CES 2024で注目のスタートアップ企業による最先端アクセシビリティ製品――手の震えを軽減する「GyroGlove」、舌でパソコンを操作するマウスピース型デバイス「MouthPad」
米国ラスベガスで1月9~12日に開催された「CES 2024」では、「AI」「モビリティ」「持続可能性」「万人のための安全保障」の4つが主要テーマとなり、世界中からテック企業を中心に4000以上の企業や団体が集結した。近年のCESではアクセシビリティ製品の展示が増えてきていたが、今年はさらに注目度が高まっていた。本稿ではCESで披露された中からスタートアップが手がけた注目のアクセシビリティ製品を紹介する
高性能ジャイロスコープ搭載、手の震えを軽減する「GyroGlove(ジャイログローブ)」
GyroGloveは、パーキンソン病や本態性振戦などの慢性的な手の震えがある人向けに開発されたウエアラブルデバイスである。高度なジャイロスコープを搭載しており、装着することで一時的に手の震えを緩和し、動きを安定させる。ジャイロスコープとは物体の角度や角加速度を検出する計測器ないし装置のことで、航空機、人工衛星、カー・ナビゲーション・システム、スマートフォン、ゲーム機のコントローラーなどに幅広く応用されている。
シンガポールのスタートアップGyroGearが開発
シンガポールのスタートアップ企業であるGyroGear(ジャイロギア)は、2018年の創業以来、資産調達などを行いながらGyroGloveの開発・試作を進めてきた。創業者のDr. Faii Ong(ファイ・オング博士)は、医学生時代に英国ロンドンの病院で手の震えによる食事の難しさを抱えるパーキンソン病患者の姿を目にして、それが起業のきっかけとなったという。GyroGloveは公式サイトで販売を開始しており、価格は5899ドル※となっている。
アクセシビリティ&エイジングなど3部門でイノベーションアワード受賞
CES初出展となるGyroGearだが、コンシューマー製品の優れたデザインと技術を評価する「CES 2024イノベーションアワード」において、アクセシビリティ&エイジング技術、デジタルヘルス、ウエアラブルテクノロジーの3部門で受賞している。「世界中で手の震えの症状を抱える人は約2億人いるが、現行の治療法では薬や手術に伴う副作用やリスクがついており、十分な効果が得られていない現状がある。GyroGloveは、装着することで手の震えを瞬時に安定化させ、患者の生活の質を向上させる期待がある」と評価されたものだ。
【 GyroGear公式YouTubeチャンネル:GyroGear開発者談、体験者たちの様子】
手や声を使わずにコンピューターやスマートフォンを操作できる「MouthPad(マウスパッド)」
MouthPadは、発話障害や運動障害がある人向けに開発されたマウスピース型デバイスで、口の中に装着して舌でマウスポインターを動かしたり、クリックしたりできる。開発したのは、米国サンフランシスコのスタートアップであるAugmental(オグメンタル)だ。
3Dプリンティングや電子カプセル化の技術、歯科用レジンを活用
MouthPadは、3Dプリンティングや電子カプセル化などの技術を活用してユーザーごとにカスタマイズして作られる。口の中に装着されるため外部からは見えず、歯科用のレジンを使用するため安全性も確保されているという。バッテリーで約5時間の使用が可能で、iOS、Android、Windows、macOS、Linuxに対応する。価格については未定だが、公式サイトでのウエイトリストへの登録が始まっている。
【Augmentalによる公式映像:開発者たちの話と四肢麻痺のある人たちがMouthPadを体験する様子】
AIやモビリティなどの技術進歩はアクセシビリティ製品にも寄与し、開発を加速させている。その成果として、これまで研究段階だった製品が実用化されるなど、大きな進展が見受けられる。同時に、スタートアップの市場参入も活発化しており、アクセシビリティ分野全体のさらなる発展への期待が高まっている。この分野でのポジティブな変化が広がっていくことを期待する。
文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員
トップ画像:CES(Consumer Technology Association)
編集:タテグミ
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