スウィングしなけりゃ意味がない!
色川武大のデューク・エリントン
第10章、ディー・ディー・ブリッジウォーター[Dee Dee Bridgewater]による「スウィングしなけりゃ意味ないね(It Don't Mean a Thing,If It Ain't Got That Swing)」で幕開け。1983年の舞台「ソフィスティケイテッド・レディ(Sophisticated Lady)」劇中歌にまつわる云々は見る唄、音源もないはず。
(DVD化されているのだろうか? 放映もされたので映像はあるはず)
「スウィングしなけりゃ意味ないね」そのものは1932年の作品。タイトルに"スウィング"が冠された最初の曲だそうで、数多のバージョンはあれど、元祖アイヴィ・アンダーソン[Ivie Anderson]を推したい、公式で。
この「スウィング云々は、伝説的なジャズ・トランペット(&コルネット)奏者であるバッバー・マイリー[Bubber Miley]の口癖だったそうで、エリントン自伝には「スウィングしないんじゃ、意味ねえよ」との中上哲夫訳が。
音源のルーツは、おそらく1932年の録音。手元にある盤の音源はBrunswickの"6265"で、音楽之友社「ジャズ・マスターズ・シリーズ」のデータを参照では、アーサー・ウェッツェル[Arthur Whetsel]とフレディ・ジェンキンス[Freddie Jenkins]、そしてクーティ・ウィリアムス[Cootie Williams]トランペット。トリッキー・サム・ナントン[Joe 'Tricky Sam' Nanton]とファン・ティゾール[Juan Tizol]トロンボーン。バーニー・ビガード[Barney Bigard]とハリー・カーネイ[Harry Carney]、そしてジョニー・ホッジス[Johnny Hodges]リード。フレッド・ガイ[Fred Guy]ギター。ウェルマン・ブロー[Wellman Braud]ベース。ソニー・グリア[Sonny Greer]ドラム。ピアノはデューク・エリントン[Duke Ellington]。
このミュージカルではもう一人、ジャネット・ヒューバート[Janet Hubert]というダンサーにも色川御大は注目。舞台のみでなく数々の映画&TVにも出演、国内放送されたTVドラマでは90年代の「NYPDブルー」だろうか(これ、マメに見ていたのだけれど記憶にない)。米国内ではやはり90年代のTVドラマ「ベルエアのフレッシュ・プリンス(The Fresh Prince of Bel-Air)」がより知られているようだ。
そのドラマから彼女のダンス・シーン。ワーナー公式で(Warner Bros.TV)。劇中、赤のジャケットからピンクのレオタードがジャネット・ヒューバート。ダンス・シーンに入った途端、彼女の表情が一変するのに注目!
この時35歳前後、ダンサーとしては晩年かと(劇中は40歳の設定)。最初、模範を示す男性インストラクター役はルメル・レオ[Roumel Reaux]で、この方も有名ダンサー。他のダンサーも素人ではないが、演出だと思うがダンスにミスがある。
ちなみにベルエアは地名、サンタモニカの北でウェストウッドの先(LA北西)、このウェストウッドから先は、当時の印象、ざっくり言って綺麗系に品が良い、でもビバリーよりはカジュアル=UCLAがあるからだろうか?=そんなエリアでの物語。このドラマそのものは見ていないが、ウィル・スミス[Will Smith]の出世作だそうで、それよりも曲が...C&Cの「Gonna Make You Sweat」で、時代を感じますなぁ...は、なんなのか? 遥か彼方に古い1930年代の曲以上に、特に80-90年代のポップな曲にそう感じるのは、それだけ当時の記憶が濃いのでしょうね。
(ディー・ディー・ブリッジウォーターその人については端折ったけれど、この方、すったもんだで故石塚孝夫氏がご苦労された逸話が、キャロル・スローン[Carol Sloane]の項で改めてふれるかも)
昔はよかったね
この章の標題曲は「昔はよかったね(Things Ain't What They Used to Be=シングス・エイント・ホワット・ゼイ・ユーズド・トゥ・ビー)」。ここで御大はアルト・サックスのジョニー・ホッジスに注目。そのジョニー・ホッジスで「昔はよかったね」、公式で(フィルムですがStoryville Recordsの公式チャンネル)。
これは1962年で、いわゆる"GOODYEAR"音源(当時の国内では幻的な盤)、御大の云う音源(録音年代)が不明なため、これで御免。その代わりジョニー・ホッジスがバッチり見れる。
先の「ソフィスティケイテッド・レディ」はエリントンの曲をベースとするミュージカル・レビューだが、この曲もエリントン=つまりそのフィーチャー回。この章では御大のエリントン論が綴られており、そこはぜひ本書にて...と、肝心な点を端折るけれど、中盤にかかり再確認したい(全19章の今回は第10章目)。
趣旨は、興味を持たれたのであれば、色川武大の本を読んでみませんか、&そこで紹介されている曲を聴いてみませんか&映画もいかがでしょう? であり、作品の解説&論評でもない(私が前に出るものではなく、私なんぞの話はどうでもいい)。まあ至らない点もあれど、それも一興として見逃していただければ、これを折り返しの口上として、では進める。
1929年の「ブラック・アンド・タン」
この章では「ブラック・アンド・タン(Black and Tan)」というショートフィルムにもふれている(第16回でも少し紹介の)。それで劇中のバッバー・マイリーかのような役は本人か? との疑問を呈する御大。撮影直前にバッバー・マイリーはエリントン下を離れて欧州に=これは御大も知ってる、でも、もしかすると撮影には参加?留意は、執筆当時にはビデオも所有されていたようだが映像不鮮明、それで御大曰く「よくわからん...Hmm
これは昨今ではデータベース(WEB)もある。IMDBでキャストを調べると、バーニー・ビガードのクラリネット、ウェルマン・ブローのベース、トリッキー・サム・ナントンのトロンボーン、そしてトランペットはアーサー・ウェッツェル云々と出てくる。そう、御大の云うシーンで登場はアーサー・ウェッツェルだ。
再度紹介は「BLACK AND TAN FANTASY(黒と黄褐色の幻想)」SP盤音源。
これはバッバー・マイリー(DAHRでレコード番号を検索すると1927年11月3日の録音。同年では先んじて10月26日の録音も、聴き比べていただればなのですが、好みがわかれるかと)。
フィルムに戻り、ヒロインのダンサー役がフレディー・ワシントン[Fredi Washington]で、謎は=知りたいのは、そのキャスティング、何故に主役(準)として彼女が抜擢か?「ブラック・アンド・タン」そのものは数多の解説があれど(エリントン関連の文献でこの作品にふれていないものはないだろう)、この件は不明。監督のダドリー・マーフィー[Dudley Murphy]がキーマンかと思うのだが研究書(和訳)がない...Hmm
ダドリー・マーフィーはトーキー初期の鬼才の一人、有名なのは1924年にポップ・アートのパイオニアであるフェルナン・レジェ[Fernand Léger]と手掛けた「バレエ・メカニック(Ballet Mécanique)」という実験的な映像であろう。もしも未見であれば、これは見ておいて損はないはず(1924年に"これ"がスクリーンで上映されたということを念頭に)。そのダドリー・マーフィーが手掛けたのであるから彼女の起用に何らかの含みがあるのでは?
そう考えるに至る理由が...実はWEB上に詳細な英文レポートがUPされており、やはりというか、その件が解説されていた、が、センシティブな内容は、プアなトランスレートでは誤解を与え兼ねないのでその紹介は控える。
ところで、エリントンに興味があれば、書籍では柴田浩一著「Duke Ellington」は力作だと思う。音楽に限らず専門的に深い内容を説くものでは、時として難解=読者を置き去りに。この本は、コアな題材も扱いつつ(データ量も多く、一見、とっつきにくいが)、それでいてスラスラと読めてしまう。エリントン本では自伝「A列車で行こう」は名著、エリントン側の視点としては興味深い内容だが、体系的という意味では、この柴田浩一氏の著書を推したい。
それとエリントン関連ではリットーミュージック「カンバセーション・イン・ジャズ」も。これはインタビュー集、インタビュアーのラルフ・J・グリーソン[Ralph J.Gleason]にして引き出せた話は、訳者である小田中裕次氏のトランスレートの冴えも相まって、ジャズに興味がなくとも、否、そんな方にこそすすめたい。
最後にもう一曲、御大推しのアデレード・ホール[Adelaide Hall]のボーカルで「クリオール・ラヴ・コール(Creole Love Call)」、公式で。
音源ルーツは1927年の録音のはず。編成は、オットー・ハードウィック[Otto Hardwick]とルディ・ジャクソン[Rudy Jackson]、そしてハリー・カーネイはリード。フレッド・ガイのバンジョー、ウェルマン・ブローのベース、ソニー・グリアのドラム、そしてピアノはデューク・エリントン。先に紹介のアイヴィとは対照的な歌唱、いわゆるヴォーカリーズ(vocalese)で、簡単にはスキャット的な(聴いていただくのが早い、わかりやすい)。
(紹介の公式動画はYouTubeの共有機能を利用しています。SP盤動画に関しては隣接権が消滅であろうと思われる、また権利が消滅もしくはJASRACまたはNexTone管理下に置かれている曲です)
第21回[色川武大のファッツ・ウォーラー]
第23回[中野忠晴 (チャイナタウン・マイ・チャイナタウン)]