皇帝
ベートーヴェン作曲、ピアノ協奏曲第5番、
変ホ長調作品73、「皇帝」。
僕は子どもの頃、
「田園」と「皇帝」をよく聴いていた。
正確に言えば、母親が聴いていたのだ。
小学生でスコアを買ってもらい、
聴きながらよく指で追っていた。
僕の大好きなポリーニは、
「皇帝」を2度、録音している。
1978年カール・ベーム指揮ウィーン・フィル、
93年クラウディオ・アバド指揮ベルリン・フィル。
時代や好みはそれぞれだが、
93年のライブ録音は、アバドもポリーニも、
納得の演奏、録音だったと思う。
1995年ザルツブルグ音楽祭で始まった、
「ポリーニ・プロジェクト」。
日本では2002年に、約1カ月に渡って、
演奏会、講演会が行われた。
僕は初めて、ポリーニの「皇帝」を、
ライブで聴くことができた。
リッカルド・シャイー指揮、
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団だった。
あのサントリーホールの夜は、
今でもよく覚えている。
ポリーニは武満徹をはじめ、現代音楽を3曲弾き、
会場の空気が期待に満ちたところ、
その空気を切り裂くような第1楽章だった。
第2楽章から繋がる第3楽章は、
ベートーヴェンの真骨頂であり、
ポリーニの独壇場だった。
楽団員が緊張なのか遠慮なのか、
演奏はバラバラだったが、
ピアノの音はますます際立っていた。
それもまた、いい思い出だった。