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Who? 色川武大「唄えば天国ジャズソング」"フウ?"を聴く

"Stole My Heart Away"

第4章の標題曲は「フウ?」。これはスタンダード、なるほど、聴き覚えのある曲では? 1925年のミュージカル「サニー(Sunny)」劇中歌で(プロデュースはオスカー・ハマースタイン2世[Oscar Hammerstein II])、元祖ボーカルではジャック・フルトン[Jack Fulton]だろうか。そのジャック・フルトンで「who?」、公式音源(音源ルーツは、おそらく1925年の録音)。

後の30年代、ジャック・レオナード[Jack Leonard]のバージョンも有名(Tommy Dorsey Orch.feat.)、今度はそれで。公式音源(このルーツは1937年のはず)。

この章では、この二人にはふれていないのだけれど、そもそも本書での御大は記憶を探るかのように「...はず=曖昧、特に古いポピュラー曲で顕著、それで年代に鑑み、「これかしら? また近いであろうと思われる曲も紹介。

(具体的には曲名とコンポーザーのみ記述なケースも多く、盤の特定が難解というか無理=であるからこそ、その推考が面白い。たとえハズレでも、それもまた一興ではあるまいか。ただし、色川武大セレクト=御大自らミックス、内輪にのみ配布されたという幻のカセットテープが、そこに入っていたのが冒頭で紹介の1925年ジャック・フルトン=バンドはジョージ・オルセン[with George Olsen Orch.]なのだ。この音源も聴いていた&お気に入りだったのは確かだと思う)

現代的に最も知られているのは、さらに後の、ジュディ・ガーランド[Judy Garland]のバージョンだと思う。1946年の映画「雲流るるはてに(TILL THE CLOUDS ROLL BY,旧「雲の流れ去るまで」or「雲晴れるまで」)」の劇中歌であり、映画そのものは、作曲家ジェローム・カーン[Jerome Kern]の伝記映画だ。そのジェローム・カーンで知れ渡っている曲は「煙が目にしみる(Smoke Gets in Your Eyes)」だろうか?

それはともかく、ジュディ・ガーランドで「Who?」、公式音源(「雲流るるはてに」サントラ=1946年)。これもリマスターと思われるが、このジュディ・ガーランド版も"見る唄"で、興味があればDVDが(サブスクにもあるはず)。

劇中、ジュディ・ガーランドが演じるのがマリリン・ミラー[Marilyn Miller]、1920-30年代初頭にかけて活躍した女優&ダンサー。ちなみにマリリン・モンロー[Marilyn Monroe]の"マリリン"は、このマリリン・ミラーにあやかった、それほどに伝説的な存在。そのマリリン・ミラーの伝記映画が49年の「虹の女王(LOOK FOR THE SILVER LINING)」で、この劇中歌にも「Who?」が。主役マリリンを演じるのはジューン・ヘイヴァー[June Haver]なのだが、共演の、ヴォードヴィリアンのレイ・ボルジャー[Ray Bolger]による「Who?」にスポットが当たる=これがこの章のメイン(仮)。

これこそ"見る唄"で、その唄とタップは絶妙。ただ、色川御大は、意訳すると、さらに洒脱であればなお良いと評されている。ちなみに作家の井上ひさしも、このレイ・ボルジャーの「Who?」ではほぼ同見解。ただ、映画総体では「作品としては別にどうこう言うようなものでは...云々。

(第1章でもふれた、御大の嗜好も、おおまかには「内容がないほどよい...云々であります。なので、これも端的にはレイ・ボルジャーの個人芸を見るためだけにあるかのような作品としての紹介に)

そのレイ・ボルジャー版、音源がないはず(Titaniaの"504"がサントラに相当と思われるが、廃盤&内容不明)。なんにせよ(盤云々よりも)、これもDVDがある、見ていただくのが早い。参考に、マリリン・ミラーのテーマ曲「ルック・フォー・ザ・シルバー・ライニング(LOOK FOR THE SILVER LINING)」、SP盤(1948年)。唄うはマーガレット・ホワイティング[Margaret Whiting]で、40年代が最盛期のようだが、その後にも、映画&TVと活躍、レコードも数多リリース。ちなみに父君はかのリチャード・A・ホワイティング[Richard A.Whiting]=著名な作曲家、例えば「ビヨンド・ザ・ブルー・ホライゾン(Beyond the Blue Horizon)」などなど。

冒頭でハマースタイン2世の「サニー」にふれた、それは1920年のミュージカル「サリー(Sally)」続編、「サリー」はかのジーグフェルド[Florenz Ziegfeld,Jr.]によるプロデュースで、この作品でマリリン・ミラーはデビュー、またこれにより「ルック・フォー・ザ・シルバー・ライニング」という曲もブレイク。そのマリリン・ミラーは、これも映画版「サニー(1930年版)」のDVDが(マリリン・ミラーによる「who?」も収録されている)。

ところで、この御時世に"ローリング・トゥエンティーズ"の曲に興味を持たれる方は多くはないかと。連載時(80年代初頭)に於いても、一般的な意味では忘れられていた。その頃、オールディーズのリバイバルはあったのだけれど、ジャズではビバップのニューウェイヴもあれど、さすがに20年代の曲となると好事家限定だったと思う。"SURF & SNOW"全盛な当時、例えばルース・エッティング[Ruth Etting]といわれても、まず(一般的には)通じなかった。

Who?時系列(付記)

1920年のミュージカル「サリー」でマリリン・ミラーはブレイク、劇中歌は「ルック・フォー・ザ・シルバー・ライニング(1919年の曲)」。コンポーザーはジェローム・カーン。

1925年のミュージカル「サニー」はその続編、この劇中歌で標題曲の「フウ?」が登場(書き下ろし)。コンポーザーはジェローム・カーン。

1929年、「サリー」の映画化。1930年、「サニー」の映画化。ここまでの作品全てにマリリン・ミラーは出演(基本、この方は舞台の人)。

1946年、ジェローム・カーンの伝記映画「雲流るるはてに」劇中歌で「フウ?」が、唄うはジュディ・ガーランド=マリリン・ミラー役。

1949年、マリリン・ミラーの伝記映画「虹の女王」劇中歌で「フウ?」が、唄とタップはレイ・ボルジャー=ここが第4章メイン(仮)。

(紹介の公式動画はYouTubeの共有機能を利用しています。SP盤動画に関しては隣接権が消滅であろうと思われる、また権利が消滅もしくはJASRACまたはNexTone管理下に置かれている曲です)

第8回[テル・ミー (Tell Me) 色川武大のジャズ]
第10回[ディスカバージャパンと日本のうた(色川武大のジャズ)]