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第9話 Senzen

扉を開けた。

そこにはカウンターの中に
職人達が5人ほど居て
まな板を所狭しと並べて
仕込みに励んでいた。

「本日からお世話になります。加納です!
宜しくお願いします!」

僕は深々とお辞儀をした。

顔を上げた。


少し自分が思い描いてたイメージとは違った。

僕の思い描いてた仕込みのイメージ

◎全員坊主

◎無音

◎割烹着

要は修行僧のあの感じ


まず坊主は僕しか居なかった。
修行前に見た焼鳥屋のドキュメンタリーがそういうお店だったので、勝手に決めつけてしまっていた。

上京前に見たドキュメンタリー
プロフェッショナル仕事の流儀



次に店内にはTokyo FMのラジオが
軽快に流れていた。
木村カエラの新曲が軽快に流れていた。

僕が焼き鳥屋で流れるイメージは演歌
対極にある音楽



そして皆さんラフなTシャツだった。


殺伐とした雰囲気は全然無く
皆さん世間話をしながら
和気あいあいと仕込みに励まれていた。

僕は指導係の人から
新人が担当する
トイレ掃除、七味や山椒の薬味の補充、
洗い物の仕方を教わった。

七味や山椒を補充するのも
新人にとって大切な仕事
効率良く丁寧にを学んだ。



仕事を教わりながら先輩達は
僕の事を優しく迎え入れてくれた。

「加納宜しくな!
こいつ、DSKって言うんだ。
2週間前に入ったんだけど、加納と同期だな。
地下アイドルが好きで追っかけをしてるんだよ(笑)」

やった!
同期が居た。

しかも若い!

彼は長野県から上京してきた
高校卒のDSK君
アイドル好きで恰幅がよくお洒落好き

僕は彼の事をDちゃんと呼ぶ事にした。


彼とは今後苦楽を共にする事になる。
仲良くなりたいなと思った。

緊張してたのもあってか、
午前中の仕込みはあっという間に過ぎ去った。


そしてまかないの時間がやってきた。
ここで衝撃を受けた。

とても美味しかった。

今まで働いた飲食店は
基本残り物や賞味期限が切れたものが多く
在庫処理的な位置付けだった。

一方でここは毎日賄い用に予算が組まれていて
賄い当番がそのお金の予算内で買い物をして
作るシステムだった。

また賄い当番は
職歴関係なく新人から店長まで
全てのスタッフが日替わりで
担当する事も素晴らしいなと思った。


その日は親子丼で
外で食べるクオリティのものが出てきた。

ちゃんと汁物も
用意されているのも嬉しかった。

この賄いの時間に
その後も何回も救われることになる。

毎回楽しみだった
修行先の賄い


賄いを食べ終わると休憩時間になり
Dちゃんがなにやら持ってきた。

「これ、僕の推しの地下アイドルで一緒に
チェキ撮ったんですよぉ」

見知らぬアイドルと
Dちゃんのツーショット写真だ

先程まで緊張してたDちゃんの
目は輝いていた。

このアイドル誰やねん!と思いつつも
モーニング娘。で止まっている自分にとって
とてもフレッシュな経験となった。

そのチェキは何枚もあった。
そうこうしているうちに先輩達は
夜営業に備えて昼寝を始めた。



お客さんの椅子をベンチみたいな
カタチに並べてベッドにして
まるで合宿のように
みんなでコの字のカウンターに沿って寝た。



僕は緊張が残ってて、なかなか寝れなかった。

思っていたより和やかだった朝の仕込み

しかし、昼寝が終わると空気は一変する。

つづく

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