の状況から90+3分に追いつかれるというあまりにも残酷すぎる結末で今シーズンを終えました。5年前にJ1にいたクラブがJ3で4年目を迎えることに寂しさは感じます。もちろん、山雅サポーターの方は不満もあるでしょうし、フロントや強化部にも言いたいことはたくさんあると思います。でも、あの光景、あの雰囲気はカテゴリーの上下程度ではきっと揺るぎません。

強い・弱いではない、正しい道を、松本という街はしっかりと歩んでいます。

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