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「民佐穂 のびちぢみの町」開催中です。

 ただいまシグアートギャラリーでは岩手県遠野市出身のアーティスト・民佐穂(みんさほ)の個展「のびちぢみの町」を開催しています。2020年以来3回目の展覧会です。


民佐穂の作風

 民は絵画を中心に活動を展開してきました。主に木の板の上にプラスティック製やゴム製のヘラを用いて、鮮やかなアクリル絵具を盛り上げたり削ったりすることで制作しています。

 作品に共通するのは、それほど多くはない手数によって配置された絵の具の形やグラデーション、重なりが、不思議と空間性を感じさせる点です。そのような民の作風は、多くの人が普段から無意識に使っている空間認識の能力を巧みに刺激し、「風景」や「場所」の記憶を思い起こさせるものであると言えます。民の作品は言い換えれば私たちの視覚の不思議さや世界の捉え方を再確認させるものでもあるのです。


(展示の様子。右から《Remind for the first time》2021、《Dispersion》2021、《The other side of nothing》2021。)


展覧会「のびちぢみの町」の概要

 今回の展示「のびちぢみの町」はそのタイトルに含まれているように、過去の展覧会の「川」や「路」から派生して「町」をテーマに作品を展示しています。

 会場では「Green」がタイトルに付いた連作が、列柱のように並んだ板の上に展示されているのが印象的です。連作の他にも多くの作品に緑系の色が使われており、差し色としてオレンジや黄など暖色が所々に用いられているのが目につきます。また、壁だけではなく床などあちこちに作品が置かれ、とても楽しげな会場になっています。

(「のびちぢみの町」会場風景)

(《Green water surface》2021 展示の様子)

(「のびちぢみの町」会場風景)

 

展示のテーマ「町」とは?

 ここまで会場の様子など展示を概観してきましたが、ここからは展示のテーマについて、作品や会場の様子、会場で流れているインタビュー映像の言葉などをヒントに考えてみたいと思います。なぜ「川」や「路」から「町」へテーマの変化があったのでしょうか?民にとっての「町」とは何なのでしょうか?

 インタビュー映像によると、民は今年(2022年)に入ってから約2年ぶりに盛岡の町を歩いたことによって「こんな場所があったんだ!」「こんな形があるんだ!」と多くの発見をし、その経験をきっかけとして、今回の展示では初めて盛岡の町という特定の場所から受けた印象を、制作に取り入れることになったようです。


(「のびちぢみの町」会場風景)


 実際に会場を見てみると、例えば、《教会の屋根》、《教会の窓》、《中の橋とランプ》、《公共地下道入口》などのように、盛岡の町を知っている人なら思い浮かぶような具体的な場所をモデルにしているらしい作品がいくつも展示されています。《川べりの町》という作品は、河原のように斜めに削られた板とともに三角屋根の家のようなオブジェがセットになっていますが、北上川や中津川、雫石川が流れている盛岡の町を象徴する小さいジオラマのようにも見えます。
 一方で、《Sign post》(道しるべ)という題の棒状の作品がアクセントのように会場内に点在していたり、《マイルストーン》、《Tropic of cancer》(北回帰線)、《もうすぐ着くよ》、《ホテルタウン》のような題からは、地図や旅行という移動や訪問にまつわるモチーフも浮かび上がってきます。


(「のびちぢみの町」展示の様子。左から《三角屋根の町なみ》2022、《ドライブスルー 》2022、《中の橋とランプ》2022、《中の橋と手すり子》2022、《公共地下道入口》2022、《Wind chime》2022)

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(《 川べりの町》2022)

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(左から《ホテルタウン》2022、《Signpost 6》2022)

(右:《教会の屋根》2022)


「町」を経験するということ

 ここまで見てきたことを踏まえ考えてみると、今回の展示が特徴的なのは《町》がテーマであるのはもちろん、盛岡の町を訪れるという民の経験を追体験するような構成になっている点かもしれません。展示「のびちぢみの町」は、民が記憶から選び出した具体的な場所や建物をモチーフにした作品を用いつつも、ある場所を訪れ歩いた経験を再構成し展開した試みである、とは言えないでしょうか。

 会場で流れているインタビュー映像で民は、「制作を始めた頃から風景に興味を持っていたが、最近では季節の変化や日常の身支度まで含めた、物事の移り変わる様に関心が移ってきた」とも語っています。社会情勢の変化を経て、久しぶりに町歩きをした民は、移ろう盛岡の姿を敏感に感じ取って作品に投影したのでしょうし、反対に、変わらない町の光景から自分自身の変化に気がついたこともあったかもしれません。


(左から《もうすぐ着くよ》2022、《舟下り》2022)


 ぜひ「のびちぢみの町」をご覧になる際は、初めて来た場所でそうするように、あちこちよく観察してみてください。きっと盛岡で民が様々な発見をしたように、誰もがこの展示に映し出された「町」の姿を通して、自分自身の知覚を見直す機会となるはずです。

 今年は盛岡でも「チャグチャグ馬コ」や「盛岡さんさ踊り」など、数年ぶりにイベント が再開されます。これから暖かくなって盛岡を訪れる方も増えるでしょう。その際にはぜひ、シグアートギャラリーにお立ち寄りください。皆さまのご来場をお待ちしています。


スタッフS


民佐穂|のびちぢみの町
会期:2022.6.4(土)–6.22(水)/10:00–18:30/6月14日(火)休業
会場:Cyg art gallery [シグアートギャラリー]
   (岩手県盛岡市菜園1-8-15 パルクアベニュー・カワトク cube-Ⅱ B1F)

展覧会詳細ページはこちら のびちぢみの町-Cyg art gallery


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