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民主主義や議会制への懐疑:スターウォーズより

最新作をみるまえに復習ということで、スター・ウォーズを観なおしています。前回みたときは、宇宙を舞台にした大掛かりな親子喧嘩、師弟喧嘩という感じでしたが、今回見直してみると、少し違う見方があることに気が付きました。それを述べてみたいと思います。ネタバレ満載なので観たい人はここでやめてくださいね。



まず、I、Ⅱ、Ⅲでの主張はクローン作成やシスの台頭、ジェダイの衰退です。ここにアナキンとアミダラのロマンスがあり、ファミリー物語が展開されていきます。最終的にはパルパティーンがダーク・シディアスであることが明かされ、オビ・ワンにやられたアナキンがダースベーダーに変わります。Ⅳへの布石ですね。

Ⅳ、V、Ⅵでは、ソロとレイアの話、スカイウォーカーの活躍と、その後が描かれます。ここでソロとレイアが生き残るってのがみそです。その後のⅦ、Ⅷでは子孫が活躍するという流れ。

さて、ここではⅠ〜Ⅲでのベースの話題について話をしていきましょう。このシリーズではどうやってダース・ベイダーが生まれたのかが重要です。それを説得力をもって描く責任がありました。理由をものすごく簡単にいってしまえば、妻であるアミダラが出産時に死んでしまうという予知を防ぐために、暗黒面の力を欲したという事。加えてパルパティーンによる囁きがアナキンの心に侵食し、どうして良いのかわからなくなったアナキンは指示されたままに取り込まれてしまいます。マスターウィンドを傷つけてしまったという事も心の瑕疵を生む理由だったのでしょう。そもそもアナキンは自分の力を過信しマスターになりたがるという傾向がありましたし、ジェダイ評議会はそれを快く思ってないという不信がありました。この不信が心の落とし穴であるいうのがこのシリーズの主張ですね。

アナキンの話は脇において社会システムを考えてみましょうか。そもそもスターウォーズでは、宇宙全体の共和制をひいていました。そして各星からの代表者によって元老院が構成されています。そして議長がいて議案を提出する事で紛争解決を図ろうとします。ある意味で国連に似ていますが、序列性がないという点で異なります。国連は国に序列が存在していますから、それによって平等的な民主的制度ではありません。さて、この元老院の議長ですが、通商連合ドロイド軍の侵略を受けたナブーのアミダラ国王によって不信任が提出され選挙となり、パルパティーンが議長に収まります。これはもちろんパルパティーン=ダーク・シディアスが謀った事です。ナブーへの分離主義者のドロイド軍侵略を行ったのは表向きドゥークー伯爵です。しかし彼はシディアスの支持に従っただけですから。スターウォーズをシディアス側からみるとある種の筋がみえきます。むしろ、シディアスの行動だけが一貫しているとも言えるでしょうか。ジェダイはシディアスの動きに後手後手に対応しているだけと言えます。

最初期は、元老院のナブー代表の議員に過ぎなかったシディアスですが、シスの弟子として実力はありました。一体どのタイミングでこうなってしまったのかは謎ですが。。それにしても随分と正攻法なんですよねシディアスのおっちゃん。元老院の議長になりたいがために、どれほどカネや人を動かしたのか謎ですが、ナブーを分離主義者(通商連合)に襲わせることで、元老院議員たちの同情をさそい、アミダラに不信任を提出させ議長選挙をさせようと画策します。そしてほどなく成功するわけです。これがⅠの話。興味深いのは分離主義者たちは共和国の課税に反対という設定です。ナブーへはその課税への抵抗という動機です。個人的には課税により通商に障害が出てくるというだけで、軍備を整え一つの星を占拠するというのはやりすぎに思えます。しかし、リアルワールドでも関税など「金儲け」関わることで紛争が起こっていますね。さて、その一方で、シディアスは分離主義者のドロイド軍に対抗するという名目で惑星カミーノでクローンを作らせます。実行部隊はこれまたドゥークー伯爵ですね。サイフォディアスという既に亡くなっているジェダイの名を語っていました。本来、元老院には軍隊はありません。シディアスは自らが動かせる元老院付きの軍隊を作りたかった。そこで分離主義者にドロイド軍を形成させ暴れさせます。そしてひっそりとクローン兵を製造しオーダー66という秘密のプログラムを潜ませました。これがいざバレても、ジェダイが兵を作るようにしていたというアリバイ作りでもあります。シディアスの悪巧みなど知らずにオビワンやヨーダはこの兵を迎え入れ共和国の軍としてしまいます。まさにシディアスの思うつぼなわけです。これがエピソードⅡ。
 エピソードⅢでは、確固たる地位を得たシスがいよいよ始動するわけです。ドゥークー伯爵はアナキンに殺させ、グリーヴァス将軍もオビ・ワンにやられて、いよいよ終わりかと思いきや、クローン兵にオーダー66を司令します。そしてジェダイ殲滅作戦が展開されるわけです。力不足に思われたシス側には、アナキンが寝返り、強化されます。そしてジェダイたちは謀反人たちであると表向きには表明し、次々に殺戮します。結局、これでジェダイとして生き残るのはオビ・ワンとヨーダくらいという事ですね。こうして、シスは帝国の皇帝として安泰の地位を手に入れるわけです。人々を強権で支配する一党独裁政治みたいなものになります。

スターウォーズは悪の側からみれば、シスであるパルパティーン=シディアスの話なんです。確かにやり方はきったないですが、やり口は見事なもの。清濁併せ呑み、目的の達成というのが政治家の資質であれば、まさに有能な政治家ですね。

続くローグ・ワン含めⅣ〜Ⅵは、反抗勢力の物語となっています。一体何年くらいシスは帝国を支配していられたのか。力による圧政に耐えかねた人々が、体勢を覆す反乱をおこし、そこで活躍するのがルークやレイアやハン・ソロです。冷静に考えてみて反乱者が主役ですよ。現代でいえば、ある意味テロリストと変わりません。シスを限りなく悪そうに、悪っぽく描くために、見た目の醜悪さとか黒ずくめのマントとかにしていますが、もし本当にシスがいたら、むしろ華やかな存在として君臨していることでしょう。

物語に善を生み出すには、悪を対比させる必要があります。誰しもが了解できる悪とはなにか。強大な力を持つだけでは悪になりません。陰謀を企てれば悪なのか。それを戦略とか戦術というのならば、正義にも「陰謀」は存在します。シスによる一党独裁のような帝国による秩序を求める人にとっては、むしろ自由を求める人々の方が悪かもしれないわけです。
 おそらくシスが悪らしいと断定出来る点としては、陰謀術ではなく、むしろ狡猾さや恐怖による支配という所ではないでしょうか。帝国への反抗が正当化されるために、ダース・ベイダーが仕事に失敗した部下をフォースの力で殺処分するなどのシーンが挿入されます。恐怖による組織支配は不当さを感じさせるからです。ただ、どこの国でも独裁政治体制化では、言論統制や暴力による支配はつきものです。このシスの帝国の有り様はどこかの政治体制が下敷きになっているのでしょう。

正直な所、シスの帝国が単純に悪なのかどうか。またジェダイが良きものとして扱えるのかどうか。リアルな世界との対比でいえば、実はそんなに簡単ではないと思われるわけです。

また、シスはわざと紛争を起こして、元老院での実権を握るわけですが、これはある意味で民主主義の欠陥とも言えます。とりわけエピソードⅠ~Ⅲまでは、民主主義が成り立つのか否か、劇中において問われています。シスはある意味、実に正攻法で議会の長になり、軍を作り出し、そして支配しました。わざと事を荒立てておいて、それを解決するには強力な権力や武力が必要であると訴えて、事実、元老院はシスの言いなりになったわけです。それは民主主義の活動の結果として現れました。元老院の議員たちは、事に対して場当たり的にその都度良いはずという対処法を提示され、それを選んできただけです。意図して帝国形成に手を貸したわけではありません。しかし実質的には、その行為によってこそ、元老院を含め、シスの帝国の手に落ちたわけです。

このような事はおとぎ話だけの事ではありません。むしろリアルな世界で起こっている事です。中東やアジアでの紛争というのは、果たして誰が手を貸しているのか。そしてその解決という事で誰が軍隊を派遣しているのか。その結果として、民意はどう動いているのか。9.11を思い起こしてください。もっと前でいえば、湾岸戦争を思い出してください。実際に紛争を引き起こしているのは、ローカルな地域の人々の紛争です。民族や宗教の違いによる紛争に見えます。しかし、背後には武器を供給する人々がいて、金を貸す人々がいます。そうやって戦争の脅威をあおり、戦争へと導くのは誰で、それがために何を手にするのか。石油の利権など資源の争奪戦であったり、代理戦争による民意の操作であったりするわけです。
 このような事はまさにシスそのものではありませんか。一見すると無関係な元老院の議長。彼が紛争を抑えるためにと、元老院に軍を作り秩序を守るためといって全銀河を支配したわけです。それは正義の名のもとに行われました。表向きには何もおかしなことは言っていませんよね? そうなんです、どこかで起こった紛争が故意か不慮かはともかくも、そのような事件や事象を利用して、人の心を動かす。この事自体が大問題ではないかとスターウォーズは訴えているわけです。9.11によって、ブッシュは対テロ戦争をはじめました。アメリカはテロに屈しないというスローガンの元に、アメリカは戦争を肯定した、もしくは容認したわけです。果たしてそれは正当化される行為なのか。対テロ戦争にしても、湾岸戦争にしても、一般庶民の私ですら、なんらかの陰謀を考えてしまうような出来事であったと思うのです。

スター・ウォーズの製作者はシスの力を「暗黒面」として強調します。そして、それを是正する反抗組織こそが正義であるとして描くわけです。我々は「遠い遥か過去の宇宙で。。。」と設定された物語を面白おかしく演出されたものとして、ぼやっと観ているわけですが、その中身は痛烈な現状批判というのが私の解釈です。そして、いくつかのメッセージを発しているわけです。それらをまとめると、

・民主主義は可能なのか?(結局シスによる帝国を生み出した)
・世間を騒がす武力衝突は、実行主体以外になにか力が働いているのでは?
 (表にあらわれている紛争と実態は乖離している)
・善と悪は完全にはわけきれず、相対的なものではないか?
 (フォースには暗黒面がある。正義は悪と表裏をなしている)
・アナキンより個人は簡単に悪を善として信奉してしまうのではないか?
 (個人の感情は、理性的な判断を簡単に変更し、主義を変えてしまう)


少し付け加えます。スター・ウォーズはシスを悪とみなすことで、エピソードⅣ~Ⅵにおいて、反乱軍の勝利を描くことに成功します。つまりルークの話です。そして、帝国の崩壊の最重要な動機に「親子の愛」を利用します。ルークは辛くもベイダーを抑え込みますが、シスにはやられそうになります。そこでベイダーが親心を発揮して、シスを倒すというストーリーでした。これがエピソードⅥの話です。シスという帝国の存亡が、たかがベイダー卿のファミリー問題に置き換えられています。私としては、このストーリーの選択がスターウォーズの良さであり、だめな所だと思ってしまいます。思い出してください、アナキンが暗黒面に落ちたのは個人の問題でした。アミダラを運命から救いたいという欲望。それが帝国の形成に大きく影響します。結局、物語が個人の力を増大させてしまったため、一種の世界系になってしまったんです。ベイダーの一存で世界は救えるかどうかが決まってしまうという世界観といえます。国というものはそんな簡単なものじゃないですよね。スター・ウォーズが痛快活劇として進むためには必要な設定でしたが、リアルな社会では何にも解決にならないのです。それは社会が個人の責任で決まっているわけじゃないからです。社長が変わっても、会社のあり方が全くすぐに方針転換するわけじゃありません。それは結局、社会を形成している人々の心の問題なのです。
 そういえば、ジェダイはアナキンに修行させるかで初めに逡巡していました。一方で予言では調和をもたらす者という存在としてアナキンを見ていました。エピソードⅥまで終わってみると、たしかにアナキンはバランスした人とも言えますね。ジェダイの予言は正しかったと。

なんだかごちゃごちゃと書いてしまいましたが、スター・ウォーズは単に活劇としても面白いのですが、このシリーズに込めたメッセージを読み解くのもまた面白いのではないかと思います。ともあれ最新作、楽しみです。正月には観られるといいなあ。

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