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「創造性」で世界を動かす「UN SDG Action Awards 2024」(後編)――世界各地から集まった革新的プロジェクトとチェンジメーカーたち

国連が主催する「UN SDG Action Awards 2024」では「Creativity(創造性)」「Impact(インパクト)」「Changemaker(チェンジメーカー)」の3つのカテゴリーでファイナリストが選出され、表彰式で受賞プロジェクトが発表された。前回に続く本稿では、持続可能な未来への道筋を示す、創造性に満ちた多様なプロジェクトを紹介する。

10月29日、イタリア・ローマで開催された「UN SDG Action Awards 2024」表彰式。ファイナリスト、審査員、スピーチ登壇者たちが一堂に会した

190か国から5500件の応募――革新性と再現性を重視した選考プロセス

「UN SDG Action Awards」は、より持続可能で公平かつ平和な世界に近づくために創造性と革新の力を発揮している取り組みや献身的な個人を応援するためのアワードである。

今年応募のあった190か国・5500件の活動内容はすべて、UN SDG Action Awardsチームによる確認を経て、インパクト、アプローチの革新性、他国での再現可能性といった基準に基づき、審査員パネルと技術審査チームによって評価された。イタリア·ローマでの表彰式に先立ち、各カテゴリーのファイナリストが選出され、当日、各チームの代表者たちはローマの会場に集まり、発表の瞬間を待ち望んだ。

それぞれのカテゴリーで選ばれたファイナリスト、そして栄えある受賞プロジェクトを見ていこう。

3部門から計9組のファイナリストと特別賞1組の団体・個人が表彰式に参加した。

Creativity(創造性)部門

芸術やメディアの力を活用し、社会課題の解決に挑む3つのプロジェクトが選ばれた。

Assume that I can(イタリア):ダウン症に対する固定観念を打ち破るキャンペーン【Creativity部門優秀賞】

ダウン症を持つ人々に対する偏見を打破し、社会的な理解を深めることを目的としたイタリアのダウン症協会CoorDownのプロジェクト。カナダの女優マディソン·テブリン氏を起用した動画は、視聴者に偏見を再考させる強力なメッセージを伝えるもので、公開から1週間で1億5000万回以上視聴され、幅広い議論とメディア報道を喚起した。これにより、数々の主要団体からの支持を受け、ダウン症を持つ人々のためのより多くの機会と包括的な社会を推進するムーブメントを生み出した。さらに、7回のカンヌライオンズをはじめとする数多くの賞も受賞している。

CoorDown公式YouTube:ASSUME THAT I CAN
"できることを前提にすれば、その可能性は開かれる”というメッセージをインパクトのあるシナリオで表現したAssume That I Canキャンペーン動画

ダウン症の娘の誕生をきっかけに活動を始めたCoorDown代表のマルティナ・フーガ氏は、「マディソン・タビンさんのパフォーマンスは、ダウン症の人々がただ参加するだけでなく、変革をリードし、何百万人をインスパイアする力を持っていることを示してくれた」と受賞のメッセージを語った(Creativity部門優秀賞)

Keychange(グローバル):音楽業界のジェンダー平等を目指す構造改革【Creativity部門ファイナリスト】

音楽業界におけるジェンダー不平等に立ち向かう「Keychange」ムーブメントは、2017年にグローバルな取り組みとして始まった。この運動は、女性やジェンダー多様性のあるアーティストの代表性を高め、音楽業界の再構築を目指している。「Keychangeタレント育成プログラム」では、世界中の女性やジェンダー多様性のあるアーティストに対して、ネットワークや国際的な発表の場を提供している。これまでに13か国から300人以上のアーティストやイノベーターを支援し、数十のフェスティバルやカンファレンスで活躍の場を創出してきた。現在では700以上の音楽関連企業が、変革を約束する「Keychangeプレッジ」に署名している。

TrueMyVoice(ナイジェリア):詩の力でアフリカの社会正義を推進【Creativity部門ファイナリスト】

ナイジェリアの詩人アルハニスラム氏が率いるこの取り組みは、詩の変革的な力を活用してアフリカ全土での社会変革を推進している。詩人たちにデジタルスキルを提供し、影響力のあるパートナーシップを構築しながら、幅広いアドボカシーキャンペーンを展開している。例えば「Sound of Unity」キャンペーンやChange.orgとの「16 Days of Activism」の共同企画など、200万人以上に届く活動を通じて、ジェンダーに基づく暴力への反対を訴えた。砂漠化や選挙の公正性などの課題に対する認識を高めただけでなく、法制度改革を実現し、困難な状況にある学生の安全な帰国を可能にするなど、社会的変革の実現にも貢献している。

力強い詩の朗読で社会変革を呼びかけるナイジェリアの詩人、アルハニスラム氏。

Impact(インパクト)部門

具体的な成果と持続的な変化をもたらした取り組みとして、以下のプロジェクトが選出された。本部門では同等の評価を受けた2組が共に優勝を手にした。

Plant-for-the-Planet(グローバル):若者の力、教育、デジタルツールを活用して気候危機や生物多様性の喪失に取り組む【Impact部門優秀賞】

森林破壊と気候変動が進む中、若者のエンパワーメント、教育、再生研究、デジタルツールを活用して気候危機や生物多様性の喪失に取り組むグローバルプロジェクトである。2013年以降、パートナープロジェクトと共に3000万本以上の木を植樹し、2018年以降はそのツールを通じて200万人以上に影響を与えてきた。また、Plant-for-the-Planetのプラットフォームを活用したプロジェクトは300以上に上り、9000万本を超える木々の再生を実現した。透明性と信頼性を重視した技術的なエコシステムにより、森林再生活動を支援し、気候危機に具体的な変化をもたらしている。

「かつて60億本あった地球の木々は今や30億本に。この数十年で森林破壊のペースは少し緩やかになったが、今こそ完全に止める時」とPlant-for-the-Planetアンバサダー、フェリックス・フィンクバイナー氏(Impact部門優秀賞)

Gjenge Makers(ケニア):プラスチックを建築資材に変える革新的な廃棄物管理【Impact部門優秀賞】

廃棄物管理が深刻な課題となっているケニア・ナイロビで、プラスチック廃棄物を建築資材に変える取り組みを行う社会的企業である。ケニア規格局の認証を受けた独自のプロセスにより、これまでに200トン以上のプラスチック廃棄物をリサイクルし、舗装ブロックやタイルなどの建材を製造してきた。また、女性や若者を中心に600以上の雇用を創出し、リサイクル文化の普及にも貢献している。この活動は、汚染を削減するだけでなく、社会経済の成長や地域のエンパワーメントを推進している。

「ワンガリ・マータイ氏(アフリカ女性初のノーベル平和賞受賞者)のような先駆者たちが切り拓いた道があったからこそ今がある」とGjenge Makers創設者のンザンビ・マティー氏。「アフリカの女性起業家への投資はわずか2%。しかし、私たちは確実に結果を出してきた」とアフリカ女性企業家への投資を呼びかけた(Impact部門優秀賞)

Story of Peru's Largest Oil Spill(ペルー):ペルー最大の原油流出事故の危機に法的枠組みで応えるペルー環境法協会【Impact部門ファイナリスト】

2022年1月にペルーで発生した史上最大級の石油流出事故は、リマとカヤオ周辺の沿岸部を破壊し、生態系とコミュニティに深刻な被害をもたらした。この事態に対し、ペルー環境法協会(SPDA)は映像による記録、分析、環境正義のための提言活動を展開している。自然保護区、エコツーリズム、土地利用計画、生態系保全のための法的枠組みを構築した。また、新たな「環境緊急事態宣言法」の制定を実現させ、被災したコミュニティの支援と国内連携の強化にも大きく貢献し、30万人以上に影響を与えた。

Changemaker(チェンジメーカー)部門

社会変革への強い意志と行動力で社会変革を実現する3人のチェンジメーカーが選ばれた。

スヴァルナ・ラージ氏(インド):障害者の権利擁護を目指すパラアスリート【Changemaker部門優秀賞】

施設などの利用のしにくさ、社会的孤立、偏見、医療や教育へのアクセス不足など、障害者が直面する問題に対して、政策提言や公共アクセスの監査を通じてインドでのシステム的な変革を推進する活動家である。2016年の「障害者権利法」や「精神保健法」の制定に向けた提言活動を行い、障害者への法的保護と支援サービスを提供する仕組みづくりに貢献した。また、インド選挙管理委員会のアンバサダーとして、選挙のアクセシビリティ向上にも取り組んでいる。

「子どもの頃は世界から『見えない存在』だった。妻になり、母になり、愛を知り、この愛が私を行動へと駆り立てた」「国際的なパラアスリートとしての立場は、障害のある人々のために声を上げる役割を与えてくれた」と受賞のスピーチで語ったスヴァルナ・ラージ氏(Changemaker部門優秀賞)

ペイジー・マームード氏(英国):児童婚と名誉に基づく暴力の撲滅を目指す【Changemaker部門ファイナリスト】

児童婚のサバイバーであり、女性支援団体IKWROのキャンペイナーとして、子どもたちの未来を奪う児童婚と名誉に基づく暴力の撲滅に取り組んでいる。自身の体験を基にしたストーリーテリング、地域社会への教育活動、立法活動を通じて、ジェンダー平等を推進する変革を進めている。その活動は、英国およびウェールズでの「婚姻および市民パートナーシップ(最低年齢)法」の制定につながり、16歳・17歳の結婚を認めていた法的例外が撤廃された。この法律は、被害者が法律支援、カウンセリング、安全な避難所など必要な支援を受けられることを保証し、少女たちにとって、より安全な社会の構築を促進している。

ニャラゾ・マシャヤモンベ氏(ジンバブエ):メディアと安全な場づくりを通じたジェンダー平等の実現【Changemaker部門ファイナリスト】

ジェンダーに基づく暴力や差別、機会の制限など、ジンバブエの少女や若い女性たちが直面する重要な課題に取り組む活動家である。ジェンダーに基づく暴力や気候変動といった問題に取り組む若い女性たちを力強く支援するとともに、経済的エンパワーメントや性と生殖に関する健康権を促進している。「リーダーシップ経済メンターシップ·ハブ」を通じて、6500人以上の少女や若い女性たちのコミュニティでの活躍を支援。また、「すべての子どもに教育を(ECIS)」キャンペーンを通じて200以上の市民社会団体を動員し、教育法改正の推進に貢献している。

Changemaker部門ファイナリストのペイジー・マームード氏(左)とニャラゾ・マシャヤモンベ氏(中央)。同部門をはじめ今回のアワードでは女性の活躍が際立っていた

特別賞

国連開発計画(UNDP)による「Weather Kids」キャンペーン

2024年3月に開始された、未来の世代のために今日の気候変動対策を促進するキャンペーンで、世界気象機関(WMO)とザ・ウェザーカンパニーが協力し、87カ国で展開された。世界各地の子どもたち30人が気象キャスターとなり、2050年の気象予報という形で気候変動の影響を「未来の予報」としてテレビやオンラインプラットフォームで伝えた。この予報では、世界の子どもの94%が熱波の影響を受けて外遊びができなくなる可能性や、食料安全保障への脅威、さらには災害対策で納税者への6兆ドル規模の経済的影響など具体的なリスクを警告しながら、クリーンエネルギーの導入による解決策も示されている。40億回のインプレッション、キャンペーンページでの80万回の視聴を記録し、400の放送局で報道されるなど反響を呼び、地球の未来を守るための即座の世界的行動の必要性を促している。

国連開発計画(UNDP)公式YouTubeチャンネル。Weather Kidsのプレイリストには、70本の動画が複数の言語で掲載されている。日本語吹替版(以下にリンク)も用意されている。

国連開発計画(UNDP)公式YouTube:Weather Kids「これは単なる天気予報ではありません。私たちの未来なのです」という子どもたちの力強いメッセージとともに、大人たちに対して投票行動や持続可能な経済活動への参加、気候変動対策の学習を促す誓約への署名を呼びかけた。

「私たちのメッセージが、行動を起こせる大人たちに届きますように」―Weather Kidsキャンペーンで未来の気象予報を伝えた子どもたちの代表としてイタリアのイザベラさんが登壇。
世界30カ国の子どもたちが未来の気象予報を発信し、87カ国で展開されたWeather Kidsキャンペーン。「子どもたちは気候変動の真実を説得力を持って語り、さらに、より良い未来のために行動できる時間がまだ残されていることを思い出させてくれた」と語った国連開発計画(UNDP)で対外関係・啓発広報を担当する局長スーザン・ブラウン氏

"アクションアワード”の名のとおり、ファイナリストたちのどのプロジェクトからも、社会変革を促進する力強いメッセージと行動力あふれるエネルギーが伝わってくる。中でも、Changemaker部門の個々の活動家たちが示す揺るぎない信念と、それを現実に変える行動力には圧倒させられる。女性の活躍が際立ったことも印象的であった。SDGsの目標達成に向けて、一人一人が「できること」を行動する重要性と、その可能性を強く感じさせてくれるアワードである。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

画像:UN SDG Action Awards Ceremony/Antonella Violante
編集:タテグミ

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