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『地中海世界』フェルナン・ブローデル編 - 空間

 前編の最後は、ブローデルの弟子エマールの『空間』。彼は、空間の中に社会的関係を空間化した『町』と、その対比である『田舎』について語る。

人の関係を表した町と人を拒絶する田舎

 痩せた土と石が広がる田舎には人影がなく、そこを訪ずれるのは、遊牧者のみ。一方、町は、利害関係者の関係によって同心円の階層状に広がり人が住む。また、町の周りに広がる田園は、町によって創られるという。田園は町の人々の食を満たすために存在し、それが十分であれば自らは増殖しない。田舎と町の境界には、森と畑が広がる。しかし、畑も休ませる必要があり、それらの線引きはぼやけている。

貴族的および平等主義的な町の2つの仕組み

 地中海世界のどこでもみられる町は、土地、水の所有権を基礎に作られる貴族的構造と、それらを共有する平等主義的な街並みだ。貴族的な街並み、都市は、社会的関係を空間次元に置き換え、公的・私的な境界線で構造化したネットワークだ。

 これらの都市的遺産は、文明として後世に残り、現在生きる人々の生活を制約する。進む都市化のあおりで不利益を被る内陸部と、反対に人口集中から問題を起こす都市部。田舎の過疎状態は、社会構造の変化と農業技術の進展による。

 一方、現代の都市デザインは、ギリシャの文化の標準化に基礎を置く。それは、単に機能的な必要性だけではなく、『空間の完全な明澄性』、象徴的でアフォーダンスを実現する。

公的・私的空間の構造

 カビリア地方の家を意味のあるテキストとして分析したプールデューは、家を仕切る壁によって反転された小宇宙という。例えば、家に南から入る光は、外側から見れば北となる。性別による家の機能が割り振り(女性は中・私的、男は外・公的)は、イスラムからの導入ではなく、古代ギリシャが由来だという。また、ヨーロッパ人に社会の名誉は、自分との関係において、自分の外からは非難することが不可能な道徳的価値、貴族モデルが採用された。

 社会構造は、男系親族が中心のリネージを基礎とする父系社会だ。リネージは、物理的資産、土地や財産を受け継ぐ。男性優位のこの仕組みは、古代ローマに由来するという。男性が優先される公的空間では、経済的活動、儀礼・社会的活動と余暇が行われる。都市は、経済的財貨、情報などの人々の交換の場だ。広場は、交換の場であり、物質的・政治的成功を表す象徴だ。

 石造りの壁に仕切られたヨーロッパは、木と紙の壁で仕切られた日本とは大きく異なる。同じ父系社会であっても、今後どのような変化がでてきるのか、興味深い。

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