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동해

京都国際中学高等学校が夏の甲子園大会、全国高等学校野球選手権大会準々決勝に4-0で勝利し、準決勝進出!おめでとうございます。野球はあまり視ないが(テニス、バスケ、サッカー、スキー等は部活などで経験あるのでたまに観戦も)、先週ちらっと試合を視たところ京都国際のピッチャーがうますぎて驚いた。緻密な試合運び。

さて、2021年から同校は甲子園に出場するようになり、勝利した結果、韓国語の校歌がテレビで流れたわけだが...3年経った2024年にもなって韓国語の歌詞に罵詈雑言のレイシストに驚いた。校歌や学校の存在を目の敵にし標的にすることはレイシズムであり、そんなレイシズムを許している日本社会の方が国際人権法的に見てもおかしいのだが。校歌の表現の自由を検閲し弾圧し、日本語を押し付けようとし、歴史的文脈も無視してマイノリティの存在や声を不可視化、社会の透明人間化することも差別だと気付かないマジョリティに愕然とする。

「大東亜共栄圏」や「五族共和」のおためごかしのもと、全体主義や皇国臣民教育の一環か1926年の第12回大会から1941年の第27回大会までは朝鮮、台湾、満州を含む22代表制だったのが日本の高校野球大会。

大東亜共栄会議

朝鮮、台湾、満州からの高校の出場枠があり(京城商や台湾総督府嘉義農林学校、大連商などが出場したらしい)、張りぼて大東亜共栄圏で野球が、スポーツが国威発揚にも資した以上、侵略し植民地化した国も囲い込んでの国威発揚のプラットフォームはその延長線上に外地からの徴兵も視野にあっただろう、と植民地時代の高校野球映画を観た10年以上前に記していた。
21世紀になって朝鮮半島にルーツのある学校が甲子園に出場するのは、まぎれもなく侵略、国際法違反の植民地支配の結果で残滓。その歴史的文脈の延長線上、延長のはてに朝鮮半島にルーツのある学校が大会に出場したわけだが、今となってはもちろん「外地」の出場枠などではなく多様性や多文化共生の一環に見えるような、新しい文脈も備えている。京都国際が「人間味あふれる、真の国際人へ」を掲げてもいるように。

五族共和

韓国語の歌詞は開校時、あるいは校歌作詞作曲当時はただ朝鮮半島の生徒のための学校だったため「한국의 학원」となっている。しかし、高校野球大会出場に際し学校側が提出したという日本語の歌詞は、その直訳ではなく「韓日の学び舎」。朝鮮半島の、韓国の子どもたちのための学校から出発し日本の子どもも共に学ぶようになった歩み、現在までの変遷、数十年の歴史が、韓国語の歌詞に続く「韓日の学び舎」を見た瞬間、可視化される。

その日韓の詞の差異に触れる時、時間の流れと変化、歴史的経緯を知ることが出来る。台湾や満州の高校と共に「外地」枠で出場していた朝鮮半島の戦前の高校野球は「大東亜共栄圏」という日本の侵略戦争の枠組みの中。一方、その「大東亜共栄圏」から派生し、「内地」の日本で生活、ここで生きていくようになった朝鮮半島にルーツを持つ子どもたちの歴史や足跡が見える。彼らの親たちが子どもたちのために学校を作って生きてきた、最初はそうだったんだよ、という歴史的プロセスが韓国語の校歌の歌詞と、遅れて現れる、ずらしのある日本語の歌詞の行間から立ち上がってくる。更新された現在地、多様性という現在地も立ち上がってくる。韓国語の歌詞を見て、日本語の歌詞を見る、訳語の多少のずらし、約1秒(0.5秒?)の視線のずれや差異が時空を20世紀までぐーんと広げた、歴史的輪唱のようにも聞こえた。単なるバイリンガルではない、輪唱のように時間差で響くふたつの言葉はその段差や余白に長い歴史を浮かび上がらせてもいた。韓国語詞と日本語の訳詞の間には同校の変遷と歴史も響いている。

韓国語校歌の「동해」即ち「東海(東の海)」について難癖をつける無知蒙昧レイシストも目に付く。本来、国際法違反の侵略、不法な植民地支配した戦犯の側は現状を回復しなければならないはず。日本の侵略や戦争でアジアでは2千万人が殺されたが、働き手や一家の大黒柱の手足や家族の健康、人生も奪われていれば、その影響、アジア各地での被害は億単位の人間に及び、計り知れない損害と喪失のはず。

Jaffa, c 1940

76年前からパレスチナに侵略し土地を奪い、国際法違反※の入植を続けアパルトヘイトと虐殺をし続けるイスラエルは侵略したパレスチナの地名、オレンジの名産地ヤファ(Jaffa)をテルアビブに変えてしまった。国連の脱植民地化宣言等遵守し、現状回復するなら、セトラーコロニアリズムに反対する多くの人々が言うように「Free Palestine」や「Justice for Palestine」が実現されるなら、パレスチナの元の地名ヤファに戻さなければならない。
「東海」も5世紀頃に遡る記録や遺跡が考古学的に示す通り、長い間朝鮮半島で使われてきた名称。日本が国際法違反の侵略・植民地支配により奪い変えてきたものはすべて元通りにしなくては。

なお、1730年にヨーロッパで製作された地図にはラテン語で「MARE ORIENTALE MINVS(=小東海)」と書かれていた。18世紀に製作された「天下都地圖」を見ると、半島の右側の海を「小東海」、左側の海を「小西海」と
記しており、呼応もする表記。ただ、この地図の「小東海」が現代の東海ということを否定するレイシストもいるようで…第4外国語がラテン語だったささやかな知識、あるいはすべてラテン語で命名された月の海の名を引用すると「Mare Orientale」は東の海すなわち東海。それをMinvsで修飾しているのでは。

余談だが、1930年代に作られた朝鮮半島の民謡でも、歌詞で「東海」と歌われている。古くから使われている名称だからふつうに、自然に歌詞に登場するのだろう。

歌詞を少し深読みしてしまうと...「야마도 땅은 거룩한 우리 조상 옛적 꿈자리
大和の地は 偉大な祖先の 古の夢の場所」が古代史にも時空をぐーんと引き延ばす。5世紀ころ、朝鮮半島から日本に渡って来た渡来人は最初の頃は大和国葛城に移り住んでいた。秦氏の本貫のひとつが大和国だった。その後、技術者集団である秦氏は京都太秦(山背国葛野郡太秦)などを本拠地とし、養蚕・機織りに、土木建築や酒造りなども広めていった。桂川(旧葛野川)に堰を設ける大改修を行ったが、その場所は現在の嵐山渡月橋付近という。現代の一大観光地のひとつで、美しい。桂川の両岸を灌漑して水田も開発。治水の成功により政界にも進出。その代表格が厩戸王(聖徳太子)のブレーンだった秦河勝。「夢」という語は聖徳太子にもリンクするが...どこまでも夢を実現していくような渡来人秦氏の「古の夢の場所」、夢を叶えた場所も京都だった、と思い至るような歌詞。縁の深さも伝えて奥が深い。
京都最古の寺で秦氏の氏寺である広隆寺には朝鮮半島からの渡来像と考えられる、アカマツ製の「木造弥勒菩薩半跏像(宝冠弥勒)」がある。朝鮮半島では宮殿などの建築物にも赤松をよく使う。仏像もこの地に渡来していたのだ、と感慨深い。(京都史など参考:まっぷる)

Public domain, 小川晴暘 - 上野直昭『上代の彫刻』(朝日新聞社、1942)

最後に...国際連合憲章敵国条項で日本=敵国として適用される、以下の条文が気になっている。「...敵国における侵略政策の再現に備える地域的取極において規定されるものは、関係政府の要請に基いてこの機構がこの敵国による新たな侵略を防止する責任を負うときまで例外とする」
国連が定める敵国即ち日本による「侵略政策の再現」「新たな侵略」に備えるなら、戦前に遡って「日本海」と呼び替え強要することはなおさらあり得ないだろう。「新たな侵略」を防止するためにも、違法で不法な植民地支配で不当に奪ったもの変えたものはすべて現状回復させるのが原則、戦前回帰は国連憲章や国際法的にも許されないのでは、と思ったりも。

Post of International Court of Justice (ICJ, UN)

※ 国際司法裁判所(ICJ, UN)は先月、勧告的意見としてイスラエルの入植活動などの占領政策は「事実上の併合」で国際法違反と指摘。「占領を出来るだけ早く終わらせなければならない」と勧告。入植者の退去や新たな入植の停止、占領地域で生じた損害への補償の義務を負うことなどをイスラエルに求める一方、パレスチナ人は長期にわたって自己決定権を奪われており、イスラエルは「占領国として自決権を尊重する義務」という国際法にも違反と指摘していた。

レイシズム、ヘイトスピーチにはZero Tolerance

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