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未来サミット2024で「未来のための協定」が採択――新時代を切り開く56項目の誓約と、世界の指導者たちが描く未来

2024年9月22日、米国ニューヨークの国連本部で開催された「未来サミット2024」で、各国首脳陣たちによる「未来のための協定」が採択された。会議の冒頭では、ロシア代表が「誰もこの文言に満足していない」と唱え協定に対する修正案を提案したものの、大多数の国の支持により、原案が承認された。採択の概要と、国連総会の議長や国連事務総長らの言葉をまとめた。

各国首脳たちが示した新たな方向性とは?

未来サミットは、持続可能な開発目標(SDGs)や国連憲章へのコミットメントを再確認するとともに、国際協力を強化し、多国間システムの再活性化のための基盤を築くことを目指して開催された。そして、未来サミットでの交渉の成果として採択された「未来のための協定」は、世界の指導者たちが、気候変動や紛争といった現在の危機に対応しながら、将来世代の利益を守るための具体的な行動を56項目にわたって誓約したものだ。

総会会場で、未来サミット開幕を告げる鐘の様子。(UN Photo / Loey Felipe)

協定の冒頭では「持続可能な開発のための2030アジェンダ」の実施に向けて、大胆で野心的、かつ加速的で公正、変革的な行動をとることを約束した。特に、この取り組みの中心に貧困撲滅を据えることを強調している。

この大きな目標を達成するため、協定では、世界の指導者たちが以下の点を誓約している。

·開発途上国におけるSDGsの資金不足の解消
·持続可能な開発の原動力としての多国間貿易システムの維持
·開発途上国の発言力と代表性強化のための国際金融システム改革の加速

また、安全保障理事会を、より代表性・包括性・透明性・効率性・実効性・民主性・説明責任を備えたものにする「緊急の必要性」を認識し、同理事会の改革にもコミットしている。さらに、協定にはジェンダーの平等、すべての女性と女児のエンパワーメント、そして、すべての若者の人権を促進・保護・尊重する約束も含まれている。

未来サミットでは各国首脳たちが登壇し演説。岸田文雄総理大臣は「人間の尊厳」を国際協力の出発点とし、「法の支配の貫徹」を強調。女性や子ども、若者へのエンパワーメントを最重要課題とし、核兵器のない世界に向けた取り組み推進や安全保障理事会改革にも言及した。(UN Photo / Loey Felipe)

ロシアの修正案に対し、コンゴ民主共和国が「団結が必要」と動議提案

今回の採択に当たっては、会議の冒頭でロシアの代表が修正案を提出し「誰もこの文書に満足していない」との懸念を表明した。この修正案では、国連が「各国の国内問題に本質的に関わる事項」に介入しないことを明記するように求め、一定の努力の重複を回避することを提案した。

これに対し、アフリカ諸国を代表して発言したコンゴ民主共和国の代表は「今日の多様で複雑な問題解決には団結が必要」と団結の必要性を強調し、修正案に対して「何の措置も取らない」という動議を提案した。この動議は、賛成143、反対7(ベラルーシ、北朝鮮、イラン、ニカラグア、ロシア、スーダン、シリア)、棄権15となり、「未来のための協定」は原案通り採択された。

国連総会会場「未来サミット」の様子 2024年9月22日 (UN Photo / Loey Felipe)

2つの付属文書「グローバル・デジタル・コンパクト」と「将来世代に関する宣言」

「未来のための協定」には、2つの付属文書が含まれている。
「グローバル·デジタル·コンパクト」が掲げる目標は以下の通りである。

·あらゆるデジタル格差の解消
·人権を尊重・保護・促進する包括的で開かれた、安全かつ信頼できるデジタル空間の育成
·人工知能(AI)の国際的なガバナンスの強化

「将来世代に関する宣言」は以下を目指している。

·国際的な安定・平和・安全を促進
·平和で包摂的かつ公正な社会の確保
·国内および国家間の不平等への対処
·開発途上国や脆弱な立場にある人々の特別なニーズへの対応

私たちの未来は私たちの手の中にある――採択後の議長の言葉

協定採択後の第79回国連総会で、フィレモン·ヤン議長(カメルーン)は「私たちの未来は私たちの手の中にある」と語り、「この文書は、差し迫った危機に対処し、持続可能で公正かつ平和な世界秩序を築く誓約を示している。平和は単なる紛争の不在を超え、正義や包摂、平等に基づく未来を確保する必要がある。意味のある進歩にはすべての声が聞かれ、貧富の差なくすべての国が交渉に参加することが重要である」と述べた。

右から、第79回国連総会 フィレモン・ヤン議長とアントニオ·グテーレス国連事務総長
(UN Photo/Mark Garten)

アントニオ·グテーレス国連事務総長は、未来サミット開催の背景について「機会と希望をもたらすはずの資源が、死と破壊のために費やされている」と指摘し、「世界が軌道を外れつつある」と現状を憂慮している旨を語った。その上で、協定採択を「扉の鍵を開けた」と評価し、「今、それをやり遂げるのは我々の共通の責任だ」と各国に行動を促した。さらに「最終的には、協定採択が成否を決めるのではなく、私たちの行動とその影響によって決まる」と述べ、実効性ある取り組みの重要性を強調して締めくくった。

文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員

トップ画像:UN Photo / Loey Felipe
編集:タテグミ

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