テル・ミー (Tell Me) 色川武大のジャズ
天野喜久代&湯山光三郎
第3章でのメインは二村定一、それにまつわり「テル・ミー(Tell Me)」という曲の紹介が。マックス・コートランダー[Max Kortlander]作曲、ウィル・キャラハン[J.Will Callahan]作詞による1919年の作品。ボーカル版の元祖はアル・ジョルソン[Al Jolson]のバージョンで、これでマックス・コートランダーはブレイクした由。当時、他にも、アーサー・フィールズ[Arthur Fields]のボーカル版、かのオリジナル・ディキシーランド・ジャズバンド[Original Dixieland Jazz Band]によるインスト版などがポピュラーだと思う。後年では、ビング・クロスビー[Bing Crosby]にドリス・デイ[Doris Day]だろうか。
この曲には日本版も、ポピュラーは天野喜久代&湯山光三郎による1928年(昭和3年)の音源だと思う(SP盤では"ニッポノホン 17096")。それでこの章での御大は、その天野喜久代&湯山光三郎版「テル・ミー」の逸話として、湯山光三郎=二村定一説にふれている。その詮議、聴き比べるのが早い。が、このSP盤持ってない&公式にもない。国会図書館のアーカイブ(歴史的音源)にはあるので、興味があればぜひ。ちなみにヴァイナル盤では「日本のジャズ・ソング(戦前篇)」に収録が(5枚組LP"SZ-7011")、そのCD版"BRIDGE-066"にも収録されている。
色川御大の話に戻り、この音源の名義にある湯山光三郎とは二村定一であると断言している。また湯山光三郎は実在の歌手で、二村定一の変名でもないとしている(表記は湯山でも、実際に唄っているのは二村というケース)。しかし他の曲では、変名にて(内職で)吹き込まれたケースもあったはずと述べておられる(それと、ビクターtoコロムビア移行期では権利関係による無銘盤が存在するそうだ)。変名云々では、また別に、三輪慎一=二村定一説が(「日本歌謡音盤史」の森本敏克史観)。これは別人であると御大は断言した。
(湯山光三郎また三輪慎一の音源もアーカイブにある)
それはまあ知れ渡っている=知る人ぞ知るかもしれないが、40年以上前に御大が唱えた説で、特に目新しい話題じゃない。ただ、その復刻的なシリーズが発売となり(例えば"BRIDGE-066"は2006年)、そこが如何にUPデートされるか気にはなっていた。そして新たなライナーノーツでは、湯山光三郎の件はスルー(旧来ママ)、三輪慎一の件は見極めを避けている。でもそれも、そういうものなのだろうと、それよりも(「テル・ミー」について、また別の話)、よくわからない、謎は...。
Efim Schachmeister
まずはアル・ジョルソンで「テル・ミー」、公式音源。1919年の録音。
次、エフィム・シャッハマイスター[Efim Schachmeister]=ドイツのジャズ・ヴァイオリニストによる「テル・ミー」。
これはSP盤で("Polydor 10017")、レコード番号からも1927年(昭和2年)発行と思われる。当時、数枚の日本ポリドール盤が(Efim Schachmeister盤は)、日本仕様だが独原盤であろう。
(ドイツ・ポリドールの販売戦略として、このようなインスト版が主にリリースされた=ドイツ語圏外のシェア獲得のため)
気づかれたと思うが、エフィム・シャッハマイスター(これ、読みカナはこれで良いのか?)版に対して、アル・ジョルソン版には特徴的なスライドホイッスルの音がない。先に紹介の天野喜久代&湯山光三郎(=二村定一)版にはスライドホイッスルが入る。つまりエフィム・シャッハマイスターと天野喜久代&版にはスライドホイッスルが。また日本版「テル・ミー」には、さらに古い二村定一の独唱版が("ニッポノホン 15897"、レコード番号からも大正末。これもアーカイブで試聴可能)。その二村定一によるいわば元祖「テル・ミー」にもスライドホイッスルなし。
その他、いくつかの古い音源を聴いてみて、いずれにもない。様々な「テル・ミー」試聴で気づいたのは、スライドホイッスルが入る方が稀=上記2バージョンのみ、他に探せなかった。ところでエフィム・シャッハマイスターという方、"King of all Dance-Violinists(König aller Tanzgeiger)"=ダンス・バイオリンの王者? 要は、レジェンド、本国では超有名らしい。その履歴を探ると、特に1925年からグラモフォン(=ポリドール)下でのレコーディングが精力的に行われたようだ。その年から、少なくとも1928年までは海外に出た形跡がない(だと思う)。
ヒューポン仮説&提起
エフィム・シャッハマイスター版の楽譜を(バンドスコア)、それを天野喜久代&湯山光三郎(=二村定一)版では踏襲したのではあるまいか? であれば天野喜久代&版「テル・ミー」は、最初期ドイツ・ジャズの影響下に? 当時の状況&その知名度からも、その逆=日本版「テル・ミー」にエフィム・シャッハマイスターが影響を受けたとは考え難い、が、いかがだろうか?
さっぱりわからない。譜で確かめるほどの知識もなく、また資料(台帳&月報など)で確認もしていない、あくまでも仮定&妄想=エビデンスが弱いのだ。大層な話ではないのだけれど、あれは(ヒューポンは)キャラが立つ、それに馴染むと、あの音がないと、なにかが足りないような...Hmm
(紹介の公式動画はYouTubeの共有機能を利用しています。SP盤動画に関しては隣接権が消滅であろうと思われる、また権利が消滅もしくはJASRACまたはNexTone管理下に置かれている曲です)