第11話 Passport
「お待ち10名様です」
開店直前
先輩が店先で待つお客様を確認しに行った。
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うちの店はカウンター13席
この時期はお花見シーズン
お店が所在する中目黒は
桜の名所であり
東京と言えばココと言うような場所であった。
その影響もあり
オープン前にほぼ満席状態となった。
同じ寮に住むの他店舗の先輩からも
ナカメのこの時期は覚悟した方が
良いよと釘を刺された。
お店のドアが開く
先輩が1組ずつ
無駄なくカウンターに
配置していく。
まるでテトリスを操るかのうように
そしてさっきまで殺風景であった
カウンターも活気で満ち溢れた。
お通しのお新香を切る先輩
ネタをお客様ごとに選別する先輩
舟におしぼり置き
それぞれのポジションにパスする先輩
注文を取る先輩
それぞらが一糸乱れぬ動きで
それぞれの仕事に真っ当した。
そして第一陣のネタが
焼き台に送り込まれる。
まるで戦場にいく兵士のように
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焼き台の先輩は炭と対峙しながら
一番効率のいい焼き方で
びっしりとネタを乗せた。
そしてそのタイミングで
雪崩のような量のドリンクオーダーが
バックヤードに回ってきた。
僕はバックヤードに配置された。
初日の僕の仕事は
先輩の指示の元、
ドリンクを作る。そして洗い物
この2つ
表からの声
「生バンド
ウーロンリャン
入ります。」
「あーぃ」
低く響き渡る全員の声
ん?
??生バンド?
ライブ始まる?
すると先輩から
「うちは数の数え方は築地のセリの数え方でするんだ。
①ピン、❷リャン、③ゲタ、④ダリ、⑤メノジ、⑥ロンジ、⑦セナン、❽バンド⑨キワ⑩でっかいピン
毎日唱えてたら勝手に覚えるから慣れてくれ」
俗に言う 隠語というやつで
餃子の王将とかで飛び交うアレである。
最初はなんでこんな複雑な言語を
使うんだと思ったけど、
慣れるとこっちの方が伝達が早くミスが無い。
何よりお客様に不思議な空間を演出できる
魔法の言語だった。
僕はその言語を翻訳して
生ビール8杯
烏龍茶を2杯
を作った。
この時、
僕は焼鳥パスポートを手に入れた気になった。
開店して10分の出来事だった。
続く
#僕が修行に行った理由
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