サムスンCEOが語った未来航海図「サステナビリティが製品体験の一部となる」 ─「CES 2022」基調講演から─
1月4日、米国ラスベガスで開催された「CES 2022」のキーノートに、サムスン電子(以下、サムスン)の副会長兼CEOのハン・ジョンヒ(韓宗熙)氏が登壇。サムスンは「Together for Tomorrow」というビジョンを掲げ、「新しい時代」における同社の製品コンセプトやサステナビリティへの取り組みについて語った。
ハン氏は「これまではAI、IoT、ロボティックス、5Gといった最先端テクノロジーが生み出す新たな可能性をいくつも紹介してきたが、今回は少し違う」と切り出した後、「この2年間でテクノロジーに対する期待は大きく変化し、より創造的な価値を見いだすこととなった」と続けた。
そして「サムスンは、コンシューマー向け機器の世界的リーダーとしての環境保護と、より良い未来を築く責任がある」とし、同社のすべての活動の中心になるものとして「サステナビリティ」を捉えていると説明した。
サステナビリティが製品体験の一部となる
次に、サムスンのサステナビリティに軸を置いた製品づくりのコンセプト「Everyday Sustainability(日々の持続可能性)」と個々の取り組みなどが語られた。
【Everyday Sustainability(日々の持続可能性)】
●Eco Packaging(エコパッケージ)
シンプルな包装、資源の節約、再活用の促進を視野に入れて取り組んでいるのが、商品パッケージの開発だ。2021年にスタートした、韓国で初となるパッケージ再利用のコンセプトを持つ「Eco Packaging」は、掃除機、電子レンジ、空気洗浄機といった幅広い製品に拡大され、2022年には世界市場で導入予定だという。また、これまではテレビの梱包素材にリサイクル素材を利用していたが、今後はあらゆる製品で発泡スチロールやボックスホルダーなどもリサイクル素材に変えていくという。
エコにクリエーティブな要素を加えて開発した「Eco Packaging」。製品が梱包されていた箱を再利用して、キャットハウスやサイドテーブルを作ることができる。
●SmartThings Energy*(スマートホームプラットフォームによる省エネ推進)
デバイスの電気使用量を監視し、消費者の使用パターンに基づいて省エネ方法を推奨するサービス。米WattBuyおよび英Uswitchと提携しており、それぞれの地域で最もコスト効率の高いエネルギープロバイダーに乗り換えることもできる。エネルギーとお金を節約することで、より良い未来に貢献できるという。
*SmartThingsはサムスンのスマートホームプラットフォーム(コネクテッドホームプラットフォーム)の名称
●SolarCell Remote(太陽電池リモコン)
「私自身も開発者として、テクノロジーを作り出すことが大好きだ」と言うハン氏は、「より便利に、より使い勝手が良く」と、極め続けた一例としてリモコンを挙げた。例えば、業界初としてWi-Fiルーターやテレビの無線周波数などの電波からワイヤレスで充電が可能になる「SolarCell Reomote」の新モデルを発表した。昨年発表した前モデルでは、ライトなど室内にある光からの充電を可能にしていた。今後、自社製品のリモコンをSolarCell Remoteにしていくことで、2億個以上の電池をなくすことを目標にしているという。
●Zero Standby Power(待機電力ゼロ)
2025年までにはテレビや携帯電話の充電器などの待機電力をほぼゼロにすることを目指している。
●Galaxy for the Planet(Galaxy事業における環境フットプリント削減)
Galaxyの生産から廃棄まで事業全体を通じて、環境フットプリント削減に力を入れていくとしてまとめた「Galaxy for the Planet」を昨年ローンチしている。2025年までにすべてのモバイル新製品に対し「リサイクル素材を組み込む」、「パッケージ内のプラスチックを排除する」、「充電器のスタンバイ消費電力を0.005W未満に削減する」、「埋め立て廃棄物ゼロを達成する」といった目標を掲げている。
そのほかには「サムスンのデバイスに搭載する一部のメモリチップの製造に使用される電力や原材料を削減し、昨年の炭素排出量を70万トン削減した」「今年の製品はよりサステナビリティを意識しており、テレビとディスプレイは2021年の30倍のリサイクル素材を使用している」「3年以内にはすべてのスマートフォンと家電製品に再利用素材を使用する」といった説明もあった。
「当社の製品は生産サイクルを通して環境への影響を最小限に抑えるように設計されており、個々に最適化された暮らしの中で、環境負荷への配慮も同時になされていく。サステナビリティが製品体験の一部となる」(ハン氏)。
パタゴニアと洗濯機を共同開発、オープンイノベーションがカギを握る
今回のキーノートの中では、アウトドアウエアのメーカー「パタゴニア」との提携も発表された。パタゴニアは、環境に配慮した素材への取り組みで知られているが、現在、マイクロプラスチック(直径5mm以下の小さなプラスチック)の「ろ過機能」を備えた洗濯機を共同で開発中だという。
パタゴニアは長年、フリースジャケットに使用されるマイクロプラスチックが海洋環境に及ぼす問題をどうにかしたいと考えていたが、自分たちだけでは解決策にたどり着けずにいたという。パタゴニアのCPO(Chief Product Officer)であるヴィンセント・スタンレー(Vincent Stanley)氏は「サムスンと共にマイクロプラスチックとその海洋環境問題に取り組むことで、地球環境へのサステナビリティを促進する」とメッセージを寄せた。
サムスンは、他企業と連携し知見の結集や技術開発の共有を行う「オープンイノベーション」が気候変動や環境保護の問題解決へのカギを握ると考えていることから、米ゼネラル・エレクトリック(GE)、スウェーデンのエレクトロラックス、アイルランドのトレイン・テクノロジーズなど競合企業を交えたアライアンス「Home Connectivity Alliance(HCA)」の立ち上げもアナウンスした。ブランドの枠を超えて「製品の相互運用性」「セキュリティ向上」「エネルギー効率性」の3つを目標に、協力していく構えだ。
今回のサムスンのキーノートは、同社のサステナビリティに対する姿勢とともに、その全体像と個々の取り組みを分かりやすく明示した内容だった。ニューノーマルといわれる時代へと舵を切り、製品づくりと共に環境問題にもテクノロジーの力を生かしていくといった意気込みを感じた。今後の製品の発表が楽しみである。
文:遠竹智寿子
フリーランスライター/インプレス・サステナブルラボ 研究員
画像:サムスン電子
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