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追悼 RIP #Natenom

今週の初めまで生きていた自転車アクティビストがいる。その人は"Natenom"の名でドイツ全土の交通シフトを掲げる自転車コミュニティに知られた存在で、彼が築き上げた(築き上げざるを得なかった)活動とその熱心さには、彼の地元であるPforzheimのコミュニティから自転車ロビー団体ADFC連邦本部に渡る多くの人々が影響を受けていた。

共著『世界に学ぶ自転車都市のつくりかた 人と暮らしが中心のまちとみちのデザイン』のドイツ章にこんな文を書いた。

「2020年からは市街地で自転車利用者を追い越す(または追い抜く)際に1・5m以上の側方間隔を取ることがドライバーに義務付けられたが、実際には守られていない。」

実はこの後、次の文が続くはずだった。

「アクティビストたちは自転車にプールスティックを取り付けてこの距離を可視化し、自作の装置で測定・解析した側方間隔のデータを自治体に提示している。」

この文はページ数の関係で、"自作の装置"ことOpenBikeSensorの紹介写真とそのキャプションへ統合されるかたちとなり、"アクティビスト”が"測定・解析した側方間隔のデータを自治体に提示している"ところまでは取り上げることができなかった。自身をゾウのアイコンに化すことに徹したNatenomは、火曜日の夜までこの"アクティビスト"を筆頭するような人だった。

"だった"なんて過去形を使うことが辛い人が、水曜日以後ソーシャルメディア上のその界隈に溢れた。Pforzheimに近いStuttgartだけでなく、HalleにLeipzig、LudwigshafenにMainz、Norderstedtなど第1金曜日にクリティカルマスを行うドイツ各地のまちは、彼を追悼するライドになることをアナウンスし、Frankfurtは予定外に急遽クリティカルマスを呼びかけ、Kölnは彼のアイコンを描くようなルートの自転車デモを組み、MünchenやNürnbergまでにもその輪は広がり、それらのライドには大勢の人が参加した。行き場のない気持ちを抱えた時に、こうした行き場があるのは少しばかり救いである。

この日もいつものように反射ベストを着た43歳のNatenomは、彼の自宅からそう離れていないという州道で、77歳が運転する自家用車に後ろから追突され、重傷を負いその場で亡くなった。彼は長年、特に州道における自転車利用者の交通安全というテーマに最も力を入れていたが、まさにその危険性を訴えていた州道で自らが犠牲になってしまったのだ。市街地外では追い越し(追い抜き)時に最低2.0mの側方間隔を維持することがドライバーには義務付けられているが、(自身もNGO化時の設立メンバーであるという)OpenBikeSensorで測ったデータによれば、70cmしか離れていないことも度々あったのだという。

追い越され時の側方間隔のデータを幾度となく提示しドライバーの危険行為を訴えても、管轄の警察と地方検察は車側からの視点に留まるどころか、側方間隔維持に効果のある安全棒の使用を禁止し、自動車による暴力に加担した。彼の死は、道路交通上、自転車利用者には平等な安全を与えなくてもいいという完全に間違った認識が引き起こしたものだと思わざるを得ない。

ADFCフランクフルトはこう書いている。
「私たちの多くと同じように、彼もまた単に自然を味わいながら、平穏にAからBへ移動したかっただけなのだろう。ただ自転車に乗ってしまったがために、彼は普段から故意的に特に狭い間隔で追い越され、クラクションを鳴らされ、唾を吐かれ、車から何か物を投げつけられ、道路休憩所で攻撃的なドライバーに止められ、道路以外の場所でも脅迫された。ーそれらのすべては動画に残され最適な形で記録化されている。」

共著でも取り上げたモビリティ専門家カティヤ・ディールには、Natenomの村の親友からこんなメッセージが届いたという。
「彼の母と(家族同様の)私たちは、あなたたちにこの問題を大きくしてほしいと願っています。それは、もし自分に何かが起こった場合に備えての、彼の長年の願いでした。」

地元オンラインマガジンの著者が、彼の死を伝える記事の最後にこう書いている。
「追い越しは、速く走ることと同様に権利ではなく、道路交通法ですべての交通参加者が他の交通参加者に配慮することが求められているのと同様に、交通参加者として非常に慎重に対処しなければならない特権です。間違いは通常致命的であり、人はそれを誘発すべきではありません。」

ドイツで毎日8人が亡くなっているいう道路交通上の死をゼロにし、加害者をもゼロにするには、成されなければならないことがまだあまりに多くある。その最前線にいた1人を交通シフトを願う自転車コミュニティは失ってしまった。しかし、彼の願いは多くの人のなかに生き続けるだろう。


参考
https://natenom.de/
https://www.fahrradstadt-pforzheim.de/index.php/2024/01/31/natenoms-nachruf/
https://bw.adfc.de/artikel/interview-mit-einem-aktivisten-fuer-sicheren-ueberholabstand
https://www.presseportal.de/blaulicht/pm/137462/5703634
https://www.chrischmi.de/2024/01/natenom-wurde-getoetet/
https://www.openbikesensor.org/blog/2024/02/01/nachruf/
https://www.adfc-frankfurt.de/2024/02/verein/wenn-der-ueberholabstand-nicht-mehr-messbar-ist/
https://katja-diehl.de/stop-killing-cyclists-rip-natenom/
https://www.pf-bits.de/2024/01/zum-tode-eines-engagierten-fahrradaktivisten/

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