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ブラック・ボトムに皆殺しのトランペット

第7章のエトセトラ

標題曲を除く、その他、取りこぼし。二村定一は紹介済み(ざっくりだけれど)。エノケンは如何に(公式にない)。前回紹介のジョー・スタッフォード[Jo Stafford]、他の曲は後で(重複)。「シャイン・オン・ハーヴェスト・ムーン(Shine On Harvest Moon)」はルース・エッティング[Ruth Etting]であるから後で(重複)。「マイ・アイディアル(My Ideal)」では西代宗良云々も後で(重複)。キャロル・スローン[Carol Sloane]は外伝? ガーシュウィン[George Gershwin]の曲は次章に。それと曲名の記述はあれど、御大曰く「あまり好感を持っていない...曲は割愛。

などなど...紹介済み&後章で再びふれている曲を除くと、まずはビング・クロスビー[Bing Crosby]で「プリーズ(Please)」、公式で。

この音源のルーツ、おそらく1932年の録音。アンソン・ウィークス楽団[Anson Weeks & His Orch.]で、ギターはエディ・ラング[Eddie Lang]=ジャズ・ギターではレジェンドの一人。

次は「ブラック・ボトム(Black Bottom)」、色川御大も述べているように、古い映画ファンであれば(曲名は知らずとも)聴いた覚えがあるのでは? ただ、2バージョンがポピュラーで(だと思う)、御大の云う「ブラック・ボトム」は如何に? と、1954年の映画「スタア誕生(A Star is Born)」云々とある。

元祖ジェリー・ロール・モートン[Jelly Roll Morton]で「ブラック・ボトム・ストンプ(Black Bottom Stomp)」、公式で。

この音源のルーツ、おそらく1926年の録音。この方、最初期ジャズメンの一人でレジェンド、また後で紹介することに。

編成、ジョージ・ミッチェル[George Mitchell]コルネット、キッド・オリー[Edward "Kid" Ory]トロンボーン、オマー・シメオン[Omer Simeon]クラリネット、ジョニー・センシア[Johnny St.Cyr]バンジョー、ジョン・リンゼイ[John Lindsay]ベース、アンドリュー・ヒレイアー[Andrew Hilaire]ドラム、そしてピアノはジェリー・ロール・モートン。

後発バージョンはアネット・ハンショウ[Annette Hanshaw]で「ブラック・ボトム」、公式で。

これが(アネット・ハンショウかはともかくとして)、この章での「ブラック・ボトム」だ。音源ルーツは、おそらく1926年の録音。編成は、レッド・ニコルズ[Red Nichols]トランペット、ミフ・モール[Miff Mole]トロンボーン、ジミー・ライテル[Jimmy Lytell]クラリネット...!? この面々、オリジナル・メンフィス・ファイヴ[Original Memphis Five]なのですが、この録音(9月12日)、盤により記載が微妙に異なる? 手元にあるライナーノーツ(Retrospectiveの"RTS 4304")では曖昧に省略されている。アネット・ハンショウもまた後で紹介することになる、ちなみに「That's all!」が彼女のキャッチ。

次、「コケット(Coquette)」、これもレジェンドの一人であるビックス・バイダーベック[Bix Beiderbecke]のバージョンを紹介したい、公式で。

音源ルーツ、おそらく1928年のポール・ホワイトマン[Paul Whiteman Orch.]、コルネットがビックス・バイダーベック(その他、編成割愛御免)。ビックス・バイダーベックも再度紹介することに。

次、「エイント・シー・スウィート(Ain't She Sweet)」。スタンダードにビートルズ[The Beatles]でもお馴染み(="いい娘じゃないか")、元祖は1927年のルー・ゴールド[Lou Gold and The Melody Man]、ここではジーン・オースティン[Gene Austin]のバージョンを紹介、公式で。

音源ルーツ、おそらく1927年の録音、ナット・シルクレットのオケ[Nat Shilkret Orch.=ナサニエル・シルクレット/Nathaniel Shilkret]。1920年代を代表するクルーナーの一人で、この方にも後で再登場願うことに。

次、ミスタンゲット[Mistinguett]で「ヴァレンシア(Valencia)」、二村定一でもお馴染みの曲、その元祖バージョンだろうか(同年にはポール・ホワイトマン下のフランクリン・バウアー[Franklyn Baur]も唄っている)、公式で。

音源ルーツ、おそらく1926年の録音。戦前1910-20年代のフランスを代表する女性エンターテイナーで、否、詳しくないのだけれど、脚線美を誇るレビューの女王と云われた。するとバーレスク(Burlesque)的だったのでしょうか?

最後、そのミスタンゲットと恋仲の、御大推しのモーリス・シュヴァリエ[Maurice Chevalier]で「ルイーズ(Louise)」、公式で。

音源ルーツ、おそらく1929年の録音、同年のUS映画「レヴューの巴里っ子 (Innocents of Paris)」劇中歌、それでオリジナルは英語版(シュヴァリエはフレンチ)。男性エンターテイナーでの当時のフランス代表、舞台にシュヴァリエが登場すると、まるで光が灯るかのような華があったそうだ。そして御存知、"あきれたぼういず"の芝利英(坊屋三郎の実弟)があやかったその人。ちなみにこの曲はエノケンが唄ったことでも知られている。

Pete Kelly's Blues

この章では1955年の映画「皆殺しのトランペット(Pete Kelly's Blues)=ピート・ケリーのブルース」にもふれている。ローリング・トゥウェンティーズのカンザスシティ(ジャズの都)を舞台とするフィルム・ノワール的ジャズ映画。Pete Kelly=ジャック・ウェッブ[Jack Webb]演じる主人公のコルネット奏者、そのバンドが興行主とのいざこざを起こすというプロットとしては特にどうこうでは。劇中、ジャック・ウェッブによる演奏シーンもあれど、この方、役者よりもプロデューサーとして著名ではあるまいかと。国内で最も知られているプロデュース作は、おそらくTV「特捜隊アダム12(Adam-12)」では? これは毎週、日曜日の午前中に放映されていたパトロール警官物語。

「皆殺しのトランペット」に戻り、まずジャネット・リー[Janet Leigh]が「アイム・ゴナ・ミート・マイ・スウィーティー・ナウ(I'm Gonna Meet My Sweetie Now)」を軽くワン・コーラス。次、ペギー・リー[Peggy Lee]が「ヒー・ニーズ・ミー(He Needs Me)」から「シュガー(Sugar=That Sugar Baby Of Mine)」に続く。ロードサイドでは、歌手役でカメオ出演のエラ・フィッツジェラルド[Ella Fitzgerald]が「ハード・ハーテッド・ハンナ(Hard Hearted Hannah)」をじっくりと、終盤に再登場で「ピート・ケリーのブルース」を。他にペギー・リーが「サムバディ・ラヴズ・ミー(Somebody Loves Me)」は酔ってグタグタ、サナトリウムでの「シング・ア・レインボー(Sing A Rainbow)」はまるで廃人かのように。

で、この映画にまつわる話題は「ホワット・キャン・アイ・セイ・アフター・アイ・セイ・アイム・ソーリー?(What Can I Say After I Say I'm Sorry?)」の唄(ボーカル)なのだけれど、これ劇中ではインストなはず。興味があればサントラに、またボーカル版もあるが、なんにせよ映画を見ていただくのが早い(これはサントラよりも劇中歌として見ていただくのがよろしいかと)。ジャネット・リーの「アイム・ゴナ・ミート・マイ・スウィーティー・ナウ」が御愛嬌にチャームなのと、ペギー・リーの演技が際立つが、唄ではエラの存在感が...やはり強い。

ところで紹介の音源、盤も所有(あ、ミスタンゲットは持ってない)、たいていは、それをプレーヤーで掛けて(否、このPCの再生音がプアで)、つらつらと記してる。それでこの御時世、しかも酷暑、その真夜中に1920年代のジャズを聴くというのは、なかなかに頽廃的=けだるさに結構な趣があるのだ。そこが古いジャズの一つの特徴ではと、ダンス音楽(Fox-Trot)であるにもかかわらずこれほどに頽廃を感じる音楽は他にない。そこにローリング・トゥウェンティーズの時代性が潜んでいるのであろうし、またそれはロックにはないものだろう。

第18回[スリム・ゲイラードとジョー・スタッフォードの"For You"...&パティ・ペイジのジャズ]
第20回[色川武大のジョージ・ガーシュウィン]