MSX物語③パソコン少年のバイブル・こんにちはマイコン
誰しもが自分の人生を変えた一冊がありますよね。僕にとってはすがやみつる先生の『こんにちはマイコン』がその一冊でした。日本のパソコン黄金期の先駆けとなったPC少年のバイブルと、小学生から見た1982年のパソコン風景をまとめてみました。
①まずインベーダーありき
1982年の小学生にとってパソコンとはどういう存在だったでしょうか。それにはまずインベーダーについて語らねばなりません。タイトーの大ヒット作スペースインベーダーは1978年に発売され、大きな社会現象になっていました。ゲームセンターが駅前などに定着したのもこの頃です。
しかし当時のゲーセンは到底小学生が立ち寄れる場所ではありませんでした。不良の巣窟と恐れられ、万が一大人に見つかれば説教を喰らうことも珍しくなかったのです。
1980年に放送された超名作『あしたのジョー2』で、ジョーとゴロマキ権藤が待ち合わせる、うらぶれた居酒屋の前の繁華街のシーンでスペースインベーダーのSEが使用されています。当時のアーケードゲームのイメージが伺える演出だと思います。
僕はスペースインベーダーを漫画で知った世代です。そう1979年から連載が開始された『ゲームセンターあらし』で実際にプレイしたことがないインベーダーに夢中になっていました。
この時期は安価な家庭用ゲーム機はまだ発売されていなかったので、所謂電子ゲーム版のインベーダークローンを遊ぶのが関の山でした。旅行先のゲームコーナーで運よく遊べることがあっても、ゲームセンターでゲームをやり込んでいた小学生は殆どいなかったと思います。あらしの連載が進んでいくと当時のアーケードの人気ゲームが次々と登場、その憧れが強烈なものだったことを忘れることが出来ません。
この『ゲームセンターあらし』であらしの友人であるさとるが天才プログラマー少年という設定だったため、誌面にパソコンやプログラミングの場面がいくつか登場しています。
🤔「このパソコンという奴でゲームは動いているらしいぞ」
そんなことを朧げに理解していたタイミングで「こんにちはマイコン」は発売されたのです。
『ゲームセンターあらし』について語りだすとキリがないのですが、齢50を過ぎて一番素晴らしいのは落第少年のあらしと不良番長の一平太、生粋のエリートのさとるが「ゲームが好き」という友情で繋がれていることだと思うんです。
1982年9月発売の『ゲームセンターあらし全百科』にもパソコンの記事が多数登場し、 こんにちはマイコンのプロローグ的な内容になっています。
日本レトロゲーム誌研究会電子化部さんで紹介されているのでこちらも是非!
https://retoge-mag.websa.jp/archives/1556
②こんにちはマイコンの衝撃
こんにちはマイコンはゲーム狂のあらしがパソコンについて学んでいくという入門書でした。この名著を一言でまとめると「頑張ればパソコンでゲームが作れる」を理解できるということに尽きると思います。
自宅でTVゲームをプレイすることが夢だった時代、遊ぶどころか自分でゲームを作成できるとは!
全国のナイコン少年の「ゲームを作りたい!」と言う欲求がパソコンへの憧れと購入動機であったことは間違いないはずです。
マイコンショップの存在を知ったのはこの時でした。僕より上の世代のパソコンマニアの方からナイコンの子供時代にショップの展示用PCを使用してプログラミングを独学したなんて話をよく聞きます。僕も数回足を運んだことがあるのですが、店内で交わされる会話が殆ど理解できなくて恐ろしくて逃げ出してしまいました。
後半はプログラミングの基本を学ぶことが出来ます。ベーシックが中心ですが「流れ図」と題したフローチャートを解りやすく解説してくれたのが後年役に立ちました。このフローチャートは全てのプログラミングの基礎なだけでなく、普段の生活や果ては人生設計にまで論理的思考を応用できる概念です。
現在小学校でもプログラミング的思考の授業があり、そこで論理的思考を視覚化させる「フローチャート」が活用されているとのことですが「こんにちはマイコン」はこれを先取りしていたんですね。
③こんにちはマイコン2
約1年後の1983年8月に続編が発売されました。黎明期のパソコン業界はマニアが先行していたので難解な技術書が多かったのですが、こんにちはマイコンの解りやすさは大人にも大人気になっていました。発売日に大型書店に買いに行くと、多くのサラリーマンが手に取っていたことを思い出します。
冒頭で「マイコン大探検」と題されたパソコンの内部構造の解説があります。このCPU・RAM・ROMの仕組みは現在のコンピューターでも基本的に同じです。この概念を理解するのがパソコン少年の第一歩と言えるので極めて重要な内容でした。
MSXを購入する際にRAM16KBの機種と32KBの機種の違いが判らないと、我が家の大蔵省の母上に「安い方がいいでしょ!」と押し切られてしまう所でしたよ。
アドベンチャーゲームやシュミレーションゲームの存在を知ったのもこの時なのですが、そんなゲームが存在するというだけで大興奮しましたね。こんにちはマイコンを暗記するほど読み込んでいくと、それだけで学校で友達に自慢できました。自分ではプレイしたこともないのに!
ただロールプレイングに関しての解説はなかったので、僕がコンピューターRPGの存在を知るのはもう少し後のことになりました。
後半の『TVゲームのできるまで』ではナムコを訪問して、遠藤雅伸さんにゲーム制作について教えて貰います。
すがや先生ご自身がナムコで遠藤さんに直接取材されたとか。あの名作ゼビウスも登場!ゲーム制作のプロを初めて知ったのもこの時でした。
僕はパソコン少年の究極の目的は「ゲームを創ること」だと思っています。夢中になったゲームを自分の手で作ることが出来る!そのための第一歩としてパソコンを購入しなければなりません。もはやこの熱気は最高潮に達していました。
日本レトロゲーム誌研究会電子化部さんでも「こんにちはマイコン」の特集をされています。こちらも是非!😊
https://retoge-mag.websa.jp/archives/345
④永遠のPC教師、すがやみつる先生
こんにちはマイコンがヒットしたのは作者のすがやみつる先生自身がパソコンマニアで、ご自身の学んだ体験を上手く漫画に取り込んだことにあると思います。その後も数々のイベントやMSXマガジンでパソコン通信の連載などもされていて、何時も僕達パソコン少年の先生でした。この時期の先生は超売れっ子マンガ家だったので、相当無理をして時間を割いてくれたのだと思います。黎明期のパソコン業界ですがや先生のような方が未来に種を撒いてくれたからこそ、現在の自分があるのだと改めて感じました。。
先生の情熱は冷めることなく現在でも様々なIT関係の入門書を執筆されています。その姿を見るたびに、自分もその背中を追い続けたいと思うのでした。
こんにちはマイコンは長らく高額の中古でしか入手する方法がなかったのですが、待望の電子書籍版が発売されました。お値段も安いので是非買いましょう!