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第10話  Ikusa



シュポッ

煙草に火を灯す音で目が覚めた。


うちの店はほぼ全員喫煙者だった。

薄暗いの中、
煙草に火を灯す先輩の姿は男心をくすぐった。



先輩からは16時から動き出すと
聞いていたが、時刻はちょうど15時半

煙草をふかす人
携帯を眺める人
ギリギリまで寝ている人


それぞれがそれぞれのカタチで
夜の営業にむけて準備をしていた。


その昔、戦国時代
いくさに向かう武将達は
こんな気持ちで気持ちを整えてたのかなと
想像したり



16時ジャスト

店内に電気が灯り一気に明るくなった。
それぞれがそれぞれの仕事に就く
夕方のラジオが流れ始める。


角を熾す人


串打ちをする人


おしんこを切る人




一糸乱れぬ動きで
営業に向けて準備を始めた。


僕は掃除とセッティングと
バックヤードの準備を教わった。


まず行燈を設置して
店内に保管された炭の段ボール、
待ちのベンチを店外に移動


重かった。





コの字のカウンターに沿って
椅子をすべて入れる。

ホウキでそのコの字に沿ってゴミを寄せる。

そして全て椅子を引く

ゴミを寄せる

ちりとりで取る。

椅子を等間隔に配置

効率よく無駄なくシステム化された掃除の仕方





カウンターをコの字にそって拭く

ここで先輩から一言

「ユウちゃん、
カウンターは白木だから
繊維に沿って拭きなよ」

木に対する配慮

ものを大切にする事をその言葉から教わった。




組数ごとに薬味と爪楊枝をセット

横並びは2人セット 
角は3人セットといったように





トイレ掃除の最終確認
鏡を綺麗に拭く
トイレットペーパーを三角形に織り込む


このタイミングで職人達が
白衣に着替えて
髪型をセットする。
全員がジェルを使ってた。

横分けにキメる人
オールバックに固める人
立たす人

朝の姿から変身していく先輩達
こうやってスイッチを入れていくのだろう


そしてその上から捻り鉢巻を巻き込む。
これも人によってスタイルが異なり

長く巻く人
角度をつける人
細く巻く人、太く巻く人

僕は坊主だったのでジェルは使わず
鉢巻は教わりながら巻いた。

鉢巻なんて小学校の運動会以来

そして捻るのは初めてだった。





バックヤード
起床後の仕込みに使う器具や皿を
ひたすら洗う

うちの店は食洗機が無いので
スピードが求められる。

でも雑はダメ

"無駄を省き、流れを大切に"

これは3年後にお店を離れて気付くのだが
この時は、ただただガムシャラに洗い続けた。

汚れの度合いによって
スポンジ、亀甲たわし、カナタワシ
を使い分けるだけルールを決めた。

僕がガムシャラに洗い続けてる横で
先輩は朝から煮込んでたスープを
濾していた。

16:50

開店まであと10分
みんなギリギリまで準備に時間を費やす。

ラジオの電源を落として無音に

店内がピリつく


つづく

#僕が修行に行った理由

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