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【インターネット白書】PDF全文無料公開――2023年版バックナンバーアーカイブ
ウェブサイト「インターネット白書ARCHIVES」で『インターネット白書2023 分断する世界とインターネットガバナンス』のアーカイブPDFが追加公開された。バックナンバーを誰でも無償で検索・閲覧できる。今回は本書の内容について、概要と各記事のリード文とともに紹介する。
1996年の創刊号から27年分のアーカイブPDFを公開
「インターネット白書ARCHIVES」では、インターネット黎明期(1996年)からの歴史を年鑑として発行し続けている『インターネット白書』のバックナンバーをデジタル化し、無料で検索・閲覧できる。発行後1年を経過した『インターネット白書』は、アーカイブとしてPDFが公開される。
同サイトは、インターネット協会(IAjapan)、日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)、日本レジストリサービス(JPRS)、そしてインプレス・サステナブルラボが共同で運営している(共同運営者の詳細はこちら)。
2023年版のテーマは「分断する世界とインターネットガバナンス」
『インターネット白書2023』のテーマは「分断する世界とインターネットガバナンス」で、主に2022年~2023年初頭のインターネットの状況を踏まえている。
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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響でライフスタイルが変化し、その後も成長を続けるデジタルサービスの話題、ロシアによるウクライナ侵攻など国際紛争を背景にしたサイバー攻撃やフェイクニュースの攻防、偽情報問題に対応するファクトチェック機関の開設、また翌年に京都で開催されるIGF 2023を前に国境を超えるグローバルなインターネットガバナンスの重要性について展望している。
新しい話題として注目が集まったWeb3においては、その技術要素の解説や、重要概念であるDAOに関して制度改革面から考察し、ムーブメントの背景にある基本的な考え方を読むことができる。さらに、最新刊2024年版『インターネット白書2024(副題:AI化する社会のデータガバナンス)』でも複数の専門家が解説している生成AI(本号では「ジェネレーティブAI」)については、この2023年版で初めて取り上げている。
以下、各記事の見出しとリード文を掲載する。インターネットに関する広範囲な論点を取り上げているので、読者にとっての興味・関心トピックもきっと見つかるはずだ。ぜひアーカイブを活用してほしい。
※執筆者の所属や肩書は発行当時のものを記載しています。
巻頭:10大キーワードで読む2023年のインターネット
執筆協力:仲里 淳●インプレス・サステナブルラボ研究員
01【ジェネレーティブAI】クリエーティブ領域での進歩で高まる期待と不安
02【DAO】国家戦略にも盛り込まれたWeb3の重要概念
03【メタバース】イベント企画として定着するもさらなる普及に壁
04【デジタルツイン】全国へと広がる都市のモデル化と活用
05【ファクトチェック機関】国内での活動活性化を目指して新組織が設立
06【ステルスマーケティング規制】ステマ撲滅へ向けた法制化が進行中
07【テックジャイアント失速】コロナ特需からの反動と成長鈍化の兆候
08【ソブリンクラウド】主権を担保するクラウドサービスの新潮流
09【インターネットと戦争】ロシアのウクライナ侵攻で突き付けられたもの
10【IGF 2023】インターネットの国際会議が日本で初開催
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第1部 テクノロジーとプラットフォーム
1-1 アプリケーションと開発
世界を席巻するジェネレーティブAI
青山 祐輔●ITジャーナリスト
「Midjourney」」や「ChatGPT」など誰でも簡単にコンテンツを生成できるサービスが流行し、AI技術が身近に。作風や創造性の学習モデルをめぐる議論も起こり、人間による知的作業の本質を突き付ける。
Web3の技術と未来への課題
斉藤 賢爾●早稲田大学 大学院経営管理研究科
Web 1.0とWeb 2.0におけるデータ生産の取り組みを統合しようとするWeb 3.0の試み。しかし、ブロックチェーンによって実現するには課題が多い。技術の進展のために冷静な議論と研究が求められる。
都市のデジタルツインと位置情報技術
片岡 義明●フリーランスライター
仮想空間上に現実世界を再現して分析やシミュレーションを行う“都市のデジタルツイン”。3D都市モデルの整備が進み活用事例が増えつつある現況と、この取り組みで重要な位置情報技術についても解説する。
メタバースの系譜とこれからの課題
三淵 啓自●デジタルハリウッド大学大学院 デジタルコンテンツ研究科 デジタルコンテンツ研究科 教授
アバターを介して個と個がコミュニケーションし、経済活動もできるメタバース。Web3時代には分散型仮想空間として発展する可能性があるが、ブロックチェーンとの融合には課題が多い。
1-2 クラウド
クラウドの市場動向とエッジコンピューティング
林 雅之●国際大学GLOCOM 客員研究員(NTTコミュニケーションズ株式会社 勤務)
DX推進を背景にクラウドファーストの動きが加速し、ローコード/ノーコード開発プラットフォーム対応の利用も増加。プライベートクラウドでは地政学リスクを考慮した「ソブリンクラウド」が注目される。
第2部 デジタルエコノミーとビジネストレンド
2-1 Eコマースと金融
Eコマース市場の動向
田中 秀樹●株式会社富士通フューチャースタディーズ・センター 業務部門 部長
Eコマース市場はコロナ禍による特需が落ち着いても成長を続ける。大手Eコマースプラットフォーマーは物流と販売の強化で売上を伸ばし、小売企業等は実店舗の強みやソーシャルメディアを活かして対抗する。
決済プラットフォームの動向
多田羅 政和●株式会社電子決済研究所 代表取締役社長/電子決済マガジン 編集長
スマホを利用したネット決済が実店舗にも普及してきた。また、新たな個人間送金サービスの登場や全銀システムの開放、デジタル給与の解禁など、銀行と決済サービス事業者の間の垣根が崩れ始めている。
シェアリングエコノミーの最新動向
白石 隼人●KPMGコンサルティング株式会社 アソシエイトパートナー
国内においてもシェアリングエコノミーは着実に成長。今後さらに社会的に認知され、利用者層を拡充していくためには、新たな提供価値の創造とインフラ強化が必要であり、それには行政との協働が重要となる。
2022年の暗号資産の動向
岩下 直行●京都大学公共政策大学院 教授
欧米主要国の金融引締めを受けて暗号資産相場は暴落。問題も噴出し、暗号資産関連ビジネスを営む企業が相次いで破綻した。今後は、金融政策の行方、新たな規制導入論議とそれへの対応などが課題となる。
2-2 デジタルコンテンツとメディア
2022年のテレビとインターネットの動き
倉又 俊夫●日本放送協会 メディア総局展開センター チーフ・プロデューサー
冬季オリンピックやW杯での配信サービス、TVerでの民放番組ライブ配信など、新しいテレビの視聴体験が好評だ。一方、テレビ放送の総個人視聴率の減少を、配信でどれだけ補えるかには注視が必要である。
2022年デジタル音楽の動向
荒川 祐二●株式会社NexTone 代表取締役COO
巣ごもり需要の影響により世界の音楽産業の総売上は大きく伸びた。ストリーミングの大幅増とパッケージの盛り返しが大きい。音楽業界のビジネスモデルが多様化し、アーティストも変化への対応が必要。
オンラインゲームを中心としたエンターテインメント動向
澤 紫臣●アマツ株式会社 取締役CCO
国内ゲーム市場が低迷するなか、中国をはじめとする海外タイトルの攻勢が進んでいる。メタバースやWeb3といった新領域との融合や、注目のeスポーツではライフデザインを見据えた世界観作りが重要となる。
国内インターネット広告市場の動向
高野 峻●みずほ銀行 産業調査部 インダストリーアナリスト
プライバシー保護規制を背景に競争環境が変化する中で、動画配信プレーヤーのほか、ファーストパーティーデータを保有する新規参入企業の動向が注目される。
ウィズコロナ時代における消費者とのコミュニケーション方法
高木 史朗●ニールセン デジタル株式会社 シニアアナリスト
コヴァリョヴァ・ソフィヤ●ニールセン デジタル株式会社 シニアアナリスト
行動規制が緩和され、コロナ禍前に戻った行動もある一方で、コロナ禍後も定着し継続している行動もある。企業は、ウィズコロナ時代の消費者にあわせたコミュニケーションを設計していくことが重要となる。
2-3 通信サービス
国内モバイルキャリアのビジネス動向
天野 浩徳●株式会社MCA 通信アナリスト
携帯各社は5Gの普及や新領域事業に収益回復の期待をかける。新技術ではスマートフォンと衛星の直接通信が話題だが、大規模障害時の事業者間ローミングやプラチナバンドの割り当てなど課題は尽きない。
第3部 インターネットと社会制度
3-1 法律と政策
インターネット関連法律の全体動向
岡村 久道●弁護士/京都大学大学院 医学研究科 講師
セキュリティ等の面から警察法、防衛省設置法等、外国為替及び外国貿易法、電気通信事業法等が改正され、経済安全保障推進法が成立。人権に配慮し刑法等が改正され、AV出演被害防止・救済法等が成立した。
ステルスマーケティングの現状と規制の動き
寺田 眞治●一般財団法人日本情報経済社会推進協会 主席研究員
先進国では唯一「ステマ」規制がなかった日本。SNSや動画共有サイトの投稿、ECプラットフォームでのレビューを利用したステマの氾濫に、消費者庁が法規制の検討を開始。消費者のリテラシーも課題。
DAOをめぐる制度改革の論点
増島 雅和●森・濱田松本法律事務所 パートナー弁護士
組織の再発明を標榜するDAOは、場所の観念を持たず、ガバナンスやインセンティブをブロックチェーンに依存する点で、従来型の組織法制の延長線上にない柔軟な制度改革が必要になる。
EUにおけるデータ流通政策の動向
寺田 眞治●一般財団法人日本情報経済社会推進協会 主席研究員
データ利用における人権を保護し、自由で公正なデジタル単一市場に向けデータ政策の整備が進むEU。大量データ保有事業者には規律やデジタル市民権の提案も。これらがグローバル市場に大きな影響を与える。
3-2 市民と教育
日本ファクトチェックセンター設立の経緯と日本の偽情報・誤情報をめぐる現状
古田 大輔●日本ファクトチェックセンター(JFC) 編集長
2022年10月1日に正式発足した日本ファクトチェックセンターは、日本の独立系ファクトチェック機関としては過去最大規模である。なぜ今、必要とされたのか、設立経緯と今後の計画を紹介する。
世界に広がり始めたSTEM教育
関島 章江●株式会社電通国際情報サービス Xイノベーション本部 オープンイノベーションラボ
VUCAの時代を生き抜くための資質と能力を育成する「STEM」教育。今や世界各国が国家戦略と位置づけ積極的に推進を図っているが、日本での普及には未だ課題も多い。
第4部 サイバーセキュリティとインターネットガバナンス
4-1 サイバーセキュリティ
2022年の情報セキュリティ動向
横井 逸人●一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター(JPCERT/CC) 早期警戒グループ 脅威アナリスト
2022年は、2021年にテイクダウンされたマルウエアのEmotetが復活し、以前を上回る猛威を振るった。さらに、SSL-VPN製品の脆弱性を利用した攻撃とサプライチェーン攻撃も頻発した。
フィッシング詐欺被害の現状と対策
加藤 孝浩●フィッシング対策協議会 運営委員長
2022年は、フィッシング詐欺の報告件数が倍増した。実在するサービスのメールアドレスが差出人となっているケースも非常に多く、“なりすましメール”の対策は急務となっている。
ウクライナ侵攻における戦闘活動と連動型サイバー攻撃
新井 悠●NTTデータ サイバーセキュリティ技術部 Executive Security Analyst
ロシアによるウクライナ侵攻では、軍事攻撃と連動してサイバー攻撃も盛んに行われている。ロシア側の事例を中心に、攻撃組織の実態や攻撃手法、ハクティビストグループによる関与の可能性について解説する。
ウクライナ侵攻に見る「フェイクニュースと戦争」
平 和博●桜美林大学 教授
ロシアによるウクライナ侵攻は、フェイクニュースが戦争の武器として使われる実例となった。ソーシャルメディア時代の戦争は、スマートフォンのアプリを通じて戦場と日常をリアルタイムで結びつけた。
4-2 トラフィックと通信インフラ
5G/Beyond 5Gをめぐる周波数政策の動向
飯塚 留美●一般財団法人マルチメディア振興センター ICTリサーチ&コンサルティング部 シニア・リサーチディレクター
中国、韓国、米国をはじめ、世界中で拡大する5G。スタンドアローン型5Gのネットワーク展開や、5Gを活用したプライベートネットワークの導入が各国で進んでいる。
空のインフラ──成層圏と低軌道衛星インターネットの動向
湧川 隆次●慶應義塾大学KGRI特任教授
低軌道衛星を利用した通信技術がインターネットサービスのさらなる普及を促す。成層圏を飛ぶHAPSから宇宙空間の衛星まで、空のインフラの発展に期待が高まる。
インターネットトラフィックの動向
長 健二朗●株式会社インターネットイニシアティブ
福田 健介●国立情報学研究所
2022年のトラフィック傾向は前年からあまり変わらず、リモートワークなどの状況にも変化はなし。一方、平日のピーク時間帯と休日全体ではトラフィック量が増加。全体のトラフィック量は堅調に増加していくものと思われる。
国内データセンターサービスの動向
三柳 英樹●株式会社インプレス クラウド&データセンター完全ガイド 編集長/クラウドWatch 記者
ハイパースケール向けデータセンターの建設が旺盛、省エネ・再エネへの取り組みもトレンドに。増加率は高い水準で拡大していくと予測される。
4-3 インターネット基盤
ドメイン名の動向
横井 裕一●株式会社日本レジストリサービス(JPRS) 広報宣伝室 室長
全世界のドメイン名登録数は約3億4990万件となり、JPドメイン名の登録数は170万件を超えた。「.com」などの登録料金が値上げされたほか、ウクライナ政府による「.ru」などの無効化要請にICANNは応じなかった。
IPアドレス利用の動向
角倉 教義●一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC) IP事業部・インターネット推進部
IPv4アドレスは、需要が継続する一方で、調達コストは高止まりの傾向。IPv6アドレスは、コンテンツ側の対応が引き続き課題となっている。
DNSの動向
森下 泰宏●株式会社日本レジストリサービス(JPRS) 広報宣伝室 技術広報担当・技術研修センター
運用経験に基づくDNSSEC設定の推奨値見直しと対応が進められている。また、ルートゾーンKSKロールオーバーの検討が再開され、権利侵害を理由としたDNSブロッキングの世界的な動きに注目が集まっている。
インターネットガバナンスの動向
前村 昌紀●一般社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)政策主幹
ロシアのウクライナ侵攻の影響で、インターネットは分断の是非が問われたものの、改めて「グローバルに単一なインターネット」の重要性とその上での外交や公空間のルール整備の必要性を再認識。
インターネットガバナンスフォーラム2023年会議に向けて
木下 剛●一般財団法人インターネット協会 副理事長
国連主催のインターネットガバナンスフォーラムの第18回会議が、2023年10月に日本で開催される。国内マルチステークホルダーのインターネットガバナンスへの関心が高まる契機となることが期待される。
第5部 インターネット関連資料
5-1 国内インターネット普及資料
5-2 デジタルコンテンツ資料
5-3 IoTその他資料
5-4 世界のインターネット普及資料
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