わたしの指に消えない夏の日
太陽のひかりを浴びて、眩しいほどに輝く新緑。 青く澄んだ空に、空高くずっとどこまでもずっと続いていく入道雲。 そのすべてを映す、田植えを終えたばかりの水田。 車窓を流れるその風景に真夏の光を感じながら、
わたしはふたたび、あの夏へと迷いこんだ。
大阪
前回大阪を訪れたのはたしか、5年前の桜の咲く頃だった。ずいぶんと時が経ったな、近そうで遠い大阪だったやなんて物思いにふけたり、わたしはいまからふたたびあの夏へ『舞台 千と千尋の神隠し』の世界へ迷い込めるんだとわくわくして大阪の街を駆け出したくなる気持ちを抑えながら梅田芸術劇場へ向かった。
観劇というものはたぶんこれで2度目。
1度目は奇跡的にチケットを拾えた、2023年夏の御園座で公演された千と千尋の神隠し。はじめて観る舞台女優としての上白石萌音ちゃん、目の前に広がる世界はまるで夢のような不思議な3時間だった。そんな世界にまた迷い込めるだなんて、なんてしあわせなことだろうか。
千と千尋の神隠し
チケットに記載された座席番号は下手側のほぼ最前列。
こんなにも近くでこの舞台を観てもいいのだろうかとなる程に近い席に”le mone do”とようやく働いてくれた自名義に感謝だ。
そうこうしているうちに幕が開いた。
ランドセルを背負った千尋がわたしのすぐそこを歩いている。双眼鏡も使わずわたしのこの目に千尋の不安そうなその表情がはっきりと映る。
この不思議な世界へ千尋が迷い込んでいくとともにわたしもこれが舞台なんてことも忘れて、千尋、いや千と油屋の世界に深く、深く迷い込んでしまっていた。
わたしの耳にはマイクにも乗らない些細な会話や物音、足音が聴こえてくる。目にはひとりひとりの細かな動きに細やかな表情。耳で目で心でわたしは心身のすべてでこの舞台を一瞬たりとも見逃さぬようみようとしていた。
でも、この舞台はわたしの心身ではとても受け止めきれなかった。油屋のひとりひとりが八百万の神さまたちがただ動いているだけでなくちゃんと生きていた、演じられたものではなくそれぞれ個の生き物だったからだ。舞台から発せられるとてつもないエネルギーにただただ圧倒されるばかりであった。
帰り道、そのエネルギーに圧倒されたまま「なんかもうすごかったや……」と語彙力のかけらもない感想を胸に抱き、帰りの電車の待つ駅へ駆け足で向かったのを覚えている。
幕
舞台 千と千尋神隠し。この舞台を観劇してからもうすぐ5ヶ月が経とうとしている。こうしてnoteにあの夏の想い出を紡いでいこうとしたけれど、薄れゆく記憶にありきたりなことばかりしか書けなかった。
もっと書きたかったことはあるはずだけど、時が経ちすぎて思い出せないことがたくさんある。でも、銭婆のくれたこの言葉がわたしをそっと包み込んでくれている。
上白石萌音ちゃんのおかげでわたしは舞台という世界を知った。とてもとても奥深くどこまでもどこまでも広がる空のようなこの世界。いろいろな舞台を観たい気持ちが溢れだしている。
次に観劇する舞台は何になるのだろうか、
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?