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【インターネット白書】バックナンバーで振り返る2021年の10大キーワード:コロナ禍2年目でデジタルが真価を発揮
「インターネット白書ARCHIVES」では、最新刊『インターネット白書2022 デジタルツイン実現への道』の発刊に伴い、前年号のアーカイブPDFを公開した。今回は、その『インターネット白書2021 ポストコロナのDX戦略』(2021年2月発刊)の10大キーワードの振り返りと現在の状況について確認してみよう。
『インターネット白書2021』アーカイブ無料公開
『インターネット白書2021』のアーカイブPDFは、以下の「インターネット白書ARCHIVES」で無料公開されている。今回取り上げる巻頭企画「10大キーワードで読む2021年のインターネット」も読めるので、まずはそちらをご覧いただきたい。
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「10大キーワードで読む2021年のインターネット」の誌面イメージ
なお、2020年版の10大キーワードの振り返りも以下で行っている。10大キーワードの企画趣旨についても説明しているので、こちらも併せてご覧いただきたい。
『インターネット白書2021』10大キーワード
『インターネット白書2021』では、以下のトピックを10大キーワードとして取り上げた。それぞれの現状について見ていこう。
01【減災コミュニティ】東日本大震災から10年でスマホは生活インフラに
02【非接触テクノロジー】“ディスタンス”をデジタル技術で乗り越える
03【テレワーク】コロナ禍によって背中を押された働き方改革
04【オンライン教育】コロナ禍で必要性を実感するも実現には課題も
05【オンラインエンターテインメント】イベントのオンライン化とVR活用が加速
06【改正著作権法】権利者保護と円滑利用のバランス
07【インフォデミック】深刻化する誹謗中傷や誤情報拡散への対策
08【マーケティングとプライバシー】消費者保護重視のポストCookie時代が到来
09【デジタル庁構想】既存省庁とのしがらみからの脱却
10【サスティナブルシティ】持続可能な都市の実現はICT×エネルギーが鍵に
01【減災コミュニティ】
東日本大震災から10年でスマホは生活インフラに
2021年を語る上で、やはり最大のトピックとなるのはコロナ禍だろう。ウイルスやそれによる感染症の蔓延は、同じ脅威でも地震や津波とは異なる。しかし、「人命や社会生活に被害が生じる事態」という意味では災害と同じだ。
2011年の東日本大震災から10年、「減災」という概念は広く定着し、有事の際にITを駆使して支援活動に取り組むシビックテックコミュニティの貢献も目立った。「新型コロナウイルス感染症対策サイト」はその典型で、東京都のサイト構築のノウハウやリソースを再利用・応用する形で他の自治体のサイトも迅速に構築できた。
一方、接触確認アプリ「COCOA」のように、開発者コミュニティと公的機関とのコミュニケーションミスや不運など、さまざまな理由から紆余曲折を経たプロジェクトもある。対象が感染症である以上、本来は国が主導してしかるべきだが、ITのなんたるかを理解していないと適切な開発・運用は難しい。
新たに発足したデジタル庁では、民間企業からIT人材が参加するとともに、既存のシビックテックコミュニティとの連携も強化している。
コロナ禍に限らず、これからもさまざまな災害がやって来る。国家規模の課題に対してITを適切に活用できるよう、デジタル庁の働きに期待したい。
02【非接触テクノロジー】
“ディスタンス”をデジタル技術で乗り越える
2019年からQR・バーコード決済サービスが急速に普及したことはご存じのとおり。最初は国のキャッシュレス化施策がきっかけだったが、コロナ禍はそれを後押しすることになった。
提供側ではすでに淘汰の動きも見られるが、サービスとしては完全に定着した。今後、従来のタッチ決済との競争によってさらに淘汰が進むのか、併存していくのかに注目が集まる。
同じく、ウーバーイーツに代表されるデリバリーサービスもコロナ禍で利用が広がった。コロナ禍で、気軽にできる仕事として配達員の応募者が増えたことも追い風になった。しかし、市場の急拡大とともに参入者も増えたことで激しい競争が生まれ、こちらも淘汰が始まっている。
今後、コロナ禍が落ち着いた際の「揺り戻し」をしのいで事業継続できるかが焦点となる。
また、「非接触」ではないものの、移動手段としてシェアサイクル(レンタルサイクル)の利用が増えた。三密状態となる電車やバスなどの公共交通機関を避けようとする行動によるものだが、実際に利用してその良さを実感し、日常的に利用するようになった人も多い。
さらに、「LUUP(ループ)」に代表される電動キックボードの公道走行も始まるなど、新しいモビリティカルチャーが生まれつつある。
安全面での懸念や従来車両・交通ルールとの調整など課題はあるが、EV時代や脱炭素社会へ向けた新しいモビリティや交通の模索が始まっている。
03【テレワーク】
コロナ禍によって背中を押された働き方改革
リモートワークや遠隔授業は、ITが最もその可能性を示した領域だ。半ば強制的に始まった未体験の環境ではあったが、実践してそのメリットに気づいたという声も多い。同時に、デメリットやマイナス面の方が大きく、従来の出社・対面型の勤務形態に戻した企業も少なくない。
「リモートワークができるならやるべきだ」「リモートワークで本来の力を発揮できないのはリテラシーが低いからだ」と責めることは簡単だが、ここはITがまだまだ力不足だと謙虚に受け止めて、より優れた技術やサービスを生み出すべきだろう。
メタバースやバーチャルオフィスといった分野は、乗り越えるべき技術的な課題は山積みだが、現在最も注目されていて技術的発展が著しい。人も資金も集まっているので、リモートワークへの要求の高さをモチベーションに変えて、イノベーションを生み出すことに期待したい。
04【オンライン教育】
コロナ禍で必要性を実感するも実現には課題も
オンライン教育も、テレワークと同様に浸透が進んだ一方で課題も抱えている。特に教育分野では、オンライン授業の評価をどうするかが自治体ごとに異なることが議論されている。
教育分野は保守的な考え方も多いが、オンライン授業の有用性はコロナ禍で証明済み。さらに何らかの理由で登校が難しい生徒にとっては、学校参加の可能性を確実に広げてくれるものだ。発展的な変化として受け入れ、オンラインでも登校でも、同じように出席・履修と見なすような制度面の対応・評価の統一が進むことを希望する。
05【オンラインエンターテインメント】
イベントのオンライン化とVR活用が加速
イベントのオンライン化もコロナ禍によって推し進められた。現在も模索が続けられているが、オンラインならではの工夫や趣向を凝らしたものも生まれている。今後は、オンラインのまま発展するものと、リアルに回帰するものに分かれていくだろう。
「大勢で1か所に集まる」ことをどうデジタルで再現・代替するか。このチャレンジも続いており、メタバースやそれを支える技術のVR(バーチャルリアリティ)に注目が集まっている。
VTuberで培われた3Dアバターの操作や音声合成技術、アバターで参加してコミュニケーションを行う「VRChat」などの人気ぶり、技術とカルチャーの両面で盛り上がりを見せている。
この流れに拍車をかけたのが、メタ(旧フェイスブック)によるメタバース注力戦略の発表。世界最大手のSNS運営元による表明を追い風に市場確立が期待されている。
06【改正著作権法】
権利者保護と円滑利用のバランス
毎年のように改正が続けられている著作権法だが、2020年はインターネット上の海賊版対策の強化が焦点となった。2020年10月の施行でリーチサイトの運営も違法となったことで、「漫画村」に代表されるマンガコンテンツの海賊版サイトとともに、侵害幇助に当たるリーチサイトの摘発も進んだ。
出版社や著作権者と海賊版サイトのイタチごっこは続いているが、小さいながらも着実に前進したと言える法整備だ。
07【インフォデミック】
深刻化する誹謗中傷や誤情報拡散への対策
感染が思うように終息しないことへのいら立ち、終わりが見えない自粛生活への不満、閉塞感が社会全体に重くのしかかる。コロナ禍はウイルスによる感染だけでなく、デマや誹謗中傷の連鎖も生み出したのではないか。そのように考えたくなるほど、ネット上の誹謗中傷はここ数年で社会問題と化している。
東京オリンピック・パラリンピックや皇室など、注目度が高い話題ほど攻撃的なコメントが多く集まった。
2021年4月に成立した改正プロバイダー責任制限法は、総務省などを中心に議論を進めてきたネット上の誹謗中傷対策として具体化されたものだ。現在は、さらなる対策として侮辱罪を厳罰化する刑法改正案の議論も進められている。
08【マーケティングとプライバシー】
消費者保護重視のポストCookie時代が到来
欧州のGDPR(一般データ保護規則)に代表される消費者保護重視の流れが強まる中、グーグルはウェブブラウザー「Google Chrome」でのサードパーティCookieを2022年に廃止すると発表。2021年は、マーケティング・広告業界にとって「Cookieレス」への準備期間となるはずだった。
しかし2021年6月24日、グーグルが廃止期限を当初の2022年1月から2023年後半まで延長すると発表したことで、猶予が得られる形になった。ただし、あくまでも延期であり、Cookieレスはいずれやって来る。
グーグルは、ポストCookie時代のソリューションとして「プライバシーサンドボックス」を提唱している。これによって従来どおり広告ビジネスが成り立つというもくろみだが、技術的には模索が続いている。
グーグルは2022年1月に、それまでサードパーティCookieの代替技術として提案していた「FLoC(Federated Learning of Cohorts)」の開発を停止し、新たに「Topics」という技術を発表。2022年内に運用を開始する予定だが、本当に代わりとなって従来どおりのビジネスが成立するのか、業界全体としての先行きは不透明なままである。
09【デジタル庁構想】
既存省庁とのしがらみからの脱却
予定どおり2021年9月1日に発足したデジタル庁。まずは認知拡大のために、10月10・11日を「デジタルの日」と定めてキャンペーンを実施。D for Good!も参加して、「人にやさしいデジタル」をテーマにした記事を投稿した。
2021年12月24日には、デジタル庁が中心となって策定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が発表された。これは、「デジタル社会形成基本法及び情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」と「官民データ活用推進基本法」に基づいて、デジタル社会の実現のための政府の施策を工程表とともに明らかにしたものだ。
国際的に見てもDXの遅れが目立つ日本だが、これからのデジタル庁の牽引に期待したい。
10【サスティナブルシティ】
持続可能な都市の実現はICT×エネルギーが鍵に
2050年のカーボンニュートラル社会実現に向けて、官民が一体となり産業界が大きく動き出した。
脱炭素を実現する上で焦点となってきた自動車業界では、中心的存在であるトヨタ自動車が2021年12月に「2030年までにBEV(バッテリー式電気自動車)30車種を発売し、年間販売台数の約4割に相当する350万台をBEVにする」と発表して話題となった。そのトヨタ自動車が静岡県で進めるスマートシティ構想「ウーブン・シティ」は、2021年2月に着工。モビリティを含む未来の実証都市実現が進められている。
電力に依存するIT産業の動きも、脱炭素実現で重要な要素となる。アップルは、2018年に全世界の事業活動で使用する電力すべての再生可能エネルギー化を達成。2030年までに自社製品の製造パートナーを含めた脱炭素に向けて動き出している。
大手クラウド事業者も、データセンターの再生可能エネルギー化を推進するとともに、「自社のクラウドサービスを利用することでユーザー企業は脱炭素を実現できる」というセールスメッセージでアピールしている。
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2021年は、コロナ禍の中でITがその強みを発揮した1年だった。強制的なデジタル化は課題も浮き彫りにしたが、結果的にDX化を推し進めるきっかけになった。ただ、「さらに推進していきたい派」と「コロナ禍が収まれば元へ戻したい派」がくっきりと分かれる姿も見えてきた。
「コロナ禍」という理由や言い訳がなくなったときに、どう進むのか。日本のDXはこれからが正念場だと言えよう。
文:仲里 淳
インプレス・サステナブルラボ 研究員。フリーランスのライター/編集者として『インターネット白書』『SDGs白書』にも参加。
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インプレスホールディングスの研究組織であるインプレス・サステナブルラボでは「D for Good!」や「インターネット白書ARCHIVES」の共同運営のほか、年鑑書籍『SDGs白書』と『インターネット白書』の企画編集を行っています。どちらも紙書籍と電子書籍にて好評発売中です。