道路交通法をひも解く ~徐行~
意外にも理解されにくいのが「徐行」。
見通しの悪交差点などで車や自転車は「徐行すべき場所」と定められているが・・その定義は今一つ具体的ではない「徐行の定義」ではないだろうか・?
今回はそんな徐行の定義についてひも解いてみた。
|道交法上の定義
「徐行」とは・・・道路交通法第2条第20号に規定がされているのだが、
徐行とは、
「車両等が直ちに停止することができるような速度で進行することをいう」
と定められている。
この条文は、自動車教習所に入所する前のころから疑問のままだった。
それはこの規定には明確かつ具体的な速度が示されていないからなのだ。
|徐行の目的・趣旨は
「徐行」の目的・趣旨については、
速度を減じて交差点等を安全に通行することを目的
としているといえるのだ。
したがって、徐行の速度は具体的に定義されていないものの、徐行すべき場所と指定されている場所において、交通事故はもちろん囲の車両や人などに危険な状態を感じさせることなく安全に通行することができる速度ということになり、危険を生じさせる恐れのあるときに直ちに停止できる速度であると理解すべきである。
なお、判例においても
「徐行とは、10キロメートル毎時以下の速度をいうと一律に割り切ることができない。諸般の事情を考慮して10キロメートル未満を一応の基準として、具体的状況のもとにおいて判断すべきであろう。」
としているものが多い。
|「徐行」に関する警察庁の見解答弁
道路交通法を所管する警察庁の交通企画課長が国会において歩道を通行する場合の自転車の徐行義務に関して説明した答弁がある。自転車の徐行も車の徐行も考え方は同様なので参考まで引用する(参議院会議録情報第084回国会地方行政委員会第12号 - 第084回国会、1978年5月9日説明員(鈴木良一君)「警察庁交通局交通企画課長」)。
|徐行すべき場所
道路交通法(第42条)には、
車両等は次のような場所を通行するときは徐行しなければならない
と定められている。
① 「徐行」の道路標識等があるところ。
② 左右の見通しが利かない交差点に入ろうとするとき。(信号機や警察官等の手信号による交通整理が行われている場合及び優先道路を通行している場合を除く)。
③ 交差点内で左右の見通しが利かない部分を通行しようとするとき(信号機や警察官等の手信号による交通整理が行われている場合及び優先道路を通行している場合を除く)。
④ 道路の曲がり角付近。
⑤ 上り坂の頂上付近。
⑥ 勾配の急な下り坂。
|各条文に定める徐行すべき場合
前述の通則のほか、各条文において、道路交通法により車両等は次のような場合は徐行しなければならないことが定められている。
① 警察署長の許可を受けて歩行者用道路を通行するとき。(第9条)
② 歩行者等の側方を通過するときに安全な間隔がとれないとき。(第18条)
③ 道路外に出るため右左折するとき。(第25条)
④ 乗客が乗降するために停止中の路面電車の側方を通過するときに安全地帯があるとき。または乗降客が居ない停止中の路面電車との間に1.5メートル以上の間隔があるとき。(第31条)
⑤ 交差点で右左折するとき。(第34条)
⑥ 環状交差点に入り、環状交差点内を通行し、環状交差点を出るまで。(第35条の2)
⑦ 交差道路が優先道路や道幅の広い道路であってそれに進入するとき。(第36条)
⑧ 緊急自動車が法令の規定により停止しなければならない場所を通過するとき。(第39条)
⑨ 普通自転車が歩道を通行するとき。(第63条の4)
⑩ ぬかるみや水たまりの場所を通行するとき。(第71条1)
⑪ 身体障害者(車いす、つえ、盲導犬)や保護者が付き添わない児童、幼児、高齢者の通行を妨げないようにするとき。(第71条2、2の2)
⑫ 児童、幼児などが乗降するため停止中の通学通園バスの側方を通過するとき。(第71条2の3)
⑬ 道路の左側部分に設けられた安全地帯の側方を通過する場合において、当該安全地帯に歩行者がいるとき。(第71条3)
など
|標識等による指定
安全御確保のために特に必要と認める場合には、徐行が必要区間の始まりと終わりの地点の左側に徐行標識を設置し、始まりの地点に始まりの補助標識、終わりの地点に終わりの補助標識をそれぞれ設置して交通規制を行うことになる。
ただし、規制区間がおおむね30メートル未満の場合には始まりの補助標識の代わりに「ここから○○m」の補助標識を設置することで終わりの標識を省略することができるとされている。
ちなみに警察庁の定める「交通規制基準」(平 成29年4月24 日)よると
対象道路としては、原則として次のいずれかに該当する道路としている。
① 幼稚園、小学校、病院等が沿道にあり、これらの施設の利用者の安全な通行を確保する必要がある道路の区間又は場所
② カーブ、急な坂道その他道路構造上、特に必要な道路の区間又は場所
③ 騒音、振動等交通公害のため、特に必要と認められる道路の区間又は場所
|実際の取締りは
警察では、徐行違反の取り締まりを行っている。
その取り締まりの方法としては、道路の曲がり角や見通しの悪い交差点、道路標識の設置されている場所・道路などにおいて、速度測定用のレーダーを用いて通行車両の速度を測定し一定の速度以上で走行した車両などを検挙している状況にある。
ちなみに令和5年中の取り締まりにおける「徐行違反」の取締件数は352件である。
道路交通法は昭和35年6月25日に成立した法律だが、この立案作業を携わった内海倫(元防衛事務次官。元人事院総裁)の著書「道交法とつきあう法」の中で
と記載されていることからも「安全を確保することができる」ことを目的とした経緯を知ることができる。
|まとめ
以上のことからも、「徐行」は安全を確保するための手段であり、安全確保するために、危険を察知した際に直ちに停止すること(おおむね1メートル以内ともいわれている)ができる速度とされている。
そしてその速度は場面場面での相対的なものであり、一律に定められるべきものではなく、結果として安全が確保されることが重要なのである。
道交法の解釈権限を持つ警察庁が国会において答弁した、客観的に徐行に該当する速度は「4、5キロメートで直ちに停止しできる速度」ということになるのだろう。
中には見通しの悪い交差点でも10キロメートル以下で走行することは非現実的だ、交通の流れを妨げる、という人もいるが、徐行の規定が設けられた趣旨を考えればやはり安全のために徐行すべきである。
いずれにしても、徐行すべき場所(標識設置場所を含む)、徐行すべき場合に対応してすぐに停止できることのできる速度を順守して安全を確保しましょう。
参照https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20170424.pdf
交通規制実施基準:https://www.npa.go.jp/laws/notification/koutuu/kisei/kisei20170424.pdf