見出し画像

2024年度サービス開始! NTTとスカパーJSATが宇宙インターネット事業で新会社を設立

宇宙事業で提携してきたNTTとスカパーJSATが、新会社Space Compassの設立を発表した。Space Compassでは、持続可能な社会の実現に向けた新たな宇宙統合コンピューティング・ネットワーク事業を目指すという。

持続可能な社会に求められるインフラ実現へ

2022年4月26日、NTTとスカパーJSATは、新会社Space Compassの設立で合意したことを発表した。NTTとスカパーJSATは、これまでも業務提携により、お互いの専門分野を生かして「宇宙統合コンピューティング・ネットワーク」の構築に挑戦するとしていた。新会社の設立は、その実現に向けた具体的な一歩となる。

Space Compassでは、主に以下の2つの事業に取り組む。

  • 宇宙データセンター事業:宇宙における大容量通信・コンピューティング基盤

  • 宇宙RAN(Radio Access Network)事業:Beyond 5G/6Gにおける通信基盤

観測衛星からのデータを瞬時に取得

宇宙データセンター事業では、観測衛星などによって宇宙で収集される各種データを、静止軌道衛星経由で地上へ高速伝送する光データリレーサービスを提供する。現在は、観測衛星から地上局に直接データ伝送を行っているが、このやり方では転送のタイミングとデータ容量に制約がある。

静止軌道衛星経由での光データリレーサービスが実現すると、大容量かつ準リアルタイムのデータ伝送が可能となる。

現在、衛星データプラットフォーム「Tellus(テルース)」など、人工衛星から得られる宇宙データの活用が進んでいる。PCやスマホが驚異的な進歩を遂げたように、人工衛星に載せられる通信技術や膨大なデータ分析技術も進歩している。

宇宙データセンター事業では、これをさらに推し進めて高度化することが目的だ。気象予報の精度向上につながることで、太陽光発電や風力発電、波力発電といった自然の力に頼ったエネルギー供給の予測にも生かせるかもしれない。また、災害予測などにも有効だろう。

以前、エヌビディアが地球そのものをシミュレーションしようとする取り組みを紹介したが、そのためのデータとして使える可能性もある。より精度が高く、リアルタイムに近いデータであればあるほど、構築されるデジタルツインの質は高まり、有用性が増す。もちろん、宇宙そのものに関する研究開発にも大きく貢献するはずだ。

観測衛星からのデータを瞬時に取得

宇宙RAN事業は、インターネットアクセスをさらに向上させるものだ。これまでも人工衛星ネットワークを使った携帯サービスのイリジウムや旅客機でのインターネットアクセスサービスはあったが、データ通信では容量やコスト面では課題があった。

人工衛星や高高度プラットフォーム(HAPS)が連携し、最新の通信技術を用いたネットワークを構築することで、従来の課題を解決し、地上でのインターネットアクセスカバーエリアも拡大できる。

ウクライナ情勢では、スペースXの人工衛星インターネットアクセスサービス「Starlink」をウクライナに提供したと報道されている。ウクライナやロシアで(自由な)インターネットアクセスが困難な理由は戦争や国家による統制ではあるが、これを大災害に置き換えるとその有用性や価値が理解できるだろう。

なお、HAPSに関しては、2022年1月17日にNTT、NTTドコモ、スカパーJSAT、エアバスの4社による協業を発表している。また、2021年の段階でエアバスが開発したHAPS「Zephyr S」を用いた成層圏と地上間の電波伝搬の実証試験に成功している。

カバーできていないエリアが残る、山岳部や海洋においても、インターネットアクセスが容易になることで、不慮の事故や不測の事態を減らせるかもしれない。

遠い未来ではなくすぐ目の前にあるもの

Space Compassでは、宇宙データセンター事業は2024年度、宇宙RAN事業は2025年度の商用サービス提供を予定している。2021年5月の発表では2026年以降とされていたので、数年早まったことになる。これはNTTとスカパーJSATをはじめ、関係者の努力によるものだが、同時にこの分野に対する周囲の期待や投資も予想を超えて大きいということでもあるのだろう。

『インターネット白書』では、10大キーワードとして2020年に「低軌道衛星通信」、2022年に「宇宙インターネット」を挙げ、今後注目のトピックとして紹介してきた。「宇宙」という単語を使うと、未来の話のような印象を持つかもしれないが、インターネット分野に関してはもう目の前に迫っている現実の技術やサービスなのだ。次のイノベーションが生まれるフロンティアとして、今後さらに注目していきたい。

10大キーワードで読む2020年のインターネット「08 低軌道衛星通信」
(『インターネット白書2020』掲載)
10大キーワードで読む2022年のインターネット「09 宇宙インターネット」
(『インターネット白書2022』掲載)
『インターネット白書2022』では、湧川隆次氏による解説記事「空のインフラ──成層圏と低軌道衛星インターネットの動向」を掲載


文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。

+++

インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボでは「D for Good!」や「インターネット白書ARCHIVES」の共同運営のほか、年鑑書籍『SDGs白書』と『インターネット白書』の企画編集を行っています。どちらも紙書籍と電子書籍にて好評発売中です。