規制の先にあるアリババとテンセントの合併――「習近平の逆鱗に触れた」中国メガITの国家支配
――今日の中国の経済的な発展を世界に示してきたアリババの創業者、ジャック・マーが公の場から姿を消したことは、日本でも話題になった。国家を超えて成長を続けてきた企業が、中国政府のタブーに触れてしまったのだろうか……。
『チャイナテック: 中国デジタル革命の衝撃』(東洋経済新報社)
中国を牽引する二頭の「馬」が今、瀕死の状態にある。
中国メガITのツートップである、アリババのジャック・マー(馬雲/創業者、前CEO)とテンセントのポニー・マー(馬化騰/創業者・CEO)のことだ。
前者を巡っては、2020年11月にアリババグループ傘下のフィンテックサービス・アントグループの香港・上海両市場での株式上場が突然、延期となったことを発端に、「習近平の逆鱗に触れた」というストーリーが日本や欧米メディアで報じられた。前月に開かれた「上海外灘金融フォーラム」で、中国政府の金融規制を“時代遅れ”と批判したのが理由だと言われている。
個人の信用格付けシステムを独自に構築し、銀行に代わって個人や中小企業に貸付まで行うなど、金融分野で急成長していたアリババグループは中国共産党にとって、目の上のたんこぶ以外の何者でもない。この騒動以降、ジャック・マーは公の場に姿を現すことがなくなり、逮捕・監禁説まで流れた。年明けに教育関係者とのオンラインフォーラムで3カ月ぶりに姿を現しただけで、今も表舞台から消え去っている。ちなみに同フォーラムでは「コロナが過ぎ去るまで、みなさんさようなら」と語ったことが報じられた。
もう一方のポニー・マーも3月に閉幕した全国人民代表大会で、哀れな姿を衆目に晒した。政府の諮問機関である中国人民政治協商会議には、中国メガITからシャオミ、バイドゥ、テンセントの経営トップらが出席し、意見を述べる機会が与えられた。ポニー・マーはここで、なんと新興のIT・ネットサービスに対する政府のガバナンス強化を求めたのだ。
シャオミとバイドゥが、どちらも国内イノベーション推進のための規制緩和や官民連携を訴えたことを考えると、明らかに異様だった。アリババの次は我が身と察し、中国共産党に忖度したとしか考えられない。
そもそも中国のIT規制は昨年10月から始まった。金融安定発展委員会や国家市場監督管理総局などが、相次いでECやフィンテック事業の監視を強化し、公正な競争を促す方針を明らかにしたのだ。そこには、独占禁止法の適用強化も記されていた。奇しくも同時期、アメリカ政府もGAFAなどのメガプラットフォーマーに対し、支配的地位を利用して市場を独占しているとして、反トラスト法(独禁法)に基づいて厳正に対処すると宣言していた。
もともとEUでは個人情報の扱いに関するメガプラットフォーマーに対する火種が少し遅れて米中も後を追った形だ。
「タオバオ」という中国最大のEC網を持つアリババと、ユーザー数12億人以上のメッセンジャー「WeChat」を運営するテンセントは、その影響力を駆使してユーザーを囲い込み、決済や投資、融資などへサービスを拡大させている。両者が金融サービス面で力をつけつつあることは、中国政府にとって頭痛の種だったのだろう。
BATH中の2社に政府の締め付けが
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