KrippendorffとSimonの距離
意味論的転回 デザインの新しい基礎理論 クラウス・クリッペンドルフ(The Semantic Tern A New Foundation for Design, Klaus Krippendorff)の第3章『人工物が使用される際に持つ意味』第4章『言語における人工物の意味』(3.6-4.2)および第7章のメモです。
人工物との対話が創造する共同体の文化
これまでの議論で Krippendorffは、人工物を切り離されたものではなく、社会に埋め込まれたシステムとして捉え、機能ではなく人に対する意味づけにまでデザイン領域を拡張した。重要概念として人工物の使用者の1次的理解に加えて、観察者、使用者がお互いに有している2次的理解、社会化プロセスを示し、それらの自己再帰的な関係を指摘した。
また、人工物はものとしての存在だけではなく、コミュニケーションを含む言語の中にも位置付けられる。そのため、人工物の存在以前や破棄後にまで言語として存在することが可能だ。Krippendorffは言語を、対話であり、人工物の意味づけの調整過程だという。それは、共同体のメンバーがどのように人工物を使用するのかに関する歴史に根ざした実践であり、つまりその共同体の文化を創り上げる。
Simonの人工物の科学の拡張
Krippendorffら、デザイン研究学派は、Simonのデザイン科学との差分を主張しがちだ。私には、Krippendorffの意味論的展開は、Simonの延長上にあると思える。以下ではそれをみていこう。
Simonは「自然科学は物事がどのように存在するかに関心がある...一方、デザインは物事がどのようにあるべきかに関心がある」と位置づけ、自然科学とデザインの実践の間のギャップをデザインの科学で埋めることを提案した。そして、「デザインの科学」が芸術、科学、技術を横断する知的努力とコミュニケーションの基本的な共通基盤を形成することができ、人工物を作る創造的な活動に携わるすべての人がアクセスできる学際的な研究になりうると考えた。
まず、Simonは物理的な人工物と進化する人工物のデザインについて考察している。物理的な人工物のデザインでは、確かにユーザーを制御する人工物として議論している。一方、目標を持たないデザインについては、成果だけではなく、「デザインを作ることで新たな目標が生まれる可能性があるという考えに密接に関連して、計画の1つの目標がデザイン活動そのものである可能性がある。Closely related to the notion that new goals may emerge from creating designs is the idea that one goal of planning may be the design activity itself.」という。明確に、Simonはデザインによる新規事業、それによってもたらされる新しい意味づけ、Krippendorffのディスコースによるデザイン活動を想像していた。
Simonの最後の弟子と言われるSarasの起業家理論の一つであるEffectuationは、その後事業という人工物のデザインとそのための組織化に主眼を置いた。事業という人工物を創り出すデザイナーである起業家の考え方を研究し、基本ルールを見出した。またそれが起こる条件を明らかにし、その状況をさらに深く研究する。今では、起業のみならず、人が生きるための理論とまで呼ばれるようになった。
エンジニアリング的であるとデザイン側から非難された人工物の科学は、領域を事業、それを創り出す起業家に広げ、理論を基礎に複数の学問領域と関連し始めた。一方、人間中心による意味論的展開を主張したKrippendorffが、求めるデザインのための科学は、いつ作られるのだろうか?デザインの専門家からなる自省的なディスコースのループにはまってしまっているのではないか。少し懸念しているのは、自省が身についているデザイナーは永遠のループにはまってしまうのではないか?
「なにができるのかを調査すること」から始め、「どのような変化が望ましいかについての質問をステークホルダーに求める」(p244)「2次的科学」では、未来は描けない。なぜなら、まだない未来に対して、主観的な主体性のある試行錯誤が必須であると考えるからだ。いつの間にか、「2次的理解」から人間性を欠き、「科学」に重きを置くことは、ミイラ取りがミイラになるのではないか、と。
Reference:
H. A. Simon, The Sciences of the Artificial/(Cambridge, MA: MIT Press, 1969).
Krippendorff, K. (1997). A trajectory of artificiality and new principles of design for the information age. In K. Krippendorff (Ed.), Design in the age of information: A report to the National Science Foundation(NSF) (Issue July, pp. 91–96).
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